第49回 雑な引き継ぎをするな!~引き継ぎの質が組織の生産性を決める~
AI活用や働き方改革が進む今でも、実は多くの職場で軽視されがちな「引き継ぎ」。雑な引き継ぎはミスや混乱、ノウハウ喪失など“静かなリスク”を生み、組織の生産性を確実にむしばみます。本コラムでは、引き継ぎが失敗する理由から、引き継ぎ書の活用、プロセスの標準化、好循環を生む仕組みづくりまでを分かりやすく解説。4月の異動に備えて今から取り組むべきポイントを提示します。
雑な引き継ぎをするな!~引き継ぎの質が組織の生産性を決める~
働き方改革やワークライフバランスの重要性が広く認識され、AIを活用した業務効率化も進む中で、意外なほど注目されていない領域があります。それが「業務の引き継ぎ」です。担当者の不在や異動はいつでも起こりうるにもかかわらず、引き継ぎが後回しにされることで、組織に大きな負担やリスクを生むケースが後を絶ちません。今回は、引き継ぎを軽視することの弊害と、上手な引き継ぎが組織にもたらす効果について解説します。
担当者変更は日常的な時代──それでも“引き継ぎ”は後回し?
人事異動や産休・育休、介護や傷病による休職、さらに突然の退職など、引き継ぎが必要となる場面は日常的です。しかし、担当者の変更に伴う引き継ぎは、どこか“後回しにしがちな業務”として扱われています。
引き継ぎが軽視されてしまう背景には、幾つかの要因が重なっています。まず、引き継ぎそのものが正式な業務プロセスとして認識されておらず、担当者任せになっていることが大きな理由です。さらに業務が属人化しているため、そもそも何をどこまで引き継ぐべきかが明確になっていない場合もあります。加えて、日々の忙しさから引き継ぎの準備に十分な時間を確保しにくく、結果として後回しにされがちです。そして、自分の業務を整理し言語化する作業は想像以上に手間がかかるため、心理的にもつい避けてしまう傾向があります。
雑な引き継ぎが生む“静かなリスク”
引き継ぎが不十分な場合、さまざまな問題が連鎖的に発生します。例えば、業務のミスや品質低下、後任者への過度な負担、社内外の顧客(注1)からの不満の増加などが代表的です。さらに大きな問題として、担当者が持つ経験や知恵が組織に残らないまま失われ、ノウハウの蓄積が進まないという構造的な課題もあります。
雑な引き継ぎは、その場限りの問題を引き起こすだけでなく、長期的に組織の生産性をむしばむ“静かなリスク”なのです。
- (注1)管理間接部門の主要な顧客は自社の社員
その引き継ぎ、伝わっていません!──口頭&丸投げが生むズレ
現場でよく見られるのは、口頭説明だけに頼ったり、作業を一度見せたりするだけで引き継ぎを済ませてしまうやり方です。しかし、この方法では情報が抜け落ちたり、説明者のニュアンスがうまく伝わらなかったりと、認識のズレが必ず生じます。
そこでカギとなるのが、最低限でもよいので正式な「引き継ぎ書」を作成することです。業務の目的、日々のタスク、注意点、関係者、過去のトラブルなどを整理して文書化するだけで、情報の抜け漏れは大幅に減ります。さらに前任者もしくは後任者が引き継ぎ書を基に簡易なマニュアルを作れば、ノウハウが個人ではなく組織の資産として蓄積されるようになります。
属人化を断つ武器はこれだ──引き継ぎの標準化
引き継ぎは、業務を言語化し体系化して相手へ伝える少し難易度が高い仕事です。そのため、担当者任せでは品質にばらつきが出てしまいます。だからこそ、引き継ぎ書の作成ルールを全社で統一し、必要に応じて“引き継ぎインストラクター”(注2)を育成するなど、引き継ぎプロセスを組織として標準化することが重要です。こうした仕組みと企業風土を整えることで、属人化を防ぎ、安定した引き継ぎ品質を維持できるようになります。
- (注2)引き継ぎインストラクター:社内で「正しい引き継ぎのやり方」を教える人
良い引き継ぎは組織を強くする
引き継ぎが丁寧に行われるようになると組織には良い循環が生まれます。ミスやトラブルは減り、顧客からの信頼は高まり、担当者が変わっても業務が滞らない状態が実現します。そして、業務に関する知見が組織に蓄積され、次の引き継ぎがさらにやりやすくなるという好循環につながります。
これらは決して特別な施策ではなく、日々の業務で丁寧に引き継ぎを行うことによって自然に育まれていくものです。
おわりに:4月の異動ラッシュに備えるなら今すぐ準備を
4月は1年の中でも特に異動が多く、引き継ぎの質が問われる時期です。丁寧な引き継ぎを実現するには、直前ではなく事前の準備が欠かせません。そのためにも今のうちから自分の業務を整理し、言語化して引き継ぎ書に落とし込んでおくことが重要です。業務を「見える化」することで、引き継ぎ時の混乱を防ぐだけでなく、日々の仕事の改善にもつながります。年末年始はあっという間に過ぎます。4月に向けた準備を、今から始めてみてはいかがでしょうか。
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