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第137回 顧客情報は“聞く”のではなく仮説の提示か会話で“聞き出す”
「ヒアリングや顧客情報の収集は大切」。課題解決型営業や戦略営業は顧客の情報がなければ成り立たない。そして、顧客の課題や戦略、決裁者の意向、競合の価格……情報があれば有効な提案や対策も考えられ、交渉や説得も楽になる。今回は営業活動で必要なさまざまな顧客の情報を聞き出す方法についてご紹介します。
顧客情報は“聞く”のではなく仮説の提示か会話で“聞き出す”
課題や求めるメリット、予算や決裁者の考え方、競合他社との関係性や競合他社の価格……
営業では、さまざまなお客さんの情報が必要です。
そして、多くの情報を収集すればするほど有効な提案や対策も考えられ、交渉や説得もしやすくなります。
営業は、収集したお客さん情報によって成果が変わる仕事です。
しかし、教えてもらえない……
求人広告の掲載を検討しているという問い合わせが入る
ある日、求人広告会社ヒューマンリーディングに食品商社のセントカンパニーから問い合わせが入りました。
「営業社員の採用で求人広告の掲載を検討しているのでサービスの説明を聞きたい」
1週間後に営業担当Aさんがセントカンパニーを訪問しました。
一通り会社やサービスを説明した後、
Aさん
「営業社員の採用を検討しているとのことですが、どのような人材ですか?」
セントカンパニー人事担当Bさん
「20代後半から30代前半までの営業経験者を採用したいと思っているんです」
Aさん
「そうですか、何人ぐらいの採用をお考えですか?」
Bさん
「5名ぐらいです」
「今までは採用人数が少なかったので、入社したら費用が発生する成果報酬型の人材紹介を利用していたんです。でも今回は5名なので費用対効果を考えて、固定の掲載料で利用できる求人広告を検討していまして」
Aさん
「そうなんですか、5名だと求人広告の方が費用をおさえられますよね」
「求人広告ははじめてとのことですが、他の求人広告会社も検討されているんですか?」
Bさん
「既に3社から話を聞きました」
「その中で決めようと思っています」
Aさん
「そうですか、当社も頑張りますので、ぜひお願いします」
「ご予算ってどのくらいですか?」
Bさん
「他社の話を聞いて考えようと思っています」
「御社の掲載料はどのくらいになりますか?」
Aさん
「2週間の掲載期間で110万円です」
「会社に戻って値引きできないか相談してみますので、よろしくお願いします」
そして、Aさんは会社に戻り上司Cさんに相談しました。
Aさん
「セントカンパニーを訪問してきたんですけど、受注できるかもしれません」
「ただ、コンペなので値引きしたいんですが……」
Cさん
「どのくらい値引きすれば受注できるの?」
Aさん
「……分かりません」
Cさん
「お客さんの予算はどのくらい?」
Aさん
「他社の話を聞いて考えるって言っていたので、まだ決まっていないと思います」
Cさん
「そうしたら、他の3社ってどこなの?」
「競合他社の社名を聞けば価格が分かるから、だいたいの予算を想定できるだろう」
Aさん
「聞いていません」
Cさん
「どこの会社か聞いてみて」
Aさん
「はい、電話して聞いてみます」
Cさん
「それと、来期以降はどうなるの?」
「来期以降も求人広告を使ってくれる可能性があるなら値引きも考えられるけど」
Aさん
「お客さんに聞いてみます」
Cさん
「競合他社はどこか、それと来期以降の可能性をお客さんに聞くように」
すぐにAさんはセントカンパニー人事担当Bさんに電話しました。
Aさん
「先日はありがとうございました」
「上司と値引きの相談をしていまして、2点お聞きしたいのですが」
Bさん
「いいですよ、なんですか?」
Aさん
「既にお話しされている他の3社のお名前をお聞きしてもいいですか?」
Bさん
「社名は言いにくいですけど、1社は大手で2社は中堅ぐらいの会社かな」
Aさん
「ありがとうございます」
「あと、なんで今回は5名も採用するんですか?」
Bさん
「新規事業を進めているので営業部では人が足りないみたいで」
Aさん
「そうなんですか、来期以降の求人広告掲載の可能性はいかがですか?」
Bさん
「まだ分からないなあ、来期の方針が決まっているわけじゃないので」
Aさん
「そうですか、ありがとうございます」
結局、Aさんは競合他社の社名も来期以降の可能性も教えてもらえませんでした。
人事担当の立場で考えてみる
Aさんが聞けたことは、
- 新規事業を進めていて営業部では人が足りない
- 20代後半から30代前半までの営業経験者を5名採用したい
- 競合他社は1社が大手、2社が中堅
聞けなかったことは、
- 予算
- 競合他社3社の社名
- 来期以降の求人広告掲載の可能性
Aさんは、なぜ聞けなかったのでしょうか?
