第149回 部門間の協力を促進するためは役割やミッションを考えずに目的を考える

変化する市場環境に対して会社も変わっていかなければならない。しかし、会社を変えるための戦略や改革が進まない。その原因の一つが部門間の協力です。新規事業の推進、働き方の改革、コンプライアンスの強化……営業部や技術部、人事部など部門間の協力なくして進められません。今回は戦略や改革を進めるための組織内の協力や連携についてご紹介します。

部門間の協力を促進するためは役割やミッションを考えずに目的を考える

新規マーケットの拡大、新規事業や新商品の推進、働き方の改革、コンプライアンスの強化……変化する市場に対応するためには、会社の変化が必要。そして会社が変化するためには、営業部や技術部、販売促進部、人事部……部門間の協力は不可欠です。会社が一丸となって変化していかなければ、乗り遅れる、ついていけなくなる。
しかし、実際にはなかなか協力してもらえない。技術部が対応してくれない、販売促進部や人事部が協力してくれない、経営陣が理解してくれない……
多くの会社で悩んでいることです。みなさんの会社はいかがでしょうか?

会社全体で中期計画を作成したが

広告会社のセントプロモーションでは変化する市場環境に対応していくために中期計画を作成しました。

セントプロモーションの市場環境は、
「ノーコードのホームページ制作ソフトが増えているので、3年後は誰でもホームページを作れるようになる」
「現在の中小企業向けのホームページ制作ビジネスばかりでは3年後の売上が厳しくなる」

セントプロモーションの方針は、
数社で実績のある問い合わせ顧客を管理する「リード管理サービス」を拡大して……
「3年後に向けて、中小企業向けホームページ制作から脱却し、大手企業向けのCRMビジネスを拡大していく」

そして、会社の方針に対して営業部のミッションは、
「新規開拓営業を進め、大手企業の取引先を獲得する」

Web制作を担当している企画部のミッションは、
「CRMサービスの開発力と提案力を強化する」

営業部も企画部も自分たちのミッションを実現しようと計画を策定し、新たな期がスタートしました。

営業部では、新規開拓営業を進めるために

  • 業界別の大手企業ターゲットリストに対し営業担当者がテレアポ
  • 展示会に出展し来場者にアプローチ
  • 見込み案件を獲得したら企画部に同行してもらい提案

そして、半年後の進捗(しんちょく)……
30件も新規のお客さんに訪問したのに見込み案件が1件だけ。

マネージャーに理由を聞いてみると……

  • リード管理サービスはほとんどの大手企業が既に導入している
  • 大手企業に訪問してニーズを聞くとAIを求めてくることが多い
  • 企画部に相談してもAIの経験がないから無理と言って協力してくれない

営業部長Aさんは、企画部長Bさんに相談することにしました。

営業部長Aさん
「企画部でAIに取り組んでくれませんか?」
「30件も訪問したけど大手企業のほとんどがAIを求めていて……」

企画部長Bさん
「AIは無理ですよ、全く経験がないしAIの知識がないから」
「それに、リード管理サービスの案件をとってくるのが営業部の仕事でしょう」

Aさん
「リード管理サービスは、ほとんどの大手企業が既に導入していますし、大手企業を獲得するためにはAIの取り組みが必要なんですよ」

Bさん
「うちは5人しかいないから無理ですよ」
「それに、うちの会社はAIの経験がありませんし、いきなり取り組めって言われても難しいですよ」

Aさん
「CRMサービスの開発は企画部の仕事でしょう」

Bさん
「うーん……」
「そうしたら、営業部でお客さんの声から業界別のニーズをまとめてもらえないですか?」

Aさん
「業界別のニーズをまとめるって?」

Bさん
「業界別にAIに対して何を求めているか、AIを使って何をしたいかとか、AIに取り組むなら業界別のニーズが分からないと」
「それに、業界別のニーズはCRMサービスの提案力強化にも必要なので」

Aさん
「CRMサービスの提案力強化は企画部の仕事でしょう」
「営業部は大手企業への新規開拓営業で余裕がないですよ」

結局、
Aさんは、AIの取り組みに関して企画部に協力してもらえませんでした。
Bさんは、業界別ニーズの収集に関して営業部に協力してもらえませんでした。

1年後、セントプロモーションでは、
営業部では、AIに対応できず、大手企業の獲得が進みませんでした。
技術部では、業界別のニーズが分からず、CRMサービスの提案力強化が進みませんでした。

