第136回 営業戦略は営業社員に説明するのでなく考えさせて理解させる

多くの会社で経営課題や戦略を経営者や上層部が考えて、現場に説明し進めようとしています。しかし、進まない……。営業で経営課題や戦略を進めるためには、人ごと(経営者が考えること)として説明を聞かせるのではなく、自分の会社のこととして営業現場で考えさせる必要があります。今回は営業現場で戦略を進める方法についてご紹介します。

営業戦略は営業社員に説明するのでなく考えさせて理解させる

営業会議で経営課題や戦略を説明しているのに、営業現場で取り組まない、進まない。

その結果、新規マーケットや新サービスの営業、組織的、計画的な営業、積極的な提案営業が進まない。

多くの経営者や営業責任者が悩んでいることです。
なぜ取り組まないのでしょうか?

新規事業を進めるための期初のミーティングで

設備機器メーカーのセントテクノロジーでは、営業部長Aさんが新規事業を進めていました。

期初のミーティングで営業部長Aさんは……

はじめに、経営課題について説明。
「当社のお客さんである各メーカーの工場では、IoTや自動化が進んでいます」
「当社は3年間で設備機器の販売会社から通信やソフトウェアを組み合わせてソリューションサービスを提供する会社に変わっていかないといけない」

「そのためには来期までにソリューションサービスのノウハウを蓄積したり、技術力も強化したりする必要があります」
「だから今期中に実績を作らないといけないんです」

そして、営業部の戦略を説明
「営業部として、今期はソリューションサービスの売上を全体の10%までもっていきます」
「みなさんは設備機器の紹介だけでなく、ソリューションサービスの提案も進めてください」
「具体的には、……」

そして、
「何か質問はありますか?」

営業1課マネージャーBさん
「技術部のサポートが必要になりますけど、大丈夫ですか?」

営業部長Aさん
「技術部長と話して協力してもらえることになっているから大丈夫」
「提案が入ったら技術部に相談するように」

営業2課マネージャーCさん
「ターゲットはどういう企業がいいですか?」

営業部長Aさん
「ソリューションサービスは案件規模が大きくなるから、規模の大きい企業がいいと思う」
「ただ、業界によって変わると思うので、各課でターゲットを決めるように」

営業部長Aさん
「そこで、来月に営業部全員で1泊2日の合宿をやります」
「合宿で課ごとにターゲット顧客と今期の営業計画を作成してもらいますのでお願いします」

そして1泊2日の合宿……

1日目に各課に分かれて今期の営業計画を作成しました。

  • 全体の売上目標と計画
  • ソリューションサービスのターゲット顧客
  • ソリューションサービスの提案目標件数、受注目標件数と営業計画

2日目に各課で作成した営業計画を発表しました。

最後に営業部長Aさんは
「みなさん、2日間お疲れさまでした」
「今期は営業計画を徹底してソリューションサービスの提案を進めてください」

半年がたち、上期が終了すると……

営業部長Aさん
「全然ソリューションサービスの提案をしていないじゃないか」

マネージャーBさん
「既存案件の対応でみんな忙しくて」
「それに設備機器販売で大型案件も入ってきたので」

営業部長Aさん
「今期はソリューションサービスの実績を作らないといけないって説明したじゃないか。それに営業計画も自分たちで作ったんだろう」

マネージャーBさん
「すみません、下期は提案するよう指導します」

そして1年がたち、期末……

結局、ソリューションサービスは1件も売れませんでした。
それどころか提案も営業部全体で2件だけ。

なぜ、ソリューションサービスを提案しなかったのか

なぜ、ソリューションサービスを提案しなかったのでしょうか?
そもそも、経営課題や戦略を理解していたのでしょうか?
ある日、社長がマネージャーBさんに聞いていました。

社長
「みんな、経営課題や戦略の重要性を理解しているのかな」
「なんでソリューションサービスを売らないといけないか分かっている?」

マネージャーBさん
「はい、将来は設備機器販売だけで会社を発展させられないからです」

社長
「将来って何年後?」

マネージャーBさん
「……」

社長
「3年後ですよ、3年間で設備機器販売からソリューションを提供する会社に変えないといけないんです」
「じゃあ、なんで3年後のために今期に提案を進めないといけないの?」