みなさんは、セントカンパニー人事担当Bさんの立場で考えてみてください。
Bさんは、なぜ教えなかったのでしょうか?
実はセントカンパニーでは……
予算について、人事部と営業部で検討しはじめから決まっていました。
予算は5名の採用に対して、2社の求人広告を利用して合計200万円。
しかし、予算を教えたらAさんは10万円を値引きし、100万円で提案するかもしれません。教えなかったら勘ぐって20万円か30万円値引きするかもしれません。
正直に教えると値引き額が下がり損するかもしれません。
競合他社のうち1社は以前から人材紹介を利用している会社でした。
人材紹介を利用しているという理由から定価の130万円から100万円に値引きしてもらっていました。
しかし、値引きすることを他の会社には言わないと約束していました。
そして、その会社とは以前から付き合いで信頼関係があり、約束を破りにくい、つまり他の会社には言いにくい状況でした。
営業部では、今回の求人広告で5名採用できたら来期以降も掲載したいと考えていました。
新規事業が順調に進み今後の拡大が見えてきたため、来期以降はさらに採用人数を増やしていく方針がありました。
しかし、人事部のBさんは知りませんでした。
知らないことは教えられません。
どうしたらAさんは聞くことができたのでしょうか?
質問して“聞く”のではなく、会話の中で“聞き出す”
お客さんの中で明確で言っても問題ない情報は教えてもらえるかもしれませんが、知らない情報や教えにくい情報、教えたことによって損する情報は質問しても教えてもらえません。
これらの情報を収集するためには、
「おそらく……だろう」と思う仮説をぶつけて、仮説に対するお客さんの言葉や表情などの反応で収集する。
雑多なことについて会話しながら自然と言わせる、また会話しながら考えさせ言わせて収集する。
つまり、質問という手段で“聞く”のではなく、仮説の提示か会話という手段で“聞き出す”必要があるのです。
しかし、Aさんは全て質問という手段で教えてもらおうとしていました。
Bさんにとって知らない情報や教えにくい情報、教えたことによって損する情報である「予算」「競合他社3社の社名」「来期以降の求人広告掲載の可能性」は、質問して“聞く”のではなく、仮説の提示か会話という手段で“聞き出す”必要があったのです。
営業活動で必要なお客さんの情報はたくさんあります。
課題、求めるメリット(課題解決の効果)、決裁者の状況や意向、関係者(現場など)の状況や意向、予算、時期や計画、商品購入による現状への影響、方針や戦略との整合性、競合、代替案……そして、これら全ての原因や背景の情報。
これらの情報には、担当者が知らない情報や教えにくい情報、教えたことによって損する情報がたくさんあります。
お客さんの中で明確で言っても問題ない情報はほんのちょっとです。
つまり、質問して“聞く”という手段で収集できる情報はほんのちょっとだけ、ほとんどは仮説の提示か会話という手段で“聞き出す”必要がある情報です。
お客さんの情報は、お客さんに質問して教えてもらう(質問して聞く)という営業の人が多く見受けられます。
みなさんはいかがでしょうか?
営業活動で必要なお客さんの情報を収集するためには聞き出す力が必要です。
より多くのお客さんの情報を収集するために、質問で“聞く”のではなく、“聞き出す”ために仮説を提示、または会話をしましょう。
営業社員に営業戦略を考えさせる方法は……
次回は10月21日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
あなたはWebサイトの営業です。
お客さんとの会話を盛り上げて関係を作りたい。訪問したらお客さんは多くのアンケートデータを集めていた。
……どうやって会話を盛り上げる?
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