RPA導入成功の秘けつに迫る

RPA導入のポイント:企業全体の業務設計を変更する覚悟が必要

失敗しないRPA導入のために、成功のポイントや失敗例などについて紹介していただきました。

  • * 「キューアンドエーワークス株式会社」は2020年7月1日に「ワークスアイディ株式会社」に社名が変更されました。
    本記事では、新社名にて修正掲載をしています。

RPA導入のポイント

SIerが提供する導入支援サービスを活用

RPAを導入する際に重要となるポイントについてお聞かせください。

RPA導入に当たり、三つの準備が必要になります。

1.手順書・マニュアル作成

一つ目は、デジタルレイバー向けの手順書・マニュアル作成です。人であれば暗黙の了解で伝わる部分がデジタルレイバーには全く伝わりませんので、例外を含めた詳細な部分まで作りこむことが求められます。そのためには、現状の業務をそのまま自動化するのではなく、現状の業務を全て洗い出し、“人の作業”と“デジタルレイバーの作業”とを切り分ける必要があります。

2.現状業務のスリム化

二つ目は、人と異なりミスをしないデジタルレイバーですから、それに合わせた現状業務のスリム化が重要だということです。現状の業務では、必ずミスを見落とさないためのチェック工程が組まれているはずですが、デジタルレイバーには不要となります。業務のスリム化というメリットを可視化し、他部門や経営者にRPA導入についての正しい理解を得ることが大切です。

3.トラブル時の対策

三つ目は、それでもトラブルが発生した場合の対策です。人がデジタルレイバーの業務を常に理解しておくというエラーハンドリングが重要になります。例えば震災の影響で、デジタルレイバーが機能しなくなるということも考えられ、そうした場合はすぐに人による作業に戻すことができる体制づくりが求められるのです。

デジタルレイバーに業務を詳細に教え込む、教え込んだからにはデジタルレイバーを信じる、万が一に備えてエラーハンドリングを行う、この3要素を抑えたうえで業務を平準化し、属人化していた業務を可視化することが大切です。そしてどの業務からRPA化に着手するかという計画を立てることがRPAの効果を高めるために有効になります。

RPA導入未経験の場合はハードルが高そうですね。

初めてRPAを導入する際、これら一連の作業は非常に高い負荷が掛かります。経験者はいないし、コンサルタントを雇えばさらにコストが掛かる。後の業務のスリム化を考えると、導入時だけのための社内スタッフの増員は望めません。

そこで重要なのがSIerの選定です。業務改革、RPA導入のノウハウを持つSIerの力を借りることで、RPA導入のための基盤づくりがスムーズに遂行できます。さらに、デモなどでRPAを体感すればアイデアの出方が変わり、当初の予定よりも大きな広がりが見えるでしょう。また導入後のサポートもあれば、RPAの定着化までのスムーズな進行が期待できます。

高付加価値を提供してもらえるSIer選びが大切

それでは、導入支援サービスを提供するSIerにはどのような役割が求められますか。

RPAの導入は、新たな労働力として入社したデジタルレイバーを受け入れることを意味します。一方で、デジタルレイバーに仕事を奪われるかもしれないと疑心暗鬼になっている既存の社員がいます。その両者をどのように組み合わせて、利害関係をいかに調整していくかということが難しいポイントになるのです。

そのためには、人の作業をそのままデジタルレイバーに置き換えるのではなく、デジタルレイバーが働きやすい環境を整え、人の仕事とデジタルレイバーの仕事との差別化を明確にすることが重要で、そこではSIerのサポートが役立ちます。

業務の棚卸し、適用業務の検討、稼働後の運用など、RPA導入のあらゆるフェーズにおいてサービスを用意しているSIerであれば、導入プロジェクトで直面する多様な課題の解決をサポートしてもらえるでしょう。また、自動化にはさまざまな手段がありますが、RPAで自動化すべき業務、Excelのマクロで自動化すべき業務、基幹業務システムの機能を活用して自動化すべき業務などを切り分ける判断は難しいため、SIerに相談することを推奨します。

SIer選びに際しては、最新の情報に通じていて、多彩なサービスメニューで高付加価値を提供してもらえるかという点を重視する必要があります。

デジタルレイバーという人材を調達する役割を受け持つ情報システム部門

RPAを新たな労働力として、現場にフィッティング

中堅企業でRPAを導入する際、社内の情報システム部門はどのような役割を果たすことになるのでしょうか。

大手企業において情報システム部門は、部門間を連携させる役割を果たしています。しかし、中堅企業の場合は、IT機器の維持管理の役割を任されているケースが多く、また専門の情報システム部門がないケースもあります。

そうした中堅企業では、情報システム関連業務は一人工あるいはそれ以下という規模である場合が多く、総務部門のスタッフが兼任していることも珍しくありません。従って、それらの業務が片手間となってしまい、壊れた機器やライセンス期限が切れたシステムの入れ替えなど、使えさえすれば良いという必要最低限の範囲での対応とならざるを得ないことも多いと思います。

中堅企業では、仕事をするうえで必要なIT機器の維持管理が主な役割となりますが、RPAの導入に伴い、デジタルレイバーという新しい人材を調達する役割も担うことができます。

人材を調達というと人事部の仕事に思われがちですが、RPAというツールを入手し、それが活躍できる場を整え、新たな労働力となるように各現場にフィッティングするという仕事は情報システム部門にしかできません。

