第117回 事実や感想でなく自分なりの意見がお客さんとの相談関係を実現する

課題解決型営業とは、お客さんの悩みを聞き、アドバイス(自分の意見)を伝えながら課題解決を一緒に議論する営業です。しかし、間違えたことを言ってはいけないという無難・安全意識から自分の意見を言わず、議論するどころか要求されるだけの御用聞き営業に……。今回は課題解決型営業に必要な相談関係を実現するための、自分なりの意見についてご紹介します。

事実や感想でなく自分なりの意見がお客さんとの相談関係を実現する

営業活動では、商品を紹介するだけでなく、お客さんの要望に対する提案や調べた情報の提供・成功事例の紹介をしていることでしょう。

では、お客さんに対して自分なりの意見を伝えていますか?

提案や情報提供、事例紹介ではなく、
自分なりに考えた「御社は……した方が良い」「……すべき」という意見。

業務が忙しくなったお客さんに対しての会話

営業担当Aさんが担当するお客さんのパソコン販売会社・セント商事が4月に組織を変更していました。
新規事業であるクラウドサービスの販売を強化するための組織変更。

Aさんは組織変更が落ち着いた頃だろうと思い、6月にセント商事の販売推進担当Bさんを訪問。

営業担当Aさん
「今期はずいぶんと大きく組織が変わりましたね」
「販売推進部も営業本部内にあったのに新規事業本部に移ったみたいですね」

販売推進担当Bさん
「そうなんです。新規事業のプロモーションを強化しようということで移ったんですよ」
「今まで担当していた既存事業のプロモーションを兼務しながら新規事業も担当することになりまして」

Aさん
「そうなんですか、大変ですね」
「今までも担当商品が多くてお忙しかったのに、新規事業のプロモーションまで加わると大変じゃないですか?」

Bさん
「大変ですよ。販売推進部は人が足りないから兼務しなくちゃいけなくて」
「それに、新商品の企画会議まで入らないといけなくなって……」

Aさん
「本当ですか、それは大変ですね」
「新規事業ってクラウドサービスですよね、今までプロモーションはWebサイト中心だったようですけど、他の施策も取り組んでいくんですか?」

Bさん
「そうなんです、展示会の出展も企画しなくちゃいけないし」

Aさん
「さらにお忙しくなりそうですね」

Bさん
「うちは人が足りないからしょうがないですよ」

一応、Bさんとの会話は成り立っているようですが……。

会話に自分の意見を織り交ぜる

競合他社の営業担当Cさんが、同じ時期に販売推進担当Bさんを訪問していました。

営業担当Cさん
「今期はずいぶんと大きく組織が変わりましたね」
「販売推進部も営業本部内にあったのに新規事業本部に移ったみたいですね」

販売推進担当Bさん
「そうなんです。新規事業のプロモーションを強化しようということで移ったんですよ」
「今まで担当していた既存事業のプロモーションを兼務しながら新規事業も担当することになりまして」

Cさん
「そうなんですか、大変ですね」
「今までも担当商品が多くてお忙しかったのに、新規事業のプロモーションまで加わると大変じゃないですか?」

Bさん
「大変ですよ。販売推進部は人が足りないから兼務しなくちゃいけなくて」
「それに、新商品の企画会議まで入らないといけなくなって……」

ここまではAさんと変わらないのですが、ここからCさんは……。

Cさん
「そうなんですか、新商品の企画とプロモーションも担当されるんですね」

Bさん
「営業に近い立場として新商品の企画にもかかわらないといけなくて」

Cさん
「そうなんですか、御社ではクラウドサービスビジネスにシフトしようとしているので、かなり重要なミッションですよね」
「クラウドサービスに専念した方がいいんじゃないですか?」
「兼務していると、できる施策が限られちゃいますよね?」

Bさん
「そうなんですけど、人がいないから私がやらないといけなくて」
「確かに、Webサイトと展示会だけじゃ計画を達成できないんですけど」

Cさん
「そういえば、以前、販売推進部は人を増やしてもらえないっておっしゃっていましたね」

Bさん
「そうなんですよ」

Cさん
「クラウドサービスを進めるならWebサイトや展示会だけじゃなくて、マーケティングオートメーションやSNSも進めた方がいいと思うんですけど」

Bさん
「そうですよね、競合のアドバイスカンパニーさんなんて展示会とセミナー、メルマガ、SNSを連動させて進めていますからね」

Cさん
「そうですよね、御社も来期には施策を広げないといけないですよね」
「今から展示会で回収するアンケートの来場者データを分析して、来期のプロモーション施策を検討できるように考えた方がいいんじゃないですか?」

