第17回 「業務ミス管理表」のすごい力

前回は業務ミスを減らすことの効果について説明しましたが、今回は、ミス低減に役立つツール「業務ミス管理表」の活用法を紹介します。シンプルなシートで簡単に運用できるものですが、すごい効果があることに驚かれるかもしれません。

「業務ミス管理表」のすごい力

前回、業務ミスを減らす効果の大きさについて説明をしました。今回は、その業務ミスを減らす方法の一つとして、「業務ミス管理表」の活用をご紹介します。業務改善プロジェクトを立ち上げる本格的アプローチに比べ、運用が容易で始めやすいですが、実はたくさんのすごい効果があるのです。

業務ミス管理表の運用は極めてシンプルです。ミスが発生する度にシートに記録する、ただそれだけです。管理表と運用方法を簡単に説明していきましょう。

管理表に記入する項目は、(1)発生日、(2)ミスの内容、(3)発生原因、(4)担当者、(5)再発防止策、(6)記載者、(7)確認者の7項目です。

ミスが発生したら速やかに管理表に必要事項を記入し、管理者が確認します。記憶が薄れないうちに、のど元過ぎて熱さを忘れないうちに、例えば発生後3営業日以内に記載から確認まで行うと良いでしょう。あまり詳細に記載する必要はありません。詳細を求めると書くことが負担になり続きません。要点に絞って簡潔に書きます。とても簡単だと思いませんか?

月に一回程度集計しミスの発生状況を確認します。管理表に同じミスが何度も登場する場合は、再発防止を個別に考えて実施する必要があります。

簡単だけれど、たくさんのすごい効果!

1. 業務ミス再発防止を考える機会が「仕組み化」される

「業務ミス管理表」はシンプルで運用の手間がかかりませんが、すごい効果を発揮します。

通常、「業務ミスをしたら、同じミスをしないようにしよう」「ミスはメモなど記録しておこう」と言っても、なかなか実行されません。しかし、「ミスをしたら、3営業日以内に管理表に記入し、管理者に提出すること。管理者は内容を確認し、問題無ければ承認サインをする」とルールにすれば、書かざるを得ません。ミスをそのままにしない仕組みができるのです。

発生の度に、「なぜミスは起きたかの?」「どのようにすれば防げたのか?」「再発を防止するには何をすれば良いか」を考える習慣がついて、改善思考力が高まります。

2. 業務ミスの履歴が組織に蓄積される

業務ミス管理表の運用を続けると、業務ミスの記録が組織内で共有、蓄積されます。異動、担当替え、入退社などで担当者が替わっても後任の人は、過去の業務ミスをひも解くことができます。現在の業務方法となった経緯や、何度も繰り返されているミスを知ることができます。

3. 運用自体がミス発生を抑制する

見過ごせないのが「ミスを記録する」こと自体がミスの発生を抑制することです。「記録するだけでミスが抑制される?」と不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。

誰でも自分のミスを記録するのはイヤなものです。記録しなければいけないとなると、「気を付けよう」という気持ちが今までよりも強くなります。

「レコーディング・ダイエット」という言葉を覚えていらっしゃるでしょうか? 岡田斗司夫氏が、ベストセラーの『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書、2007年)で紹介したダイエット法で、摂取している食べ物の内容をノートに記すだけで食生活の改善につなげるというものです。私も以前続けていたことがありますが、簡単でかなり効果がありました。運動も、カロリー計算も必要ありません。いつ、何を食べたかを「モレなく」書くだけです。これを続けていると、ちょっとした間食も控えるようになります。

ミス管理表の運用がミス抑制につながるのは、これと似た感覚でしょう。

運用が長続きし、効果が高まる運用のコツ

管理表の運用方法はシンプルですが、長続きさせ、高い効果を出すためには幾つかのコツ、注意点があります。それを紹介しましょう。

1. 確認者は管理表の記載事項をきちんと確認する

確認者(管理者)は記載内容をしっかり確認します。記載内容が不十分ならば、差し戻しをして書き直させたり、記載者と一緒に修正案を考えたりしましょう。このプロセスがないと、管理表を書くこと自体が目的となり、運用が形骸化してしまいます。

2. 提出期限は絶対に守らせる

提出期限を設定したら、例外なく絶対に守らせます。「忙しいから、それが終わってから書きます」を許してはいけません。一度認めると、なし崩し的に緩くなり、いつの間にかフェードアウトのように運用されなくなる例を多数見てきました。

「3営業日以内に」という期限が難しいなら、「5営業日以内」「1週間以内」など組織で妥当な期限を設定しましょう。しかし、設定した期限は必ず守らせなければなりません。

3. ミスを憎んで人を憎まず~反省文、始末書にはしない~

ミスした担当者に、反省文、始末書のように業務ミス管理表を書かせてはいけません。そのようになると、担当者はミスを隠すようになります。ミスを隠蔽したり、取り繕ったりするようになります。これでは、再発防止どころか、再発後の被害を大きくするリスクを生むことになります。

管理表は再発を防止するために「ミス」を記録するのであり、「人」を責めるものではありません。

これだけで業務ミスを根絶することはできないけれど……

「業務ミス管理表」の効果と運用するコツを書いてきました。がっつり業務改善を進める本格的なツールではないですし、これだけで業務ミスを根絶することはできません。しかし、運用に手間がかからず、社員の改善思考を高め、組織的業務改善を始めることができる簡便なツールです。ぜひ、お試しください!

次回は5月25日(木)更新予定です。

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この記事の著者

ワークデザイン研究所/石山社会保険労務管理事務所

太期 健三郎

ワークデザイン研究所 代表
石山社会保険労務管理事務所 パートナー・コンサルタント

経営コンサルタント。
管理間接部門の業務改善、HRM(人材マネジメント)の二本の専門領域を持つことを強みとする。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスに勤務後、2008年にワークデザイン研究所を設立。
MURCでは人事コンサルティング、ミスミではコールセンターの業務改善を行った後、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革を推進する。グロービスではコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括、推進。
また、2013年~2015年にはクライアント企業の食品メーカーの内部改革者として人事部長・経営改革室長を兼務する。
「患者様の声をよく聴き、丁寧に診断・治療する“中小企業のかかりつけ医”」を信条としている。
ワークデザイン研究所
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