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第110回 営業としてのリーダーシップ……顧客と会社をコントロールし合意へ導く力
課題解決型営業は、顧客の課題と自分の会社を結びつけ取り引き(ビジネス)を実現する仕事です。そして、そこには異なる立場のさまざまな人が関わります。今日の営業ではこの立場の異なるさまざまな人をまとめあげ合意へと導くリーダーシップが必要です。今回は営業としてのリーダーシップについてお話しします。
営業としてのリーダーシップ……顧客と会社をコントロールし合意へ導く力
商品の機能とお客さんの要望、商品の価格とお客さんの予算……。
ぴったり合っていたら楽なんだけど、なかなかそうはいかない。
お客さんの担当者、決裁者、現場、自分の会社の上司、技術、企画、経営者……。
それぞれ立場が違うため、要望や条件が異なるのは当たり前です。
今日の営業は、お客さんの言いなりになって値引きをする仕事でも、商品の価格を説明して買ってくれるお客さんを探す仕事でもありません。
それぞれの異なる要望や条件の間に立って、要望や条件をコントロールし合意に導き取引を成立させる仕事です。
Web会議システムの商談風景
ある日、Web会議システムを担当している営業Aさんが、セント商事のBさんと商談していました。
セント商事Bさん
「営業社員向けにWeb会議システムの導入を検討しているんです」
「うちの営業社員は20人いるんですけど、営業会議に使いたくて」
営業Aさん
「そうなんですか、営業会議用に検討されているんですね」
Bさん
「それに、販売代理店向けの商品勉強会もWebで対応しようと思っていて、ウェビナーと録画配信機能も必要なんです」
Aさん
「そうすると、20人分のWeb会議にウェビナーと録画配信機能ですね」
Bさん
「ただ、期初に予算をとっていなくて200万円しかないんです」
Aさん
「そうなんですか」
Bさん
「それに、営業管理システムを共有しながら営業会議を行っているので、営業管理システムとWeb会議をつなげたいんです」
Aさん
「そうすると、Web会議システムを導入するだけじゃなくて、連携するためのシステム開発も必要になりますね」
Bさん
「あと、来期にはグループウェアも刷新して、営業社員だけでなく全社員のテレワーク環境を整備する予定なんです」
Aさん
「そうなんですか、Web会議システムの費用が1人年間10万円だから20人で年間200万円かかるんです」
「それに、ウェビナーと録画配信機能を付けると1人年間15万円になるので、20人で300万円。あと、営業管理システムとの連携の開発費用もかかりますので、ずいぶん高くなってしまうと思うんです」
Bさん
「そうなんですか、今期は予算が厳しくて」
Aさん
「会社に戻って相談してみます」
会社に戻って相談
Aさんは、会社に戻って上司と技術部長に相談……。
Aさん
「セント商事がWeb会議システムを検討しているんですが、20人で利用する予定で、ウェビナーと録画配信機能、それに営業管理システムとの連携の開発も必要になります」
上司
「それで、予算はどのくらいなの?」
Aさん
「期初に予算をとっていなかったので200万円しかないみたいです」
技術部長
「それじゃ無理だろう」
「連携の開発どころか、ウェビナーと録画配信機能も付けられないよ」
Aさん
「でも、うちの会社で来期に営業管理システムをリリースするんですよね」
「セント商事にWeb会議を導入できれば、来期に提案できると思うんですが」
技術部長
「そりゃそうだけど、開発だけで150万円はかかるぞ。200万円じゃ完全に赤字だよ」
「それに、営業管理システムとの連携の開発はやったことがない」
「今期中に営業管理システムを完成して、Web会議システムとの連携は来期に考える予定だから、今期は無理だよ」
上司
「予算がないなら、Web会議の導入だけで検討できないか聞いてみろよ」
「うちが来期に営業管理システムをリリースすることを伝えて、来期にはWeb会議システムと営業管理システムの連携を提案できるって言って」
そして、Aさんはセント商事のBさんに
「今期はご予算的に難しいと思いますので、まずはWeb会議システムの導入だけで検討できませんか?」
Bさん
「営業管理システムとの連携がないと検討できないですよ。営業部長が必要だって言っていますので」
「御社では難しそうなので、他の会社に相談してみます」
結局、Aさんは失注し、来期の全社員200人のWeb会議システム3,000万円とグループウェアの刷新2,000万円の案件も全て競合他社にとられてしまいました。
Aさんはどうすればよかったのでしょうか?
