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自社でのRPA導入実績で蓄積したノウハウをベースに、充実したRPA関連サービスを提供
近年多くの企業でRPA(Robotic Process Automation)の導入が進んでいますが、大塚商会もサポートセンターで本格的に導入し、大きな成果を上げています。そしてその経験を生かし、お客様向けのRPA関連サービスを整備。ツールの提供と共に、導入から運用支援に至るさまざまなフェーズにおける多彩なサービスメニューをそろえ、お客様のRPAの導入を強力にサポートしています。
- * 「キューアンドエーワークス株式会社」は2020年7月1日に「ワークスアイディ株式会社」に社名が変更されました。
本記事では、新社名にて修正掲載をしています。
「大塚商会が実践した、RPA導入の稼働事例と成果」について、本ページで読めるインタビューの内容を動画でもご覧いただけます。
- * 動画の内容は、本インタビュー記事を2分18秒にまとめたダイジェストの内容となっています。
サポートセンターで100種類以上のRPAを開発し、大幅なコスト削減を実現
大塚商会は、サポートセンターの業務効率化を図るためにRPAを導入。その経緯、導入成果、今後の展望などについて、技術本部 たよれーるコンタクトセンター アプリケーショングループ 部長 杉本 俊彦、たよれーるマネジメントサービスセンター ネットワーク運用課 次長 柿崎 敦、たよれーるマネジメントサービスセンター ネットワーク運用課 シニアテクニカルスペシャリスト 田端 健二の3名に聞きました。
膨大な件数のサポート業務の効率化に向けた取り組みを推進
大塚商会のサポートセンター部門では、サービスや製品に応じて「たよれーるコンタクトセンター(以下、TCC)」と「たよれーるマネジメントサービスセンター(以下、TMSC)」の2種類のサポートセンターを運営しています。
杉本:TCCは大塚商会のサービス&サポートプログラムの総称である「たよれーる」における保守サービスの中心拠点であり、コミュニケーター約500名で月間10万件の対応を行うコンタクトセンターです。TCCでは、お客様情報や対応履歴などを管理する、CTS(Call Tracking System)と名付けたシステムを運用しています。TCCは扱う商品のカテゴリーで幾つかの課に分かれており、CTSは全ての課で活用していますが、それぞれのカテゴリーの特性に応じてカスタマイズしたいという要望がありました。しかし、一部のカテゴリーのみを対象にCTSを改修すると、システムが複雑化してしまうことから、その要望の全てに応じることはできませんでした。従って、CTSで対応しきれない部分の作業は、よくあるケースですがExcelなどを使って手作業で対応していたのです。
一方でTMSCでも、業務効率化のニーズは高まっていました。
柿崎:TMSCでは、お客様にご提供するさまざまなサービスのサーバー、ネットワーク機器、ソフトウェアなどを管理しています。その具体的な作業としては、監視、障害対応、契約に基づくサービスリソースの割り当てなど、多数の定型業務を遂行しています。そうした作業をシステム開発で自動化する取り組みを2016~2017年にかけて実施しました。その成果としてさまざまな作業を自動化することができましたが、自動化の開発には大きな手間やコストが掛かり、また対象は限られていました。
プログラミングの知識がなくても開発可能なRPA
TCC、TMSCともに業務効率化に関する課題を抱えていたところ、大塚商会の執行役員の一人がRPAに出会い、課題解決手段の有力な候補として浮上しました。
杉本:サポートセンター全体で業務効率化に向けた取り組みが必要とされていた状況で、RPAという解決手段が一躍スポットライトを当てられることになりました。そこで、以前から取引があったワークスアイディ株式会社(以下、ワークスアイディ)に相談し、詳しい説明を聞いたところ、これなら大きな効果が期待できるということになり、本格的にRPA導入に向けた取り組みを開始することになったのです。
柿崎:まずはワークスアイディが開催しているハンズオンセミナーに数名のメンバーが参加することから始めました。ロボット開発ツールの基本と応用、実業務想定という3段階のハンズオンセミナーの後、そこでの経験を基に社内でRPAに関する知見を広めていきました。
