第23回 積極的業務改善のための社内交換留学制度

前回に引き続き、社内留学制度を解説します。前回は、業務の標準化を始める“きっかけ”を作るための事例でしたが、今回は業務改善を直接の目的とする「社内“交換”留学制度」を紹介します。別拠点の二人の社員が5日間の社内交換留学をすることで、即効性がある業務改善が行えます。

積極的業務改善のための社内交換留学制度

前回は、「業務の標準化を始める“きっかけ”を作るためのしかけ」として、「社内留学制度」の事例を紹介しました。今回は、業務改善を“積極的に”進める、つまり業務改善を直接的な目的とする手法として、「社内“交換”留学制度」を紹介します。

前回のコラムを読まれていない方は、今回のコラムの前にぜひご一読ください。目的が異なる二つの事例を読み比べると、社内留学制度への理解が一層深まることと思います。

前回コラム
第22回 業務の標準化を“否が応でも”実行させる「社内留学制度」(ERPナビ)

今回、紹介する(説明する、解説する)事例は「異なる拠点で同一の業務を行っている担当者が、入れ替わって相手の職場へ行く」というものです。(図1を参照)

図1

これは、私が在籍していた企業(機械工業系商社のM社)のコールセンター(注1)で実際に行ったものです。

  • (注1) コールセンター:顧客からの問い合わせ対応や受注業務を専門に行う事業所・部門のこと。一般的に、業務を処理するスタッフをオペレーターと呼び、オペレーターを指導、管理するスタッフをスーパーバイザーと呼ぶ企業が多い。

A拠点のaさんとB拠点のbさんが相手の拠点で5日間勤務し、自拠点との彼我(ひが:相手と自分。あちらとこちら)の違いを知り、改善につなげました。基本的には「ナレッジマネジメント(注2)」の考え方によるものです。

  • (注2) ナレッジマネジメント:個人の持つ「ナレッジ」を組織全体で共有し、有効に活用すること。

社内交換留学制度を思いついたきっかけ

初めに、この制度を行おうと私が考えたきっかけをお話ししましょう。

私が全国13拠点あったコールセンターの管理・統括部門に異動した時のことです。管理、統括とはいうものの私はコールセンターの業務についてほとんど知りませんでした。
そこで、まず各拠点を廻ることにしました。前職で7年間コンサルティングを行っていた経験から、分からないことがあれば「現場に行き、実態を知る」という習慣があったからです。

各拠点では、みんな親切に教えてくれました。オペレーターの隣に座り、業務を説明してもらったり、面談をして話を聞いたりしました。面談では、仕事を進めていくうえでの問題や困っていることを話してくれる人や、仕事の悩み、時には不満や愚痴を漏らす人もいました。どの人の話も、拠点を知るためのありがたいものでした。
仕事の問題、困っていることは拠点共通のものもあれば、個別のものもあります。

同じ業務でも、ある拠点では処理に大きな負担がかかるのに、別の拠点では簡単に処理しているものが幾つもありました。
業務を詳しく知らない私は、「それって、なぜですか?」「以前はどうやっていたんですか?」と素朴な疑問を投げかけました。すると、簡単に処理できているところでは、業務処理、仕事の引継ぎ、教育や各種帳票などさまざまな工夫、改善が行われていました。
各拠点でそれぞれ工夫、改善をしていたのは良いことです。しかし、視点を変えれば、各拠点で仕事の“属人化”(正確には『属拠点化』でしょう)が行われ、独自の進化を続けていたわけで、それは望ましいことではありません。

私は、拠点を廻るにつれて「もったいないなあ……」と考えました。各拠点で同じ業務の工夫を、それぞれの時間と労力を使って取り組んできたのです。一方で、その工夫、ナレッジを知らずに苦労を続けている拠点があるのです。ムダであり、もったいないことです。

拠点全体(全ての拠点)で情報共有、改善を行おう

私が本社に戻ってから、うまく処理している拠点のやり方や帳票を、苦労していると言っていた拠点に伝えると、とても喜んでもらえました。
そして、13拠点あれば、それぞれに工夫していることがあり、それぞれに苦労していることがある。それらを共有し、改善して、全拠点共通の統一ルールを作れば、全体の業務レベルが底上げされ、生産性が向上すると考えました。

