第25回 時短にばかり意識を向けすぎると、社員もマラソンランナーも壊れてしまいます

「働き方改革」という言葉をメディアで見ない日はありませんが、仕事で人とお会いしてもこの話題はかなり頻繁に持ち上がります。そこで、違和感を持つのは「残業時間削減」「有給休暇取得推進」など時間短縮という数値目標だけが独り歩きしていることです。それは走り方を考えずにタイム短縮ばかりを声高に叫ぶマラソンコーチを想起させます。

時短にばかり意識を向けすぎると、社員もマラソンランナーも壊れてしまいます

平成29年3月に政府が「働き方改革実行計画」を公表して以来、人とお会いすると「働き方改革」の話題が出ること多くなりました。その頻度はこの数カ月、格段に高まっています。ビジネスの場に限らず、同窓会や地域コミュニティーの会合などでさえ、働き方改革の話題が上ることがしばしばです。

「働き方改革の推進をトップから命じられましたが、何から始めればよいか分かりません」(→ 一緒に考えましょう)
「ご存知の企業さんで、成果を出している取り組み事例など教えてもらえませんか?」(→ はい、喜んでご紹介します)
「簡単に始められてすぐに大きな効果が出るものありませんか?」(→ そういう魔法のようなものはこちらこそ教えてほしいですが、知っているものを幾つかご紹介します)
などです。

「働き方改革」始めました?

先日、ある企業の人事部長Aさんとお会いしたときに次のような話になりました。

Aさん
「働き方改革を始めたのですが、なかなか進みません」


「どんなことを始められたのですか?」

Aさん
「残業時間の削減と有給休暇取得の促進です」


「具体的にはどんなことを?」

Aさん
「20時以降の残業申請許可を厳格にして、22時にはオフィスを消灯し、パソコン、ネットワークをシャットダウンすることにしました。有給休暇は部下の積極的な取得を促すように管理者に強く言っています」
かなり熱く語られています。


「それで、そのために、どんなことを?」

Aさん
「……、あ、今のところはそれくらいです。現場からは仕事が進まないと不満が出始めています……」

確かに、終業時間を意識させることでダラダラ残業は減るかもしれませんし、管理者が促すことで有給休暇の取得が少しは増えるかもしれません。しかし、それは最初のうちだけの限定的なものです。仕事の量が今までと変わらず、人の増員も無ければ、現場からは不満も出るはずです。
真の目標達成のためには、人視点の「働き方改革」と、仕事視点の「業務改革」を同時に進めていくことが必要なのです。

「根拠なき“時短”」を求める経営者とマラソンコーチ

このような会話をするとき、私にはマラソンコーチとランナーの姿が頭に浮かぶことがあります。トップアスリートではなくアマチュアのコーチとランナーのイメージです。

コーチは「スピードを上げろ! タイムを縮めろ!」と檄を飛ばすばかり。タイムを縮めるためのアドバイスはほとんどしません。というよりも、できません。

はじめのうちは、ランナーは何とか頑張り、タイムを縮めるかもしれません。しかし、気合と根性だけでは限界があります。これが長く続くと、身体が悲鳴を上げてケガや故障が出たり、モチベーションが下がったりするでしょう。悪くすると、競技への気持ちが冷めてマラソンから離れてしまうことにもなりかねません。「根拠なき(精神論の)タイム短縮」の末路です。

タイムを縮めるには走るフォームの改善、適切なトレーニングの実施、最適なシューズの選択、モチベーションを含めたセルフマネジメントの実施など、プロセスや方法論の見直しが必要なのです。これは「根拠あるタイム短縮」です。

時短の目標ばかり掲げている企業とマラソンのコーチ、そっくりだと思いませんか?

わが社は「働き方改革」に取り組みます。以上!

例えば、経営トップから

わが社はこれから「働き方改革」に取り組みます
残業時間の全社平均を**時間削減、有給休暇取得率**%を目標とします
具体的な取り組みは各部門が考えて実施してください
以上!

このような方針が公表されるとします。

方針は受け止めたものの、管理職や現場が何をどうすればよいか分からない場合、どうなるでしょうか? 「根拠なき時短」を追い求めれば組織や業務に歪み(ひずみ)をもたらします。その影響を受けるのは組織の末端や弱者、そして顧客で、上意下達のトップダウン型組織ほどその傾向が強いです。

働き方改革により「業績向上」と「社員のワークライフバランス」を目指したいのに、その目論見とは逆に

  • 売り上げが下がり、コストが上がる
  • 時間外労働が、サービス残業、持ち帰り残業という形で水面下に潜る
  • 精神疾患による休職者が増える
  • 離職者が増えて人材不足に陥る
  • 労働基準監督署の査察が入りブラック企業のラベルが貼られる
  • その風評が広がり採用が困難になる

……等々

あえて、ネガティブな言葉を書き連ねましたが、度が過ぎればこのようなことになりかねません。それならば、やらない方がまだマシという結果です。

「働き方改革」「業務改革」を本気で取り組めば、「結果として」根拠のある時短が実現するのです。

今回はシンプルなマラソンに喩えて話しましたが、企業の働き方改革は、実は団体戦である「駅伝」です。取り組まなければならないこと、いえ、取り組めることはたくさんあるはずです。

次回は3月15日(木)更新予定です。

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この記事の著者

太期 健三郎

ワークデザイン研究所 代表
石山社会保険労務管理事務所 パートナー・コンサルタント

経営コンサルタント。
管理間接部門の業務改善、HRM(人材マネジメント)の二本の専門領域を持つことを強みとする。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスに勤務後、2008年にワークデザイン研究所を設立。
MURCでは人事コンサルティング、ミスミではコールセンターの業務改善を行った後、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革を推進する。グロービスではコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括、推進。
また、2013年~2015年にはクライアント企業の食品メーカーの内部改革者として人事部長・経営改革室長を兼務する。
「患者様の声をよく聴き、丁寧に診断・治療する“中小企業のかかりつけ医”」を信条としている。
ワークデザイン研究所
石山社会保険労務管理事務所

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