田端:勉強会に参加したところ、とても衝撃を受けました。RPAではGUI(Graphical User Interface)上でフローチャートを描き、そこにアクションを指定するだけで開発できることが分かったのです。従来のシステム開発では、要件定義を行い、フローチャートを描き、スクリプトを書き起こすという煩雑なプロセスが必要でした。しかしRPAの開発では、最低限の要件定義からプロトタイプの作成・修正を行い、最終的に間違いのない開発が行えます。さらにExcelなどの実行環境をそのまま自動化できるRPAの開発は、システム構築や開発にかかる手間も少なく、部署内でもすぐに受け入れられると感じました。
人手では諦めていた業務にロボットを適用することで大きな成果を
こうしてRPAの開発に着手し、2017年4月にプロジェクトを発足。TCCとTMSCを合わせて100種類のRPAを作ることを目標として掲げました。具体的なアイデアを社内でコンテストとして募集した結果、予想以上にアイデアが集まりました。
杉本:まずは業務の棚卸しを行い、そのうえでコンテストを開催したところ、150種類ほどのアイデアが集まりました。これらのアイデアの中から選んだ案件と、かねてからプロジェクトメンバーで考案していた案件について開発を推進しました。
結果として、2017年末までに約60種類のロボットの開発が完了しましたが、その中で特徴的なものとして、お客様からのお問い合わせ内容を分析するロボットが挙げられます。
田端:ロボットの開発を進めていく中で、一つ面白い発見がありました。開発当初は、現在する業務の効率化に焦点が当たっていたのに対し、開発を進めるにつれ、ロボットだからこそ可能な業務はないかという点に焦点が移行していったのです。ロボットならではの業務の代表的なものを一つご紹介します。当社では公開Webサイトにお客様向けのFAQを載せております。お電話が苦手な方にも快適にサービスを使用していただきたいという思いから作成しました。しかし、そのFAQを、日々頂くお問い合わせ内容が反映されている充実した内容にしたいと考えても、その量は膨大です。しかし、RPAというロボットでは、この分析作業が可能なのだと気がつきました。実際に開発してみたところ、4万種類もの検索条件の入力が必要となる、人手では970時間かかると試算される分析作業を、わずか1時間で完了させてしまいました。そしてFAQを充実させることが可能となり、内容によってはお問い合わせ件数が半減したという効果も表れました。実際に導入・開発に着手し、RPAというロボットについて理解を深めることで、ロボットは導入当初の期待値を大きく飛び越えて活躍するのです。
数多く開発したロボットは全てがスムーズに開発できたわけではありません。
田端:CTSは毎月約10万件もの対応履歴を保存しています。従ってTCCで業務にRPAを適用するためには、CTSのパソコンの画面上での操作をRPAで自動化することが必要になると考えていました。しかし、当初採用したRPA製品でフロー形式でのシナリオ作成を得意とする「BizRobo!」では対応しきれない業務もあることが、実際に導入してみて分かりました。そこで別のRDA製品でExcelやブラウザーの操作を得意とする「WinActor」を導入することでCTSの自動化を実現することにたどり着くことができました。このように製品によって長所と短所があるため、自動化の内容によって使い分けるという発想も大切になると実感しました。
年間で1億円以上に相当するコスト削減・生産性向上の見込み
2017年末までに開発されたロボットは、人件費に換算すると年間8000万円相当の業務をこなすと試算されています。
田端:ロボットは、従来人が行っていた業務を置き換えて遂行するタイプと、これまでは人手では不可能だった業務を行うタイプがありますので、8000万円という金額の全てがコスト削減に該当する金額ではありません。大まかに分析したところ、それぞれのタイプのロボットによる成果がほぼ半々であることが分かりました。コスト削減だけでなく、先ほど例に挙げたような、ロボットならではの働きによる効果が非常に大きいのです。さらに2回目のコンテストの成果として2018年4月までに開発するロボットもあり、それも含めると年間の合計金額は1億円以上になる見込みです。また開発数としても100種類を超えることになります。
