第134回 新商品の営業は今期の売上よりも将来の姿にこだわる

多くの会社で新規事業や新商品を立ち上げていますが、ほとんどがうまくいっていない……。みなさんの会社ではいかがでしょうか? 新しい事業や商品を作り拡大するためには、今期の売上よりも成功するためのストーリーが大切です。今回は新規事業や新商品を拡大するためにこだわるべき目的とストーリーについてご紹介します。

新商品の営業は今期の売上よりも将来の姿にこだわる

新規事業や新商品の営業は既存の事業や商品と異なり、経験のない事業や商品の営業は難しい。
しかし、会社の将来を考えるとがんばらないと……

???ということは今期の売上のためではなく、会社の将来のための営業では???

一生懸命に会社から指示された今期の売上目標を考えて営業。
しかし、なかなか売上が上がらない。
その結果、さらに今期の売上目標しか考えなくなる。
しかし、なかなか売上が上がらない。
その結果、さらにさらに今期の売上目標しか考えなくなる。

会社の将来のための新規事業であるはずなのに、今期の売上のことしか考えずに営業を進めている会社が多く見受けられます。そして、うまくいかない……

みなさんの会社では新規事業や新商品の営業は順調に進んでいますか?

新商品をリリースして、営業活動をスタートしたが……

IT企業のセントテクノロジーは新商品のAIサービスをリリースしました。

今まで技術者派遣中心に売上を上げていましたが、今後の技術革新や広がるAI市場に対して、5年後に拡大できる事業を確立したいと2年前からサービス開発を進めてきました。

今期に3人で専任の営業チームを作り、AIサービスの営業活動をスタート。開発にお金がかかったし、これから営業して売上を上げよう!

今期の売上目標は3,000万円。開発やサポートの費用を考えると赤字だけど1年目なので、まずは実績を作ることが大切。そして、3人の営業チームで営業戦略を考えました。
サービスの価格や機能を考慮して

  • ターゲット業界は、小売・流通業、製造業、金融業界。
  • ターゲット規模は、年商500億円以上。
  • 販売促進として展示会に2回出展する予定。
  • 営業活動では、システム販売会社3社と販売代理店契約を締結。
  • 直接販売は、展示会の来場者に対し自分たちでアポイントを獲得し、訪問。
  • それとテレアポ代行会社に依頼してアポイントを獲得し、訪問。

そして、4月から営業活動をスタートしました。

5月からテレアポ代行会社のアポイントや販売代理店からの紹介が入り5件のお客さんを訪問。
6月の下旬に出展した展示会では、来場者から5件のアポイントを獲得。

4月から7月まで3人で10件訪問しました。ところが見込み案件は2件しか獲得できていない。
1件当たりの売上単価が300万円なので売上見込み金額は600万円。

まだスタートして4カ月だからこれから、がんばっていこう!

8月に入ると販売代理店からの紹介が減ってきました。展示会の来場者も一通りあたってしまったし、頼みの綱はテレアポ代行会社のアポイントだけ。

8月と9月の新規訪問は3件しかできず、見込み案件は1件だけ。営業活動をスタートしてから3件の見込み案件を獲得したけれど、そのうち1件が失注。

訪問したお客さんの失注理由はバラバラ……

  • 予算をとっていないから今期は難しい。
  • AIサービスには興味があるけど、今すぐに検討できない。
  • 機能に比べて価格が高い。
  • 価格は気にならないし、機能は充実しているけど使いにくさがネック。
  • ここまで機能はいらないから、もう少し安い方がいい。

上期はなんとか1件を受注し、売上金額300万円。

10月に入りチームでミーティングしました。

リーダーAさん
「このままだとまずい」
「売上目標3,000万円は1年目だからといって経営陣に了承してもらった最低限の金額」
「達成できないと来期はこのチームがなくなるかもしれない」

メンバーBさん
「でも、あと2,700万円だと9件受注しないといけないんですよ、難しいですよ」
「見込み案件が1件しかないし」

リーダーAさん
「まだ13社しか訪問していないじゃないか」
「下期で少なくとも2,000万円ぐらいは受注しないと」

メンバーCさん
「あと7社もどうやって?」

リーダーAさん
「訪問件数が足りないよ、販売代理店と交渉してもっと紹介してもらおう」
「あと、うちの営業部にもAIサービスを紹介してもらおう」

メンバーCさん
「でも、ターゲットの小売・流通業、製造業、金融業界で年商500億円規模の会社って、うちの営業部のお客さんには少ないですよ」

リーダーAさん
「ターゲットにこだわっている場合じゃないよ」
「そもそも、まだどの業界や規模に売れるか分かっていないし」
「とにかく訪問件数を増やさないといけないから、業界や規模は問わず訪問できるところは全て訪問しよう」