たとえ一人だけの情報システム部門であっても、人件費より低コストで仕事の幅も広いRPAの導入が引き起こす改革は大きく、その担当スタッフが社長賞を受賞するというケースは珍しくありません。

そのほかに情報システム部門が担う役割はありますか。

RPA導入までの道のりは簡単なものではなく、大きく分けて二つのステップがあります。それを担うのも情報システム部門となります。

まずはRPAが稼働できる環境を整えなければなりません。つまり、人が働きやすくするために職場環境を整備するのと同様に、デジタルレイバーが働けるようにIT環境を整備することが大切になるのです。

そして第二に、前述した三つの準備が必要となります。現状業務作業の切り出し、業務のスリム化、エラーハンドリングの体制づくりです。

RPAの導入後は、デジタルレイバーという新しい労働力が加勢してくれます。そしてこれまでぎりぎりで回している人員に余力が生まれ、その余力でまた新たなデジタルレイバーを作り出していく。それが情報システム部門の新たな役割となり、デジタルレイバーという人材を調達する部門として機能することになるでしょう。

RPA導入の目的を正しく認識することが必要

逆にRPAを導入に失敗するとしたら、どのようなケースになりますか。

紙を重要視している企業は難しいですね。デジタルレイバーはあくまでもデジタル上の労働者ですので、紙ベースの業務には太刀打ちできません。RPAを導入するための前提が整っていないといえるのです。

またRPAの導入によって、雇用を減らすことができるという考え方は良くないですね。既存の社員の能力を引き出すという発想があれば成功につながります。人がやるべきではない単純作業をRPAによって削減し、人はより創造性の高い業務に振り向け、人本来の重要性に本気で向き合うという姿勢が大切です。

そのために、多少の初期コストが掛かっても、RPA導入の担当者を決めて、社内体制を構築することが求められます。その担当者は、開発を行うという意識よりも、RPA導入の本当の意義を社内に伝達するエバンジェリストとしての役割を意識する必要があります。

その担当者は、どのような人物像が求められますか。

いわゆるデジタルネイティブである若者が向いていると思っています。生まれたときからインターネットが当たり前になっていて、高いITリテラシーを身に付けています。

そして、便利なツールを選び出し、無駄な作業を削減することに優れています。従ってRPAを導入する際も、手間ひまを掛けていた作業を便利なツールに置き換える能力を生かすことができるでしょう。

人事や経営にかかわる側面をベテランの社員が補完しながら、デジタルネイティブの持っているセンスを有効に活用するという考え方が重要です。経験の少ない新人にはまず単純作業を担当させるといった丁稚奉公のような発想ではなく、そうした作業に疑問を抱えているからこそ、その効率化には積極的に取り組むようになるという点に着目することが大切になります。

ERPをカスタマイズする代わりにRPAを活用

ERPを運用している企業において、RPAをどのように位置付ければ良いでしょうか。

ERPをカスタマイズするには大きなコストが必要になるケースが多いのですが、RPAを活用することでコストを低く抑えることが可能になります。

例えば、年に数回程度しか発生しないものの、いざ発生すると大きな手間が掛かるような部分の自動化を検討する場合、ERPをカスタマイズするという方法はコスト面で折り合いが付きません。そこでその作業をRPAに置き換えれば、大きなコストを掛けることなくERPの不十分な面を補完できるようになるのです。

ERP以外にもRPAへの置き換えが可能なケースはありますか。

もちろん、システムをカスタマイズする代わりにRPAに置き換えるという活用方法はERPに限ったものではありません。具体例としては、顧客管理システムを活用していた不動産企業のケースが挙げられます。

顧客管理システムは営業スタッフが情報を入力するルールで運用されていましたが、日々の業務に忙殺され入力が滞っているということが多発していました。しかし、全てのスタッフの入力状況をチェックする作業も大きな手間が掛かってしまうため、顧客管理システムの有効活用が促進されない状況が続いていました。

そこで、そのチェック作業にRPAを提供し、入力を怠っている営業スタッフへの注意喚起を徹底したことで、顧客管理システムが正しく運用されるようになりました。

また人事部門で、勤怠管理にRPAを活用した事例もあります。既存の勤怠管理システムには社員それぞれの累計残業時間を確認できる機能がありますが、全ての社員をチェックする作業は大きな手間を要するため、頻繁に行うことができません。

そこでデジタルレイバーにその作業を置き換えたところ、毎日全ての社員について残業時間を確認することができるようになり、一定の閾値を超えた場合はアラートを発することで対応を促すということが実現しました。

プロフィール

ワークスアイディ株式会社 代表取締役社長

池邉 竜一 氏

慶應義塾大学経済学部卒業。1999年7月に人材派遣業の株式会社アークパワーを設立。2001年4月、同社代表取締役就任。2013年4月、キューアンドエーグループ傘下(NECネッツエスアイ連結対象会社)となり、2015年7月、ワークスアイディ株式会社に社名変更。2016年7月、一般社団法人日本RPA協会の理事に就任。RPAに関する幅広い経験に基づき、『デジタルレイバーが部下になる日』(日経BP社)を執筆。デジタルレイバーがもたらす未来の働き方について、余すところなく紹介した一冊として注目を集めています。

『デジタルレイバーが部下になる日』(RoboRoidサイト)

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  • * 本記事のダウンロードPDFでは、取材当時の旧社名「キューアンドエーワークス株式会社」で掲載をしています。
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