第148回 顧客情報を収集するためには”聞く”でなく”聞き出す”力が必要

課題解決型営業や戦略営業では顧客情報の収集は大切。しかし、顧客の課題や予算、決裁者の意向や競合の情報……なかなか聞いてこられない、教えてもらえない。営業で顧客の情報を収集するためには“聞く”ではなく、“聞き出す”力が必要です。今回はさまざまな顧客の情報を聞き出す力についてご紹介します。

顧客情報を収集するためには”聞く”でなく”聞き出す”力が必要

営業はお客さんの情報があればあるほど成果の上がる仕事。

お客さんの課題、予算、決裁者の意向、コンペのときの競合会社の情報、……
お客さんの情報があればあるほど、より良い提案や対策を考えられ売上の上がる仕事です。

しかし、なかなか教えてもらえない。

事務所の引っ越しを検討している営業先での事例

オフィス家具メーカーのセント製作所の営業担当Aさんがお客さんのリーディングジャパンと打ち合わせしていました。

リーディングジャパンの総務担当Bさん
「来年に本社を移転するんです」
「コロナ禍以降、働き方もずいぶんと変わりましたので、レイアウトからデスクなどの家具まで全て変えようと思っているんです」

営業担当Aさん
「そうなんですか」
「当社では大手製造業様との取引実績も多くありますので、ぜひご協力させてください」

Bさん
「そうですか、他のオフィス家具メーカーさんにもお声がけしているんですが、御社もよろしければお願いします」

Aさん
「移転先はどちらになるんですか?」
と移転先の場所やフロアの広さ、組織や社員数、社員の働き方など必要な情報を聞いた後……

Aさん
「最近は、フリーアドレスやカフェスペース、個室などさまざまな環境を作って、社員それぞれの働き方に合わせた自由度の高いレイアウトが増えているみたいです」
「ただ、組織のマネジメントがしにくくなると言う企業様もいらっしゃいますけど、御社ではどういうレイアウトをお考えですか?」

Bさん
「そうですね、フリーアドレスの会社が多いみたいですけど、どういうレイアウトがうちの会社に合うのか数社の提案を聞いた後に考えようと思っています」

Aさん
「そうですか……」
「ご予算はどのくらいですか?」

Bさん
「予算も提案を聞いた後に考えようと思っているんです」

Aさん
「分かりました、概案にはなりますが複数パターンを考えてご提案させていただきます」

と言ってAさんは会社に戻り、設計部と一緒に3パターンの提案書を作成しました。
そして3週間後にリーディングジャパンに提案しました。

提案して2週間後に電話してみると……

リーディングジャパンの総務担当Bさん
「他の会社にお願いすることになったんです」
「御社には3パターンも提案していただいたのに、すみません」

営業担当Aさん
「そうですか、他社さんを選んだ理由を聞いてもいいですか?」

Bさん
「他の会社の方が当社の要望に対して具体的に考えられていたんです」
「当社では自動化の開発を強化していますので、営業と技術との連携は重要なんですよ」
「営業と技術は近くにいて気軽に相談できる環境が必要ですから、営業部と技術部の席を固定して近くにしたいと思っているんです」

Aさん
「価格は当社の方が高かったんですか?」

Bさん
「決して御社が高いってわけじゃないと思うんですけど……」
「今回の本社の移転以外に3年間で関東に八つある拠点も集約していく予定なんです」
「大掛かりな拠点の再編で費用が膨らんでしまいますので、5,000万円に抑えたかったんです」

Aさんは電話を切った後……
えっ、レイアウトの要望は決まっていたの? 予算は決まっていたの?
レイアウトも予算も提案を聞いた後に考えるって言っていたじゃないか。なんで決まっていたのに教えてくれなかったんだよ!