杉本:今後は追加開発を行うだけではなく、開発済みのロボットを見直し、バージョンアップを施すことも並行して行っていきます。仮に1種類当たりの改修による効果が少なかったとしても、多くのロボットを改善することで、全体では大きな効果になると期待しています。逆に、期待したほどの効果が出ず、ライセンスコストに見合わないと判断できるものがあれば、廃止を検討することもあるでしょう。
RPAはプログラミングの知識がなくても開発が可能ですが、業務に適用した場合の効果測定、稼働開始後の運用管理やスケジュール管理、サーバーがダウンした場合の対応策の整備などを考慮すると、専門家のサポートを受けた方が成功する可能性が高まります。
杉本:大塚商会の場合、社内にITスキルに通じたスタッフがいるため、基本的に外部のサポートをほとんど必要としませんでしたが、例えば中堅企業で初めて導入するといったケースでは、SIerにサポートしてもらう方がいいですね。そしてアドバイスを受けながら、業務の棚卸し、適用業務の検討、要件定義、導入製品の選定、ロボットの開発といったプロセスを進める必要があります。その際、少人数でもいいので、社内で専門のチームを組織し、そこからロボット開発・活用の気運を社内に広めていくというアプローチが有効です。
柿崎:中堅企業の場合、属人的になっている業務も多い可能性がありますので、そこにRPAを適用すると高い効果が期待できます。特定の社員しかできないと思われていた業務でも、内容は定型業務であることが多く、ロボットに置き換えることで効率化できるでしょう。
田端:通常のシステム開発とRPAの開発の違いはランチェスターの法則に当てはめられると私は考えています。通常のシステム開発では第一法則、つまり武器の性能が重要で、これを開発に置き換えると個人の開発能力の高さが効率良い開発の条件になります。一方でRPAは第二法則、すなわち兵力の二乗×武器の性能で表現できる世界です。それぞれのロボットの効果は少なくても、数多く開発することによって全体でものすごい威力を発揮します。実際に、今回のコンテストでは多くのアイデアが集まり、専門知識のないスタッフの手によって数多くのロボットが開発され、結果として全体で億単位の効果を生み出すことに成功しました。従って、RPAを開発する際は、少ない種類を開発しただけで効果を評価せずに、多くのロボットを作り、全体で大きな成果につながることを実感していただければと思います。
自社でのRPA導入経験を生かして、多彩なサービスメニューを整備
大塚商会では、自社でRPAを導入した際に蓄積したノウハウをベースに、お客様向けのRPA関連製品やサービスをご提供しています。その詳細や特長、お客様がRPAを導入する際のポイントなどについて、マーケティング本部 クラウドプロモーション課 上級課長 尾花 政一が説明します。
用途に応じて最適なRPAツールを提供
尾花:大塚商会はRPAに関しては自社製品をリリースしていないこともあり、複数の他社製品を取り扱っています。具体的にはサーバー版であるRPA製品「BizRobo!」、PC版であるRDA製品「WinActor」、さらにWebブラウザーとメーラーの操作に特化した「Autoブラウザ名人」や「Autoメール名人」を中心にさまざまなツールを用途に合わせてご提供しています。特に「BizRobo!」や「WinActor」についてはTCCとそれをサポートしている運用・技術部門が扱っており、数々の導入実績を積み重ねています。
事前準備から稼働後の運用までRPA導入のあらゆるフェーズを網羅
尾花:また、ツールの提供だけではなく、事前の情報収集、導入計画の立案、ロボット化の検証、ロボット作成、運用管理といった全てのフェーズにわたって以下のようなサービスメニューをそろえています。
大塚商会が提供するRPAサービスメニュー(一例)
- RPAハンズオントレーニング:実際にRPAツールに触ることで、疑問や不安を解消します。
- Officeマクロ互換性検証:最新のOfficeでもマクロが動くかどうかを検証します。
- 簡易導入事前サービス:RPA / RDAツールで自動化すべき業務かシステム開発すべきかなどを判断します。
- 検証支援PoCサービス:2カ月間の試用ライセンス権と導入支援をセットで提供し、実際に業務をロボット化してRPAの導入に関する「概念実証(PoC)」を行います。