メンバーBさん
「それなら販売代理店からの紹介も増えると思います」

といって、業界や規模を問わず、販売代理店や営業部から紹介をもらいながら営業活動を進めました。

そして期末、
訪問件数は増えて5カ月間で17件、1年間で30件。
しかし、見込み案件は4件で受注件数は2件。

3,000万円の売上目標に対し600万円。

1年目を振り返ってみると……
訪問したお客さんの業界も規模もバラバラ。
そして、お客さんから聞いた失注理由もバラバラ。

リーダーAさんは経営陣に報告しました。

リーダーAさん
「3,000万円の売上目標に対して結果600万円でした」
「申し訳ありません」

経営陣
「うちのAIサービスは本当に売れるのか?」

リーダーAさん
「見込み案件も4件ありますし、2件は受注していますので」
「今期は1年目でターゲットとか売り方も分からない中での営業でしたので結果は出せませんでしたが、来期は必ず結果を出します」

経営陣
「そうか、2年目は結果が全てだからな」
「開発にずいぶんとお金を使っているから、結果が出なかったら見極めないといけない」

そして、2年目の営業活動がスタート。

リーダーAさん
「今期は結果を出さないと」
「どの業界や規模がいいかは前期の結果では分からないし、下期に販売代理店や営業部からの紹介が増えたから、今期もターゲットを絞らずに紹介してもらえるところを徹底的に訪問しよう」

メンバーBさん、Cさん
「はい、分かりました」

1年がたち2年目の結果は、
訪問件数は1年間で30件、受注件数は2件で売上金額600万円。
……1年目と同じ結果。

リーダーAさんは期末に経営陣に報告しました。

リーダーAさん
「すみません、今期の売上は600万円しかいきませんでした」

経営陣
「1年目と同じじゃないか」
「本当に売れるのか?」

リーダーAさん
「AIはこれから伸びる市場だから来年はなんとか」

経営陣
「見込み案件も5件で前期から1件しか増えていないじゃないか」
「訪問件数だって増えていないし」

リーダーAさん
「販売代理店や営業部に紹介をお願いしたんですけど、増えなくて」

経営陣
「3年目に売上が上がる根拠がないだろう」
「来期は営業部長のDさんに任せるから」

3年目は経営陣から認められず、チームは解散になりました。

失敗の理由は?

なぜ、Aさんのチームは解散になってしまったのでしょうか?
なぜ、2年目が1年目と同じ結果だったのでしょうか?

Aさんのチームは、1年目の上期で売上見込み金額が600万円しかありませんでした。その結果、下期は3,000万円という今期の売上目標を達成することばかり考えて、とにかく訪問しないとと思いやみくもに営業活動を進めました。
はたして、今期の売上目標は大切だったのでしょうか?

セントテクノロジーがAIサービスを立ち上げた目的は、5年後に拡大できる事業を確立したいということです。今期の3,000万円という売上目標ではなく、5年後に拡大できる事業のために営業活動を進めていたはずです。

そうであれば、5年後の姿を実現するために、業界や規模別のニーズを収集することにこだわり、サービス説明や提案の検証にこだわり、サービスの改善すべき点を収集することにこだわり……今期の営業活動を進めることが大切だったはず。

しかし、今期の売上目標ばかり気にして大切なことをないがしろにしてしまった。その結果、1年間も営業したのに何の資産も残っていない。そして、1年目にスタートした時と同じ状況で2年目をスタートし、1年目と同じ結果……

新規事業や新商品を成功させるために

新たな事業や商品を作り、拡大していくことは容易なことではありません。
開発チームが商品を作り、営業すればすぐに売上が上がるほど簡単ではありません。

新規事業や新商品を成功させるためには、ターゲット、営業方法や販促方法、商品やサービス……成功するまで何度も検証し、修正しながら精度を上げていかなければなりません。しかし、会社から指示された今期の売上目標ばかりを気にして、本当の目的を見失っている営業が多く見受けられます。

新規事業や新商品を成功させたいのであれば、本当の目的にこだわり何をすべきかを考えましょう。そのためには、今期の計画よりも将来の姿を実現するためのストーリーが大切です。
本当の目的である将来の姿を実現するための計画を考えて大切にしましょう。

新規事業や新商品の営業を成功させるためには……

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次回は7月16日(火)更新予定です。

今月のクイズ(営業のクイズ)

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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