第50回 AI時代、人はどんな仕事を担うのか? ~代替されない業務の性質~
AIの進化により多くの業務が代替されつつある中、人事総務部門にとっての“これからの仕事の本質”を探ります。人に求められる、いえ、人にしかできない業務の特性は、「予測不能な事態への対応力」「グレーゾーンでの判断」「感情・関係性を扱う力」、そして「最終判断と責任を引き受ける覚悟」の四つです。
AI時代、人はどんな仕事を担うのか? ~代替されない業務の性質~
「AIに仕事が奪われる」――この言葉が現実になりつつあります。
定型業務(マニュアル的な非判断業務)というこれまで人間が担っていた数多くの作業が、AIに代替されるようになってきました。特に人事・総務などのバックオフィス業務において、AIに置き換えられていく傾向は今後も強まるでしょう。では、このような時代において、人間にしか行えない仕事とはどのようなものなのでしょうか?
本コラムでは、AI時代においても代替されにくい「四つの業務の性質」を取り上げ、人事総務部門にとっての“これからの仕事の本質”を探ります。
1. 予測不能な状況への対応力
AIは、過去のデータを基に学習・判断する仕組みです。しかし、現実の仕事では、前例のないトラブルや想定外の状況に直面することが少なくありません。例えば、新しい法改正への即時対応、災害発生時の判断、複数部署を巻き込む突発的な問題など。こうした場面では、マニュアルが通用しない「その場での判断力と柔軟性」が求められます。
2. グレーゾーンでの判断とリスクマネジメント
多くの業務は、法令や社内ルールに基づいて進められますが、現場には「白黒をはっきりさせにくいグレーな領域」が数多く存在します。例えば、法的には問題がないが、社会的に非難される可能性のある判断。あるいは、規定に反しないが、現実とのギャップにより現場対応が難しいケースなどです。このような場面では、一律のルール適用ではなく、リスクを見極め、最終的な責任を引き受ける覚悟をもって判断する力が人に求められます。
一方で、AIはそうした“空気”を読むことはできませんが、ルールや基準に沿って、忖度(そんたく)なく、厳格に処理を進めるという点で強みを発揮します。人が「迷う領域」をAIは「割り切る」という形で対処する。この違いこそ、AIと人間が補完し合う余地でもあります。
3. 感情・関係性を扱う業務
人間関係に根ざした仕事――例えば、信頼関係の構築、心理的ケア、対人交渉、トラブルの調停といった業務もAIには難しい分野です。AIは論理的な対話は可能でも、「気持ちを察する」「タイミングを見て声をかける」「沈黙の意味を感じ取る」といった、非言語的・情緒的なやりとりを正確に読み取ることはできません。
人事や総務の仕事では、表に出ない不安や悩みをくみ取り、人に寄り添い、信頼を築く力が問われます。感情を扱う仕事=いわゆる“感情労働”の分野では、今もなお人間ならではの価値が求められています。
4. 最終判断と責任を引き受ける覚悟
AIは複数の選択肢を提示したり、状況に応じて最適と思われる対応策を導き出したりすることができます。しかし、それを実行に移すかどうかを決めるのは人間です。そして、その結果が良くても悪くても、矢面に立ち、責任を引き受けるのもまた人間です。AIはルールに忠実で、定められた条件下では正確かつ効率的に処理を行います。けれども、実際の業務には「ルールどおりに処理すればよい」では済まされない局面があるのも事実です。
例えば、部下が起こしたトラブルの対応、予期せぬクレームへの初期判断、制度の隙間に生じた問題への対応など。こうした「正解がない状況」では、誰かが判断し、その判断の責任を自ら引き受ける覚悟が求められます。
この覚悟こそが、今後ますますAIに業務が代替されていく中で、人間に残される重要な役割の一つです。
まとめ
私たちは今、「業務そのものがAIに代替される」時代を生きています。その中で、人間に残される業務とは、以下のような本質を持つものです。
- 前例のない事象に対応する力
- グレーゾーンで曖昧さを判断する感性と責任感
- 感情と関係性に寄り添う力
- 覚悟を持って最終判断を下す胆力
しかし、これらの領域さえも今後AIがさらに高度化したり、人間のAI活用力が高まったりすれば、さらに代替は進んでいくでしょう。
だからこそ大切なのは、
- 「人にしかできないことは何か」を問い続け、磨き続けること
- 代替されないために立ち止まるのではなく、価値を再定義し、役割を進化させること
その二つがAI時代における人事・総務部門の“プロフェッショナル”の姿なのではないでしょうか。