その結果、セントプロモーションでは中小企業向けのホームページ制作ばかり……

なぜお互い必要なことなのに協力することができなかったのか

営業部が大手企業を獲得するために、企画部が協力してAIに取り組む。
企画部がCRMサービスの提案力を強化するために、営業部が協力して業界別のニーズを収集する。

なぜ、協力してくれないのでしょうか? 両方とも必要なことなのに……
みなさんもAさんとBさんの会話から何が良くないのか考えてみてください。

協力は、自分の役割(ミッション)ではなく、共通の目的(会社の方針)を考えると生まれます。逆に、共通の目的(会社の方針)を考えずに、自分の役割(ミッション)ばかり考えるとあつれきが生まれます。

  • 営業部も企画部も目的は会社の方針である「大手企業向けのCRMビジネスを拡大していく」
  • 目的に対する営業部の役割は「大手企業の取引先を獲得する」
  • 目的に対する企画部の役割は「CRMサービスの提案力を強化する」

営業部長Aさんも企画部長Bさんも目的(会社の方針)を考えずに、自分の役割(ミッション)ばかり考えていました。

Aさんも「大手企業を獲得するためには、AIの取り組みが必要なんです」
Bさんも「業界別のニーズを収集してもらえないですか?」「CRMサービスの提案力強化にも必要なので」
目的のためではなく、自分の役割のためにお願いしています。

Bさんも「リード管理サービスの案件をとってくるのが営業部の仕事でしょう」
Aさんも「CRMサービスの開発は企画部の仕事でしょう」「CRMサービスの提案力強化は企画部の仕事でしょう」

目的を考えずに、相手の役割としか考えていません。反対に、自分の役割を考えずに、目的について考えたらどうなっていたでしょう?

AさんとBさんが「大手企業の取引先を獲得する」「CRMサービスの提案力を強化する」という役割を考えずに、会社にとって必要なことを一緒に考えていたら……営業部長AさんもBさんと一緒に「どうしたら企画部がAIに取り組めるのか?」「どうしたら企画部がCRMサービスの提案力を強化できるのか?」
企画部長BさんもAさんと一緒に「どうしたら営業部がお客さんのAIの話に対応できるのか?」

もしかしたら……
営業部長AさんはAIの経験と知識がない企画部のために、人脈を生かしてAIに詳しい人を探して勉強会をお願いしていたかもしれません。企画部が営業部のために、仕事量を調整してお客さんの訪問に同行していたかもしれません。会社の方針のために営業部と企画部がお互い協力し合っていたかもしれません。

役割を忘れて目的のために考えて話し合うこと

会社の組織が大きくなり、人が増えるほど、会社の目的に対する意識が低くなり、組織や人に与えられた役割ばかり考えてしまいがちです。その結果、多くの会社で部門間の協力が障壁になり、戦略や改革が進まずさまざまな損失が発生しています。

  • 新規事業や新商品の開発・販売が進まず、変化する市場に対応できない。
  • 営業組織や営業社員の能力が上がらず、マーケットを拡大できない、売上が上がらない。
  • コンプライアンスや品質の強化が進まず、トラブル対応の仕事が減らない、損失が発生。

……

みなさんの会社ではいかがでしょうか? その結果、どのくらいの損失が発生しているでしょうか?

セントプロモーションでもCRMビジネスの拡大が1年間全く進みませんでした。この1年間で大手企業の獲得に費やした営業部の人件費、大手企業の獲得が進まなかったことによる2年後、3年後の売上の損失
……どのくらいでしょう?

CRMサービスの提案力強化が進まなかったことによる失注、CRMサービスの開発が進まなかったことによる2年後、3年後の損失
……どのくらいでしょう?

新規事業や新商品の営業、営業戦略の推進、営業組織の強化や改革……いずれも営業部単独で進めることが難しく、他の部門の協力は不可欠です。目的を考えると協力が生まれる、役割を考えるとあつれきが生まれる。自分の役割ばかり考えるのではなく、役割を忘れて目的である会社の方針を考えて話し合いましょう。目的に対する話し合いが、他の部門や人との協力を生み、戦略や改革を進めやすくするのです。
あつれきによっていがみ合い、我慢して仕事をするより、一緒に考えて、協力し合って仕事をした方が楽しくないですか?

部門間の協力を促進する方法……詳しくは、

「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス

次回は11月17日(月)更新予定です。

今月のクイズ(営業のクイズ)

戦略・計画

あなたは営業マネージャーです。「今期は新規顧客への提案を強化する」という方針で1年がスタート。
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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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