第139回 BANTCの使い方……決裁者が「誰か」を把握しても意味がない

法人営業では、決裁者や関係者、予算やニーズ、時期、競合を考えて対策や戦略を考えなければなりません。そのため、BANTCでお客さんを把握しようとしている会社が増えてきています。しかし、対策を考えられない、戦略が短絡的……。今回は、BANTCを把握して対策を考えるために必要なことをご紹介します。

BANTCの使い方……決裁者が「誰か」を把握しても意味がない

最近、BANTCというフレームでお客さんを把握するよう指導している会社も増えてきています。

BANTC

  • 予算(Budget)
  • 決裁権(Authority)
  • 必要性(Needs)
  • 時期(Timing)
  • 競合(Competitor)

予算や決裁者、ニーズ、導入時期や競合……営業として売上を上げるために全て必要な情報です。
しかし、BANTCを把握すれば本当に売上が上がるのでしょうか?

求人サイトを運営している企業の場合

求人サイトを運営しているセントコーポレーションでは、営業部長Aさんが悩んでいました。
「うちのサイトは技術営業の採用に強いという特長があるので引き合いは多いけど、営業のクロージング力が弱い」

下期に入り、AさんとマネージャーBさんが対策についてミーティング。

営業部長Aさん
「セミナーの開催やプロモーションの改善のおかげで引き合いが増えているのに売上が伸びていない」
「なんで売上が伸びていないんだ?」

マネージャーBさん
「うちの営業は訪問先で予算も決裁者も聞いてこないので、手が打てないんですよ」

Aさん
「なんで聞いてこないの?」

Bさん
「毎回、聞いてくるように指導しているんですけど、聞くことが多くて忘れてしまうみたいで」

Aさん
「予算や決裁者を聞いてくるなんて、営業として当たり前のことだろう」

Bさん
「そうなんですけど、求める人材や仕事内容、組織体制、今までの採用状況、今後の計画とか聞くことがたくさんありますので」

Aさん
「だったら、ちゃんと体系的に管理しないといけないんじゃないか?」

Bさん
「そうですね。でもどうやって?」

Aさん
「BANTCって知ってる?」

Bさん
「いや、聞いたことはあるんですけど」

Aさん
「予算(Budget)、決裁権(Authority)、必要性(Needs)、時期(Timing)、競合(Competitor)の五つで、営業が売上を上げるために把握しないといけないこと」
「BANTCについて指導して、管理表を作って訪問後に登録させるようにすると聞いてくるようになるんじゃないか?」

Bさん
「分かりました。やってみます」

BさんはBANTCを登録する案件管理シートを作成し、営業担当者に聞いてくるよう指導しました。

ある日、営業担当Cさんがお客さんを訪問し、訪問後にマネージャーBさんに報告していました。

営業担当Cさん
「設備機器メーカーのリーディングテクノロジーに行ってきました」

Bさん
「どうだった?」

Cさん
「うちの求人サイトに興味は持っているんですが、今期は予算がないので厳しいと思います」

Bさん
「決裁者は誰なの?」

Cさん
「営業社員を採用したいみたいで、最終的には営業本部長が判断するみたいです」
「ただ、人事部が担当しているからって言われて会わせてもらえませんでした」

Bさん
「営業本部で採用を進めているんだから予算はあるんじゃないの?」

Cさん
「今まで取引していた競合のヒューマンポータルの求人サイトに既に掲載していて、予算を使ってしまったみたいです」
「今期中に新規開拓営業経験のある営業社員を2人採用するために、既に採用活動は進めていたみたいです」

結局、リーディングテクノロジーから受注できませんでした。

BANTCを聞いたのになぜ受注できなかったのか

ここで、みなさんに問題です。
BANTCを聞いてきたのに、なぜ受注できなかったのでしょうか?