そのような大掛かりな取り組みの前に、テスト的に二つの拠点で交換留学制度を思いつきました。業務を詳しく知らない私が拠点を廻って情報を集めて回るより、業務に精通したスタッフ(オペレーターやスーパーバイザー)が他拠点の実態を知ることで、自拠点、行き先の拠点、全拠点の改善につながる、と考えたのです。

交換留学制度の実行! そして、その効果

まず、交換留学を行う拠点を選定しました。一つは設立年数が古く、取引の大きさに比例して業務量が多く、組織や業務処理方法が確立している拠点(以下、拠点A)です。もう一つは、設立年数が浅く、業務量は中くらいの拠点(以下、拠点B)です。隣接する県の拠点から分割された拠点で、元の拠点の業務処理方法や帳票を引き継いでいました。
A拠点のaさんは経験年数が比較的短く、B拠点のbさんは分割元の拠点から異動になったベテランのスーパーバイザーです。(前掲の図1を参照)

留学先の拠点で勤務した二人はさまざまな発見、気づき、驚きを持ったようです。
「こんな楽な処理方法があったんだ!」(→その日のうちに、自拠点に電話で伝えていました)
「自動化せずに、アナログの手作業でやっているなあ」
「この帳票、使いやすいなあ」(→自拠点にファクシミリで、その後、電子メールで送っていました)
「引き継ぎや新人への指導方法が分かりやすくまとまっているなあ」
「職場の雰囲気がフレンドリーでのんびりしているなあ」(もう一人は「ピリピリしているなあ」と)
などなど。

今まで自分が当たり前だと思っていたことが、他拠点では当たり前ではなかったと気づいたのです。そもそも、拠点間で異なる処理方法、帳票が存在していたなんて思いもしなかったようでした。

考えるは易く行うは難し(段取り、事前準備、コーディネートが成功の肝)

ここまで、書いてきましたが、実際には「考えるは易く、行うは難し」でした。頭の中で立てた企画を実行に移すのは容易ではなかったのです。ビジネスに限らず、多くの企画、計画もそうでしょうが。
スーパーバイザーの一人が抜けて、別の拠点で勤務をするというのは留学元、留学先どちらの拠点でもたいへんなことです。5日間の出張をする本人たちにも大きな負担がかかります。その時は、二人とも女性で、一人はお子さんのいる主婦の方でした。
交換留学では、二人は留学先へ行き、業務の実態を見聞きするだけで良いようにしたいと考えました。計画、段取り、準備などのお膳立てから、宿泊のホテルや切符の手配などもコーディネーターとして私が行いました。

この後、ほかの拠点間でも交換留学を実施し、それを本部で取りまとめて全拠点の業務改善を進めたのですが、それはまた別の機会に紹介したいと思います。

さまざまな部門、職種で適応できる社内交換留学制度

社内交換留学制度は、さまざまな職種、業務で適用が可能です。思いつくものを幾つか挙げてみましょう。

例)

  • 営業所、支店の営業事務
  • 拠点独自で行う現地採用活動
  • 同一商品を製造している生産活動
  • 類似商品を扱っている開発拠点の商品開発
  • 拠点で行っている勤怠管理(シフト設定から勤怠実績集計)、本社人事部への勤怠データ送付

などなど。

どうでしょう? 読者の皆さんの周辺でも、交換留学制度を実行してみようと思われる仕事があるはずです。
ぜひ、トライしてみてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

次回もどうぞご期待ください。

次回は2018年1月18日(木)更新予定です。

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この記事の著者

太期 健三郎

ワークデザイン研究所 代表
石山社会保険労務管理事務所 パートナー・コンサルタント

経営コンサルタント。
管理間接部門の業務改善、HRM(人材マネジメント)の二本の専門領域を持つことを強みとする。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスに勤務後、2008年にワークデザイン研究所を設立。
MURCでは人事コンサルティング、ミスミではコールセンターの業務改善を行った後、三枝匡社長(当時)の直轄タスクフォースで営業改革を推進する。グロービスではコンプライアンスおよびリスクマネジメントを統括、推進。
また、2013年~2015年にはクライアント企業の食品メーカーの内部改革者として人事部長・経営改革室長を兼務する。
「患者様の声をよく聴き、丁寧に診断・治療する“中小企業のかかりつけ医”」を信条としている。
ワークデザイン研究所
石山社会保険労務管理事務所

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