AさんとBさん、Aさんと上司、技術部長の会話から考えてみてください。
提案の落としどころを探る
それぞれの要望や条件は……
お客さん
- 営業社員20人に営業会議で使わせたい
- 販売代理店向けの勉強会に使うため、ウェビナーと録画配信機能が必要
- 営業管理システムとの連携のため開発が必要
- 今期の予算は200万円しかない
自分の会社
- Web会議システム、ウェビナーと録画配信機能が1人年間15万円、20人で300万円
- 営業管理システムとの連携のため開発で150万円
- 合計で、450万円
- 営業系システムの実績がなく今期の開発は難しい
お互いの要望や条件がずれている……。このままでは受注を獲得できません。
お客さんの要望を全部聞いて、会社を説得できるでしょうか? ……おそらく無理。
自分の会社の要望や条件に合わせて、全てをお客さんに説得できるでしょうか? ……こちらもおそらく無理。
例えば、それぞれの要望や条件に対し……
お客さんを調整
- 今期は10人に導入し、営業社員20人の導入は来期に調整=100万円
- ウェビナーと録画配信機能を今期ではなく来期に調整=0円
- 営業管理システムとの連携の開発=150万円
- Web会議システム10人と営業管理システムとの連携の開発で250万円
- 200万円では会社が納得しないので、予算プラス30万円とってもらうよう調整=合計230万円
そして、
自分の会社を調整
- 250万円の価格を20万円値引きし230万円に調整
- 実績がなく難しいと言っている技術部を説得し調整
と、両者を調整できれば受注を獲得できます。
では、どうしたら説得して調整できるでしょうか?
みなさんならどうしますか?
例えば、自分の会社の上司と技術部長を説得
「お客さんの予算から考えると230万円が限界なんです。何とか20万円値引きできませんか?」
「営業管理システムとの連携開発が必要なんです。何とかお願いできませんか?」
「20万円値引きできたら……、連携開発まで対応したら……受注できるんです」
「新規のお客さんだから……、今期の売上目標が足りないから……」
直接的に要望や条件を伝えてお願い、また、自分都合のお願い……。その結果、納得してもらえず苦労している人が多く見受けられます。
ビジョンを明確にして共有する
相手にとって否定的な要望や条件を直接的に伝えてお願いしても否定的なものは否定的、説得するのは難しいでしょう。
その前に、否定を解消するための動機付けが必要です。
お客さんや自分の会社が前向きに進めたいという動機付け。
この前向きに進めたいと動機付けできるものがビジョン。
異なる要望や条件について話す前に、ビジョンを明確にして案件を進めたいと全員が前向きに考えると、要望や条件に対して全員が前向きに考えようとするのです。
自分の会社に対し、要望や条件から話すのではなく……
「来期に営業管理システム見直し案件を獲得できれば、来期にリリースする営業管理システムの実績が作れる」
「セント商事に営業管理システムを導入できれば、ノウハウを蓄積でき、他の会社への提案も促進できる」
そして、
「セント商事の案件は、来年リリースする営業管理システム事業を拡大するための大きなきっかけになる」
お客さんに対しては……
「営業や技術の人たちにとって最適な遠隔での業務環境を実現できれば、拠点を増やさずに海外展開を進められる」
「最適な遠隔での業務環境を確立することが大切。そのために、少人数での仕事内容とWeb会議の使い方の検証が重要」
はじめからお客さんと自分の会社の要望や条件がぴったりあっていることはほとんどありません。
- 商品の機能や技術力とお客さんの要望
- 商品の価格とお客さんの予算
- 納期
など
営業では、この異なる要望や条件の間に立って、双方をコントロールしお互いを合意に導く力が必要です。
お客さんの担当者や決裁者、現場、自分の会社の上司や技術部、企画部……それぞれの立場で異なる見解を持つ人々をコントロールしてまとめあげ導く力であるリーダーシップ。
このリーダーシップでは、異なる見解を持つ人々を同じ方向に向かって前向きにするという動機付けが必要です。
この動機付けを促進するものがビジョン。
さまざまな人の異なる要望や条件を調整し受注を獲得するためには、ビジョンについて会話し共有しましょう。
そのためには、お客さんのビジョン、自分の会社のビジョンを考えて明確にしましょう。
営業としてのリーダーシップの五つの要件「ビジョンの明確化」は……
「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス
次回は7月19日(火)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
ヒアリング
あなたは印刷会社の営業本部長です。
昨年からWebサービスの営業を始めたけど全然受注をとれない。
今期はどうやって営業を強化しよう?