第109回 仮説思考力は「教える」ではなく「想像させる、発言させる」

最近、仮説思考力を強化しようとしている営業部が増えています。ご案内営業や御用聞き営業から提案営業や課題解決型営業、戦略営業に変えるために。しかし、なかなか仮説を考えられない。仮説思考力は教えてもらい理解する力ではありません。想像し、考える力です。今回は今日の営業にとって必要な仮説思考力の指導方法についてお話しします。

仮説思考力は「教える」ではなく「想像させる、発言させる」

お客さんの状況や課題を考えて提案する課題解決型営業、お客さんの決裁者の考えや予算を考えて受注を獲得する方法を考える戦略営業。
いずれもお客さんの情報を把握して行う営業です。

しかし、お客さんの状況や課題も決裁者の考えや予算のことも、お客さんに聞いても全ては教えてもらえない……。
というより教えてもらえないことの方が多い……。

この課題解決型営業や戦略営業には、聞いても教えてもらえないお客さんのことを想定する仮説思考力が必要です。

しかし、お客さんの仮説を考えることはなかなか難しい。仮の説を想像し、考える仮説思考力を身に付けさせるためにはどうしたらよいのでしょうか。

仮説提案型の営業に取り組む、ある会社の一場面

ある会社の営業部で仮説提案に取り組んでいました。
ご案内営業や御用聞き営業から、仮説を考えて提案する営業に変えようとして。

そしてある日、営業担当Aさんが営業部長Bさんに相談していました。

営業担当Aさん
「飲食店を経営しているセントコーポレーションの仮説提案を考えたので相談したいのですが」

営業部長Bさん
「いいよ、どんな仮説を考えたの?」

Aさん
「今まで駅周辺のお店が多かったんですが、昨年から郊外の出店を増やしているみたいです」
「そうすると客層が変わるのでメニュー改善が必要になると思うんですけど」
「だから来店者分析のニーズがあるんじゃないかと思いまして」

Bさん
「そうなの? なんで郊外の出店を増やしているの?」

Aさん
「在宅勤務が広がったから郊外に出店しないとお客さんが入らないと思うんです」

Bさん
「お客さんに確認した?」

Aさん
「いえ、まだ聞いていません」

Bさん
「聞いてこいよ、なんで聞かないの?」
「セントコーポレーションは3年前から郊外に出店しているよ。だからテレワークが広がったからじゃなくて駅周辺の競争が激しいからだよ」

Aさん
「そうだったんですか」
「客層が変わっていると思うのでメニューの改善で来店分析のニーズがあると思うのですが」

Bさん
「お客さんに聞いた?」
「おそらく3年前から郊外に出店しているから、来店者分析なんてすでにやっているよ」

Aさん
「そうなんですか……」

Bさん
「提案したいなら、お客さんに聞いてこいよ」
「メニュー改善が必要か、あと、来店者分析をやっているかも聞いてくるように」
「お客さんのことはお客さんに聞かないと分からないだろう」

Aさん
「分かりました」
「来週に商談が入っているので聞いてきます」

1年後のAさんは、
「お客さんのことはお客さんに聞かないと分からない」
「間違っていることを言うと、否定されてお客さんからの信用をなくすかもしれない」

お客さんの状況や課題を想像せず、お客さんに教えてもらうだけの御用聞き営業になっていました。

なぜAさんは御用聞き営業になってしまったのか

Bさんの指導には仮説思考力を阻害する二つの大きな問題があります。それはなんでしょうか?

仮説とは、ある情報から仮に立てる説であり、実験や検証を通して定説(事実)にするものです。

つまり、仮説とは、間違えている可能性のある説です。
営業活動では、お客さんにぶつけて、その反応で正しい情報を把握するものであり、間違えていてよいものなのです。

また、収集した情報から想像を膨らませ、発展させ何らかの説を考えるものです。
つまり、収集した情報に対し、間違えてもよいので想像を膨らませ、考えを発展させることが大切なのです。

営業部長Bさんの指導はどうだったでしょうか?

問題点の一つ目「なんでも聞きに行かせる」

Aさんは、
「昨年から郊外の出店を増やしている」という情報から、「客層が変わる」「メニュー改善が必要になる」と想定し、「来店者分析のニーズがあるんじゃないか」という仮説を考えようとしていました。

このAさんに対してBさんは、
「なんで郊外の出店を増やしているの?」「お客さんに確認した?」「聞いてこいよ、なんで聞かないの?」
と全てお客さんに聞きに行かせようとしています。想像させるのではなく……。

揚げ句の果てに、
「お客さんのことはお客さんに聞かないと分からないだろう」
と想像することをやめさせる指導をしています。

問題点の二つ目「否定する、教える」

「来店者分析なんてすでにやっているよ」
とAさんが考えた仮説を否定しています。

そして、
「3年前から郊外に出店しているよ。だからテレワークが広がったからじゃなくて駅周辺の競争が激しいからだよ」
と答えを教えています。

その結果、Aさんは想像すること、考えることをやめてしまいました。

仮説思考力を身に付けさせるためには、否定するのではなく想像させ、考えさせなければなりません。

「来店者分析なんてすでにやっているよ」と否定するのではなく、
「来店者分析か……何に必要なのかな?」と想像させ考えさせる。

「テレワークが広がったからじゃなくて駅周辺の競争が激しいからだよ」と教えるのではなく、
「確かに、テレワークが広がると駅前店舗は厳しいだろうな。でも、その前から郊外に出店しているだろう。なんでだろう?」と想像させ、考えさせる。

そもそも、仮説とは間違っていてよい説です。
間違っていてもよいので想像する、考えることが大切なのです。

正確性にこだわり、間違っていることを否定する、教えてしまうという指導が多く見受けられます。

効率化や短期間、短時間で成果を上げることにこだわりすぎて、手っ取り早く「教える、聞きに行かせる」指導ばかりになり、「想像させ、考えさせる」指導が減っています。

その結果……

自分で考えても間違えている。
間違ったことを言うと否定される、(お客さんから)信用をなくす。
自分で考えなくても教えてもらえる。

今日の営業に必要な仮説思考力を身に付けるには

今日の課題解決型営業や戦略営業には仮説思考力が必要です。
教える、聞きに行かせるではなく、間違っていてもよいので想像させ、発言させましょう。

仮説思考力を身に付けさせるための指導方法は……
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次回は6月20日(月)更新予定です。

今月のクイズ(営業のクイズ)

ヒアリング
あなたはWebサイトの営業です。
お客さんに100万円で提案したら70万円しか予算がないとのこと。上司に相談したら「ちゃんと交渉してこい」
……どうしよう?

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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