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RPA導入成功の秘けつに迫る
今後のRPAの展開:データサイエンスの領域をRPAがカバー
RPAは今後いかに進化し、それに対応するために、どのようなことが企業に求められるのかについてお話しいただきました。
- * 「キューアンドエーワークス株式会社」は2020年7月1日に「ワークスアイディ株式会社」に社名が変更されました。
本記事では、新社名にて修正掲載をしています。
今後のRPAの展開
データサイエンスの活用を経てからAI活用の段階へステップアップ
今後、RPAはどのように発展していくとお考えでしょうか。
一般的にRPAは三つの段階に分かれているとされています。1.0は“Process Automation”の文字どおり、ルーチン化している定型作業を自動化するというものです。2.0はデータの分析などの非定型作業を自動化、そして3.0は多面的な分析結果に基づく意思決定などの高度なプロセスを自立化します。2.0以上では「判断」が必要な段階となり、AI(人工知能)と呼ばれる仕組みが必要になるのですが、私は1.0と2.0との間に1.5があると考えています。1.5は、AIが深層学習するために必要な大量のデータを、RPAによりビッグデータから抽出するというフェーズです。
RPAはインプットとアウトプットを行い、その間にはデータベースがあります。RPAの活用により、そのデータベースにビッグデータを蓄積し、データレイク化(注)することが容易になりました。そして、そのデータレイクの多様なデータから有用な知見を見いだすデータサイエンスの領域にも、RPAは高い親和性を有しています。つまりRPA1.5は、インプット・データサイエンス・アウトプットという連携でビッグデータを活用して、さまざまな予測を立てるという分野をRPAがカバーするという段階になります。
人手に頼ってビッグデータから何かしらの知見を見いだそうとしても、時間的な制約もあり、非常に大きな困難が伴います。しかし、デジタルレイバーであれば、24時間分析し続けることができるため、その結果に基づいたアラートやヘッドラインを、即座に人に伝えることが可能になるのです。
この1.5の段階まで到達することで、AIによる学習効果を発揮するという2.0が初めて視野に入ってきます。
- (注)データレイク:データ形式を問わず、多種多様なデータを蓄積する基盤
行動力と創造性を発揮して人間らしさを生かす
そうした展望を踏まえて、今後人とデジタルレイバーはどのようにかかわっていくようになるのでしょうか。
人は創造性を発揮する領域に専念していくようになるでしょうね。例えば、新薬の開発は失敗から生まれている例が多いといわれていますが、さまざまな発明は思いも寄らぬ事象から奇跡を生み出すという側面を持ち合わせています。
人は間違いから新しいものを生み出す能力を有しています。しかしAIを組み込んだデジタルレイバーはその逆で、学習を繰り返すことで間違いが減っていきます。
つまり人とデジタルレイバーそれぞれの得意分野は相反していく関係性にあるといえます。それを踏まえると、人は行動力と創造性を発揮して人間らしさを生かすことが求められます。
言い換えれば、「熱い人間」「情熱的」「行動力」「冒険心」などがキーワードになっていくでしょう。この人間らしさとデジタルレイバーの知性との組み合わせで今後どのような効果が表れるかは、非常に興味深いですね。
パソコンやスマートフォンなどが普及し、人が記憶力を求められないようになりました。そうした状況にあっても、コミュニケーションやリーダーシップなど、人が人に与える影響の重要性は変わることがありません。
もはや知識だけで人をけん引できる時代ではないのです。人間らしさを発揮して周囲に良い影響を与えることがビジネス界で求められていくでしょう。
人の創造性を発揮できる環境づくりが必要
今後は人の働き方によって企業に対する評価も変わってくる時代がくるのでしょうか。
今後RPAの普及に伴い、人が能力を発揮できない業務を無理に押し付けるような姿勢は社会的に問題視され、場合によってはブラック企業として扱われるような時代がくるでしょう。
旧来のコツコツと努力するという美徳の中に、人の能力を閉じ込めてしまうことは避けなければなりません。日本の労働法は労働を時間で評価することを前提としているため、能力や創造性に対して報酬を支払うことが難しい状況になっています。
それは、労働法がブルーカラーを想定して整備されたことに起因しています。その影響で、ホワイトカラーであっても、定型業務をミスなく真面目に続ける人が優秀だと評価されます。
この価値観を企業が早々に捨て去り、定型業務はデジタルレイバーに任せて、人は事業を通じて社会を豊かにしていくことに思い馳せ、それを実行するということにシフトすることが、現在の競争社会を生き抜くカギとなるでしょう。実際に労働時間の2割を、創造性を発揮するための空想に充てるという方針を打ち出している企業もあります。
こうした思想をいち早く取り入れ、人が創造性を発揮しながら生き生きと働くことができる環境づくりが企業には求められていくのではないでしょうか。
プロフィール
ワークスアイディ株式会社 代表取締役社長
池邉 竜一 氏
慶應義塾大学経済学部卒業。1999年7月に人材派遣業の株式会社アークパワーを設立。2001年4月、同社代表取締役就任。2013年4月、キューアンドエーグループ傘下(NECネッツエスアイ連結対象会社)となり、2015年7月、ワークスアイディ株式会社に社名変更。2016年7月、一般社団法人日本RPA協会の理事に就任。RPAに関する幅広い経験に基づき、『デジタルレイバーが部下になる日』(日経BP社)を執筆。デジタルレイバーがもたらす未来の働き方について、余すところなく紹介した一冊として注目を集めています。
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