第35回 万一のために、いつでもテレワークを実施できる体制を整えておきたい

新型コロナをきっかけにテレワークは大きく普及しましたが、現在、テレワークの実施率は低下傾向にあります。テレワークにはさまざまな効果があります。あまり認知されていませんが、テレワークは有効なBCP(事業継続計画)対策にもなります。非常事態の発生に備えて、いつでもテレワークを行える体制を整えてくことをお勧めします。

万一のために、いつでもテレワークを実施できる体制を整えておきたい

テレワーク(注1)は新型コロナをきっかけに大きく普及しました。しかし、最近になって企業規模、業種業態を問わず実施率が減少していることが各種調査で報告されています。日本生産性本部が公表した調査(「第10回 働く人の意識調査」2022年7月4日~5日実施)では、2020年5月の調査開始以来、実施率は過去最低となりました。これは企業規模を問わず同様の結果となっています(図参照)。

  • (注1)今回のコラムでは、テレワークを「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務(施設利用型勤務)」の三つの形態の総称として説明します。

新型コロナをきっかけに“緊急対応”として多くの企業がテレワークを実施しました。特に、最初の緊急事態宣言が発令された時(2020年4月)は、それまで「わが社の業種、職種ではテレワークは行えませんよ。現実的には難しいです」なんて実施を拒んでいた企業もテレワークを開始しました。「やればできるじゃないですか!」と私は心の中でつぶやきました。

そして、各企業では試行錯誤をしながらテレワークを継続してきましたが、その後、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの行動制限が解除されると、出社勤務へのシフトが進み、先に紹介したようにテレワーク実施率が過去最低となりました。もちろん、テレワークが定着し、常態として継続している企業も少なくないでしょうが。
この調査(2022年7月4日~5日実施)の後、新規感染者数が各地で過去最多を更新する“第七波”が猛威を振るっているため、次の調査でどのような結果となるか注目したいところです。

それにしても、新型コロナ禍で“緊急対応”、“半ば強制的に”始めた企業も少なくないでしょうが、せっかく始めたテレワークを定着させる前に止めてしまうのはもったいないことだと思いませんか?

非常事態は時、場所を選ばずにやってくる

テレワークはBCP対策にも有効です。BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、非常事態の際に早期回復できるようにするための対応策です。普段は考えもしない非常事態が発生した場合、貴社の事業、あなたの業務の継続にどれくらいの影響を与えるでしょうか?

非常事態と一言でいってもさまざまなものがあります。
その一つは大地震です。阪神大震災、東日本大震災では企業活動に未曽有の被害を与えました。地震大国の日本では、南海トラフ巨大地震、首都直下地震などが遠くない将来に発生すると予測されています。

異常気象もあります。“10年に一度”、“観測史上初”などの枕言葉がつけられる異常気象が毎年、各地で発生しています。台風、集中豪雨による洪水や浸水、長期の停電、交通分断などが発生すれば、事業継続への大きな障害になるでしょう。しかも、地球温暖化によって気象リスクは年々高まっています。

参考

首都圏における大規模水害の被害想定結果の概要(内閣府防災情報・PDF)

新型コロナウイルス オミクロン株は、重症化率は低いといわれています。しかし、もし今後、感染率、重症化率がともに高い、新たな変異株が発生したらどうなるでしょうか。前例のない厳しい行動制限を伴う緊急事態宣言が発令されるかもしれません。新型コロナが完全収束するのはいつなのか、現在のところ不明です。

恐怖をあおるようなことを書き連ねましたが、災害等の非常事態は時や場所を選ばず発生します。

これらの被害による影響をゼロにすることはできませんが、テレワーク体制が整っていれば、被害を軽減することはできます。テレワークは有効なBCP対策の一つなのです。

BCP(事業継続計画)対策として、テレワークの二つの意義

BCP対策の観点でテレワークを考えると、大きく二つの意義があります。

一つは、非常事態が発生し交通機関が遮断されたり、行動制限により社員が出勤不可能になったりしても、テレワークが可能ならば、業務の多くを継続することができます。

もう一つは、非常事態発生時の「初動対応(注2)」のスピードと質とを高められます。以前ならば、非常事態が発生した場合には、対策本部を設置し、事前に決められたメンバーが招集され、対応策を議論し、実行に移す、というものでした。物理的制約が初動対応を阻害しました。

  • (注2)初動対応:非常事態発生直後の対応

しかし、テレワークが可能ならば、メンバーは各拠点、自宅に居ながらにして情報を収集し、対応策を検討し、各部門に指示を出して事業の復旧、継続を行えます。初動の選択肢も拡がります。

非常事態が発生したとき、ネットワーク&テレワーク体制が整っている企業と、整っておらず慌てる企業とでは、雲泥の差が生まれるのです。

テレワークを実施した後、さまざまな課題(最も多いのは残念ながら「生産性の低下」ともいわれています)が発生し、止めてしまった企業もあるでしょう。しかし、BCPという観点で、テレワークのルール、環境をブラッシュアップして体制を最適化し、いつでも再開できるようにしておくことをお勧めします。

転ばぬ先の杖、非常事態が起きる前のテレワーク、です。
今回のコラムが、皆さんの業務、事業に役立つことを願っています。

この連載の第29回では、「数字で見る『テレワークの実施状況』と、成功のための三つのポイント」というコラムを書きました。コロナ禍を契機に多くの企業がテレワークの運用を開始したことについて述べています。こちらもぜひ併せてご覧ください。

第29回 数字で見る「テレワークの実施状況」と、成功のための三つのポイント

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この記事の著者

ワークデザイン研究所/石山社会保険労務管理事務所

太期 健三郎

ワークデザイン研究所 代表
石山社会保険労務管理事務所 パートナー・コンサルタント

経営コンサルタント。
管理間接部門の業務改善、HRM(人材マネジメント)の二本の専門領域を持つことを強みとする。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスに勤務後、2008年にワークデザイン研究所を設立。
MURCでは人事コンサルティング、ミスミではコールセンターの業務改善を行った後、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革を推進する。グロービスではコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括、推進。
また、2013年~2015年にはクライアント企業の食品メーカーの内部改革者として人事部長・経営改革室長を兼務する。
「患者様の声をよく聴き、丁寧に診断・治療する“中小企業のかかりつけ医”」を信条としている。
ワークデザイン研究所
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