Bさん
「それは、以前からやっているんですよ」
「業界や規模別に来場者の声を収集して、企画部が業界別サービスを検討しているみたいです」

Cさん
「そうなんですか、ちゃんと来場者データを活用されているんですね」
「アンケートで『興味のあるなし』や『説明を聞きたいか否か』しかとっていなくて、実際、営業リストにしか使っていない会社が多いみたいですよ」

Bさん
「それはもったいないですよね」
「展示会って商品の認知度を高めるだけじゃなくて、直接お客さんの声を集められる場でしょ?」

Cさん
「本当にもったいないですよ」
「でも、実際には多くの来場者に商品を紹介することしか考えていない会社が多いですよ」
「あれだけ多くのお客さんとの接点を持てる場って他にないんですけどね」

Bさん
「でも、うちも商品企画には使っているけど、プロモーションには使えていないですね」
「今まではWebサイト中心だったからよかったけど、これからは他の施策を考えないといけないし」

Cさん
「そうですか、来場者データはプロモーションの検討にも使えると思いますよ」
「部署や役職、来場目的、現在の情報収集方法やニーズなどの情報を集められますから」

Bさん
「確かに」
「それに、分析結果は上層部への新規プロモーション投資や増員の説得材料にもなるだろうな……」

Bさん
「でも、どういうアンケートならプロモーションに生かせるんですかね?」

Cさん
「うちの会社のマーケティング部に聞いてみましょうか?」

Bさん
「そうですか、お願いできますか?」
「アンケートの改善とか活用なら、人がいない今の体制でもできますし」

“自分なりの意見”が会話を最も盛り上げる

AさんとCさんの会話を比べて振り返ってみてください。
みなさんのお客さんとの会話はAさんとCさんのどちらのパターン?

Aさんの会話は、
「既存事業と新規事業のプロモーション、新商品の企画を兼務することになり大変」「人が足りないからしょうがない」とBさんに対する共感の会話が進んでいますが、共感して終了。

Cさんの会話は共感で終わらず、
来場者データの分析やプロモーションの検討、上層部への説得材料など、Bさんと課題(悩み)や解決策(アドバイス)の議論まで会話が進んでいます。

この差が生まれるのは、なぜ?

一般的に会話は下の四つから成り立っています。

「事実」「質問」「感想」「意見」

Aさんとの差が出たきっかけは、Cさんが会話の途中で“自分なりの意見”を差し込んだこと。
「クラウドサービスに専念した方がいいんじゃないですか?」

AさんとCさんの一つ一つの会話に対し事実、質問、感想、意見のどれに該当するか確認してみてください。

Aさんの会話は事実、質問、感想だけ。
「販売推進部も営業本部内にあったのに新規事業本部に移った」……事実
「他の施策も取り組んでいくんですか?」」……質問
「そうなんですか、大変ですね」「さらにお忙しくなりそうですね」……感想

Cさんは「クラウドサービスに専念した方がいいんじゃないですか?」という“自分なりの意見”を境に事実や感想の会話から、お互いの意見を伝えながら課題(悩み)や解決策(アドバイス)を議論する会話に変わっています。

事実や質問、感想は、相手に対する理解や共感を促進しますが、議論を促進するものではありません。

相談関係とは、相手に悩みを言ってもらいアドバイスをする関係です。
理解する、されるだけの関係でも、共感するだけの関係でもなく、課題や解決策を議論する関係です。

この議論を促進するためには“自分なりの意見”が必須です。

「インターネットで情報を収集し伝える、上司や先輩から教えてもらい伝える」という事実を伝えるばかり。
「お客さんのことは自分で考えずにお客さんに教えてもらう」という質問ばかり。
「大変ですね、お忙しそうですね、すごいですね」と感想を伝え共感するばかり。

“自分なりの意見”は課題や解決策の議論を促進するものであり、相談関係を構築するために必要なものです。
そして、最も会話を盛り上げるものです。

間違えていてもよいので、お客さんに対し自分なりの意見を考えましょう。
そして、お客さんに自分なりの意見を伝えましょう。

お客さんに“自分なりの意見”を伝えやすくする方法は……

「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス

次回は2月20日(月)更新予定です。

今月のクイズ(営業のクイズ)

コミュニケーション
あなたは求人広告の営業です。
上司から「採用ニーズを聞き出すためにはお客さんの戦略をおさえるんだ」と指導されてお客さんを訪問。
……どうやって聞き出す?

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2月14日(火)「営業改革セミナー」
営業改革、働き方改革、意識改革、教育・指導、オンライン営業、業務効率・生産性

2月17日(金)「課題解決型営業セミナー」
課題解決型営業プロセス、積極提案、顧客課題・提案考察力、商談・提案力、顧客関係力

2月20日(月)「新規開拓営業セミナー」
新規開拓、アプローチ、潜在ニーズ発掘、新規商談・提案・案件獲得、計画・体制

3月3日(金)「営業戦略セミナー」
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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
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