マネージャーBさん
「3年後の目標の売上比率10%を達成できなくなるからです」

社長
「いや、売上比率10%というのは今期の目標だよ」
「来期までにソリューションサービスのノウハウを蓄積したり、技術力も強化したりする必要があるんです。だから今期中に実績を作らないといけなかったんです」

マネージャーBさん
「そうでした、申し訳ありません」

社長
「営業部長Aさんから聞いていなかったの?」

マネージャーBさん
「ちゃんと聞いていました」

マネージャーBさんは「ソリューションサービスの提案を進めないといけない」ことは知っていましたが、経営課題や戦略についてちゃんと覚えていませんでした。

なぜ、期初のミーティングで説明を聞いたのに覚えていなかったのでしょうか?
期初のミーティングと合宿のことを振り返ってみてください。

期初のミーティングで、
マネージャーBさんの質問は「技術部のサポートが必要になりますけど、大丈夫ですか?」
マネージャーCさんの質問は「ターゲットはどういう企業がいいですか?」

いずれも今期の仕事についての質問です。
ソリューションサービスの提案という今期の仕事を進めるためのサポートとターゲット。

合宿で作成した営業計画は、

  • 全体の売上目標と計画
  • ソリューションサービスのターゲット顧客
  • ソリューションサービスの提案目標件数、受注目標件数と営業計画

全て今期の仕事のことです。

マネージャーも営業担当者も、
質問したり考えたりしたことは全て今期の仕事のことで、経営課題や戦略については説明を聞いただけ。
経営課題や戦略の説明は聞き流して、今期の仕事のことばかり考えていました。

営業社員に経営課題や営業戦略を考えさせることが重要

営業は、今期の売上目標で評価され、そして目標やミッションも個人単位。
そして、トラブルや社内調整など突発的に入ってくる仕事が多く、また商品紹介やニーズ発掘、提案、交渉、紹介獲得、事務処理……さまざまな仕事をこなさないといけない。

この仕事をずっと取り組んでいると、どうなるのでしょうか?

  • 今期や短期中心の意識が強く、中長期的なことに対する意識が弱くなる
  • 場当たり的、物事を徹底できなくなる(目先の仕事に追われる)
  • 個人主義、属人的、経験依存(体系的なことや論理性、変化への対応が弱くなる)

これが営業という仕事をずっと取り組んできた人が陥る体質です。

マネージャーや営業担当者は、経営課題や戦略を聞いても……
3年後に対する経営課題や戦略よりも今期の売上や計画ばかり考える。
目の前にある仕事や製品販売の大型案件ばかり考える。
ソリューションサービスの提案ではなく、経験してきた製品販売に依存する。

営業部長Aさんは、経営課題や戦略を説明するだけでなく、この体質を踏まえて考えなければならないことがあったのです。
「どうしたら今期のことばかりでなく、経営課題や戦略(中長期的なこと)を重視させることができるのか?」
営業社員が今期のことしか考えず、中長期的なことを考えない、重視しないのは、今期の売上ばかり考えさせてきた会社のせいです。

今期の売上ばかり考えさせられてきた営業社員に経営課題や中長期的なことを重視させ、戦略を進めるためには、説明するだけでは足りません。
営業社員に自分たちで考えさせることが必要です。

なぜ経営課題や戦略を進めないといけないのか、経営課題や戦略はどのようなものなのか、経営課題や戦略を進めるためにはどうしないといけないのか……

多くの会社では、経営課題や戦略について、経営者や部門長が考え、営業社員に説明して理解させようとしています。
そして、営業社員に考えさせていることは今期の計画と仕事のことだけ。

これでは、中長期的なことに対する意識が弱い営業社員が、経営課題や戦略をきちんと理解せず、営業現場で進めなくなります。

市場の変化が早い今日、変化に対応するための経営課題や営業戦略は重要です。
経営課題や戦略は説明して理解させるのではなく、営業社員に自分たちで考えさせて理解させましょう。

営業社員に営業戦略を考えさせる方法は……

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次回は9月17日(火)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
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