CさんはちゃんとBANTCを聞いていました。

  • 予算(Budget):既に他社の求人サイトに使ってしまったので予算はない。
  • 決裁権(Authority):営業本部長、ただ人事部が担当しているから会わせてもらえない。
  • 必要性(Needs):新規開拓営業経験のある営業社員を2人採用したい。
  • 時期(Timing):既に求人サイトは掲載していて、今期中に採用したい。
  • 競合(Competitor):今まで取引していたヒューマンポータルの求人サイトに既に掲載。

BANTCを聞いても意味がないのでは……
可能性や受注確度を判断するためには参考になりそうな気がするけれど、受注にならない、売上にならない。

受注できない言い訳のため?
正確な受注確度を把握して上司や会社に報告するため?
可能性が低いお客さんを判断して無駄な営業をやめるため?

しかし、言い訳しても、報告しても、無駄な営業をやめても……受注や売上にはつながらない。
では、なぜBANTCは売上を上げるために必要なのでしょうか?

BANTCは、ネガティブなこと(受注の障壁)の対策を考えることに意味があるのです。
しかし、「決裁者が営業本部長」と聞いただけでどのような対策が考えられるでしょうか?

「ご紹介してもらえませんか」とお願いする。
しかし「人事部が担当している」と断られて、おしまい。

「営業本部長が何を重視しているか」を聞いて提案を考える。
そもそも「何を重視しているか」は担当者が聞いて既に要求していること……あらためて聞いても意味がない。

対策を考えるためには、BANTCそのものを把握するだけでなく、BANTCの背景を把握することが大切です。
予算(Budget)の背景、決裁権(Authority)の背景、必要性(Needs)の背景、時期(Timing)の背景、競合(Competitor)の背景。

対策を考えるためには、決裁者が営業本部長であることを把握するだけでなく、営業本部長の背景を把握しなくてはなりません。
……営業本部長のミッションや悩んでいること。

リーディングテクノロジーは、取引先が海外に移転して減ってしまい、新たにお客さんを獲得しないといけない。
そして、今までの製品では差別化できないため、製品である設備と一緒に設備の稼働情報を収集できるシステムの提案を進めていました。
また、受注するためには技術的な提案のために人手不足で忙しい技術部との連携が必要になっていました。

決裁者である営業本部長の背景は、

  • 取引先が減って新たにお客さんを獲得しないといけない。
  • 今までと異なり、システムの提案を進める必要がある。
  • 提案では、人手不足で忙しい技術部との連携が必要。

この背景を把握することができれば……
「新規開拓営業の経験だけではなく、システム提案の経験も必要」と提案し、技術営業の採用に強い求人サイトが必要と説得できるかもしれません。
営業本部長の背景を把握していれば、対策を考え受注できたかもしれません。

BANTCを把握して対策を考えるために

担当者の上司、決裁者、商品を利用する現場……
お客さんの中では、商品の購入を判断するためにさまざまな人が関係しています。
商品の購入判断に対し、さまざまな人が賛成したり、反対したり、意見を言ったりしています。

お客さんから受注を獲得できないのは、お客さんの中でさまざまな人の賛成、反対、意見を商品の購入を判断するという結論にまとめられないからです。

営業として受注したいのなら、このさまざまな人の賛成、反対、意見を商品の購入を判断するという結論に導かなくてはなりません。つまり、商品の購入判断に関係するさまざまな人の説得が必要。
しかし、決裁者やキーマンをおさえて営業しようとしても「誰、裁量、判断基準、決裁ルート」しか把握していない営業が多く見受けられます。

「決裁者は誰か、決裁者が何て言っているのか」だけを把握しても対策を考えられません。
結局、買ってくれるのを待つだけ、お願いするばかりの営業になってしまいます。説得できません。

お客さんを説得し受注を獲得するためには、決裁権(誰、裁量、判断基準、決裁ルート)を把握するだけではなく、決裁者を含む購入に関係する一人一人の背景を把握しましょう。
背景を把握することで説得するための対策を考えることができるのです。

決裁者を含む購入に関係する一人一人のミッションや悩み、主義や思考、組織での立ち位置や力関係……
決裁権を把握すること自体に価値があるのではなく、把握した決裁権から対策を考えてはじめて価値があるのです。
「決裁者は誰か、決裁者が何て言っているのか」を把握しても、営業活動で使わない、使えない(対策を考えない)のであれば把握した意味がありません。

BANTCの使い方と決裁者を説得する方法は……

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次回は12月16日(月)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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