- 簡易導入計画診断~HIT.s~:業務改善のAs-Is&To-Be(ギャップ分析)管理を一括で行えるツールをご提供します。
- トライアル支援サービス:試用ライセンスのインストール、要件ヒアリング、サンプルロボットの作成を行います。
- 導入支援サービス:ロボット化の検討結果を基に、ロボットを順次作成し、稼働までを支援します。
- 定着化・習慣化:利用者向けのトレーニングを多数そろえています。
- サポート:稼働開始となったロボットに関して、メールでの技術支援を行います。
- 追加ロボット支援:ニーズに合わせて追加のロボット作成を支援します。
尾花:通常のRPAのSIerは、特定の製品や業務を得意としているケースが多いと思いますが、大塚商会はさまざまな製品や業務を網羅しつつ、事前準備から稼働後の運用までをフォローしています。これほど網羅的なサービスメソッドをあらゆるフェーズでそろえているSIerはほとんどないでしょう。自社におけるRPA導入の経験を通じて積み重ねた知見を生かしたからこそ、充実したサービスメニューを整備することが可能になったのです。
RPA導入で直面するさまざまな課題の解決をサポート
尾花:実際にRPA開発に着手すると、さまざまな課題が発生すると思います。RPAは業務の現場側のスタッフ自らの手で開発できるという点が大きな特長になっているものの、最初から独学でマスターするのは困難で、どのように作ればいいのか分からないという悩みに直面します。そのような課題に対応するため、大塚商会では各種ハンズオンセミナーを開催しています。このセミナーは専門のロボット開発者を一から養成できるような教育体系になっていますので、ぜひ有効に活用していただきたいと思います。
また、通常のシステム開発と異なり、RPAは稼働開始後もそのロボットを育てていく必要がある、という特徴を持っています。そのためにはRPAのPDCAサイクルを回すための人材を確保して体制を作る必要がありますが、大塚商会ではその体制づくりをサポートするサービスをご提供しています。
大塚商会はこうした人材育成関連のサービス以外にもさまざまなサービスによってお客様の課題解決をサポートしています。
尾花:これまでの経験で、お客様企業の中でRPAに対する関心が最も高いのは経営層の方々だということが分かっています。人件費の対策をしたい、雇用の確保が難しいといった経営課題の解決を目的としているのでしょう。しかし、いざ業務を区分けしてロボットの適用業務を洗い出そうとしても、どこから着手していいのか分からないという状況になります。しかし、業務の効率化、自動化は必ずしもRPAに頼る必要はありません。例えば、業務によってはExcelのマクロを活用すれば解決するものもあるでしょう。このように区分けした業務をRPAで自動化するもの、Excelのマクロで自動化するもの、あるいは基幹業務システム「SMILE」シリーズを既に活用されている企業であれば、「SMILE」シリーズに組み込まれているRPA機能で自動化するものというように、業務によって自動化の手段を切り分けることも有効です。こうした判断をサポートするため、大塚商会はコンサルティングサービス(簡易導入事前サービス)をご提供しています。
RPAの最大の特徴は、「入れてみないと分からない」という点にあります。これは事前に効果予測が難しいということだけではありません。例えば、ロボットが稼働し続けられるかということは、実際に稼働させてみないと分からないこともあります。あるいは、止まってしまった場合にどのような対策が必要で、そのためにはどの程度の工数が掛かるのかということも事前に予測することは困難でしょう。こうしたことを体感できるように、大塚商会は2カ月間の試用ライセンス権と導入支援をセットで提供する「検証支援PoCサービス」をご用意しています。
こうしたサービス提供を通じてこれまで多数のお客様のRPA導入をサポートしてきましたが、導入されたお客様の多くではその効果が反響を呼び、その後も活用範囲が広がっています。つまり、最初は経営層の方々が興味を持ったかもしれませんが、導入してみると現場のスタッフの方々が喜んで受け入れているということにつながっているのです。このような広がりを維持するためには、導入を検討する際にRPAをサステナブル(継続的)に展開できる社内体制を構築することが非常に重要になるでしょう。
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