なぜ、Aさんはレイアウトの要望や予算を教えてもらえなかったのでしょうか?
みなさんも考えてみてください。

教えられない情報、教えたくない情報、教えにくい情報をどう聞き出すか

営業では、お客さんから教えてもらえない、教えてもらいにくい情報がたくさんあります。
明確になっていない課題や要望、予算や決裁者の意向、コンペのときの競合会社の情報、……

お客さんの立場で考えると、教えられない情報、教えたくない情報、教えにくい情報はたくさんあります。
明確になっていないことや知らない決裁者の意向は教えられない。
予算など言わない方が得するかもしれない情報は教えたくない。
コンペのときの競合会社の情報など内情は教えにくい。

例えば……

「自動化の開発を強化しているので営業と技術との連携は重要」「営業と技術は近くにいて気軽に相談できる環境が必要」と思っているけど、「営業部と技術部の席を固定して近くにしたい」というレイアウトの要望は明確に決まっていないので教えられない。

「本社の移転以外に3年間で関東に八つある拠点も集約していく予定」「大掛かりな拠点の再編で費用が膨らんでしまう」という状況で、「5,000万円に抑えたい」という予算を言わなければ、Aさんがもっと安い価格で提案してくるかもしれないので教えたくない。

お客さんにとって、教えられない情報、教えたくない情報、教えにくい情報は、直接的に聞いても教えてもらえません。

「どういうレイアウトをお考えですか?」「ご予算はどのくらいですか?」

では、下の(1)~(4)の情報はいかがでしょうか?

  1. 自動化の開発を強化しているので営業と技術との連携は重要
  2. 営業と技術は近くにいて気軽に相談できる環境が必要
  3. 本社の移転以外に3年間で関東に八つある拠点も集約していく予定
  4. 大掛かりな拠点の再編で費用が膨らんでしまう

(1)と(2)は事実であり、分かっていることなので教えられる。
(3)と(4)は言っても損得には関係ないので教えても問題ない。

そして、この(1)と(2)はレイアウトの要望の原因であり、(3)と(4)は予算の背景です。

聞きたいことの原因や背景の会話から聞き出す

「自動化の開発を強化しているので営業と技術との連携は重要」→「営業と技術は近くにいて気軽に相談できる環境が必要」
リーディングジャパンでは、この原因からレイアウトの要望を考えているのです。

また、「本社の移転以外に3年間で関東に八つある拠点も集約していく予定」→「大掛かりな拠点の再編で費用が膨らんでしまう」
リーディングジャパンでは、この背景を考慮して今回の予算を考えているのです。

この聞きたいことの原因や背景の会話→聞きたいことを聞き出す……これが聞き出す力の基本です。

お客さんにとって、教えられない情報、教えたくない情報、教えにくい情報を教えてもらうためには、直接的に質問して聞くのではなく、自分が聞きたいことの原因や背景であり相手にとって教えられる、教えても問題ないことについて会話し、聞きたいことを相手が話しやすい、話してしまう流れを作り聞き出すのです。

「自動化の開発を強化しているので営業と技術との連携は重要」→「営業と技術は近くにいて気軽に相談できる環境が必要」
→そのためにはどのようなレイアウトが良いのか?
という会話の流れで「営業部と技術部の席を固定して近くにしたい」を相手が話しやすくなる。

「本社の移転以外に3年間で関東に八つある拠点も集約していく予定」→「大掛かりな拠点の再編で費用が膨らんでしまう」
→そうすると予算をどのくらいとれるのか?
という会話の流れで「予算を5,000万円に抑えたい」を相手が話してしまう。

営業はお客さんの情報があればあるほど、より良い提案や対策を考えられ売上の上がる仕事です。
しかし、営業にとって聞きたい情報の大半は、お客さんにとって、教えられない情報、教えたくない情報、教えにくい情報です。

お客さんにとって、教えられない情報、教えたくない情報、教えにくい情報は直接的な質問では教えてもらえません。

お客さんの情報をより多く集めるためには、直接的に質問するばかりでなく、聞きたいことの原因や背景の会話から聞き出しましょう。

聞き出す力を強化する方法……詳しくは、

「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス

次回は10月20日(月)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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