第153回 人材育成での「見て覚えろ」と「手取り足取り」の話

人材育成の中で「見て覚えろ」と「手取り足取り」という人がそれぞれいて、この両方ともバランスよく使い分ける必要がありますが、自分の体験してきたやり方に偏りやすい傾向には注意が必要です。

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人材育成での「見て覚えろ」と「手取り足取り」の話

企業の人材育成で部下や後輩に仕事を教えようとするとき、実際の業務を通じたOJTで行っていくことが多いと思います。特に中小規模の企業では、必ずしもOFF-JTの研修制度が整っていないこともあり、実務を通じて教えることを中心にせざるを得ない場合もあります。
また、仕事の指導ができるレベルの人材は、現場の中心を担っていて多忙であることが多く、教えることにあまり手間がかけられないという事情もあるでしょう。

こういった環境の企業では、「教えてもらえないのが当たり前」「仕事は見て覚えろ」という人がいます。自分たちはそうやって仕事を覚えてきたと言い、そういう自負がある人ほど「見て盗め」「見て覚えろ」という言い方をします。またOJTでのよくある光景で、「何かあったら質問して」と言っている場面を見かけます。しかし、これも遠回しにいえば「見て覚えろ」の一種ということができます。

「見て覚えろ」も「手取り足取り」も効率的な育成方法とはいえない

仕事を教わる側に最初の発信を委ねてしまうと、「何かあったか、なかったかが分からない」など、教わる側に質問できるだけのスキルや判断基準がなかったり、「相手が忙しそう」「既に教わったことかも」「こんな質問は迷惑では」などと躊躇(ちゅうちょ)したりします。コミュニケーション不足や的外れなやり取りに終始して余分な時間を要するため、効率的な育成方法とはいえません。
職人の手作業のように数をこなして覚えていくものであれば、それでもよいのかもしれませんが、一般的な企業の人材育成では、やはり教える側が相手の様子を観察して働きかけることが必要でしょう。

この「見て覚えろ」の正反対の対応で、何でもつきっきりで教える「手取り足取り」という人がいます。
面倒見が良く、人材育成に向いているように見えますが、反面では教わる側の自主性を奪っているともいえます。教える側が教わる人の自分で考える機会を奪ってしまい、自己解決する姿勢や習慣、知識が身につきません。この「手取り足取り」の人たちに多く見られる問題は、「すぐに答えを教えてしまうこと」です。場合によっては「こちらでやっておくから」などと言って仕事を取り上げてしまうこともあります。
ほとんどの場合は教える側の親切心で、本人も善意で行っているケースが少なくありません。しかし、考える機会が奪われることで仕事の習得や習熟が遅れがちになり、こちらも効率的な人材育成ということはできません。

効果的な育成方法とは何か

「見て覚えろ」と「手取り足取り」とは、どちらが良くてどちらが悪いと決められるものではなく、場面に応じてうまく使い分けなければならないものです。
「見て覚えろ」であれば、本人に意図的に観察させて考えさせるのであればよいですが、行き過ぎると「放置」になってしまいます。
「手取り足取り」では、基本を細かく教えるなど、その人のレベルに応じたかかわり方であればよいですが、同じく行き過ぎると「過干渉」となってしまいます。
「放置」でも「過干渉」でもない中間でバランスを取ることが必要になりますが、そのためには相手の性格や能力、適性も考慮しなければなりません。

気をつけなければならないのは、教える側の人は良くも悪くも、自分が過去に受けた育成方法と同じやり方に偏りがちだということです。特に自分の成功体験としているやり方があると、そこに偏る傾向が強まります。
スポーツ指導の場で監督やコーチによる暴力が問題になることがあります。過去に自分がそういう指導を受けていて、そのおかげで強くなったなどという自負があると、自分の体験と同じような指導方法を繰り返してしまいがちです。

相手の性格や能力にあった柔軟な指導が成長を加速させる

「自分の過去の経験というのは、嫌なことでも「そのおかげで成長できた」などと肯定的な記憶に転換されることも多く、もし反省があったとしても、それ以外の方法で指導された経験がないために、結局同じような対応に終始していることを見かけます。自分の中にその引き出ししか持っていないためです。その結果、相手の性格や能力に合わない指導が行われ続けて、成長を遅れさせてしまうことがあります。

「見て覚えろ」と「手取り足取り」との使い分けもそうですが、人材育成においては、自分がうまくいったと思う成功体験がある人ほど、本当に同じやり方で良いのかを問い直す必要があります。自分の経験だけにこだわらない柔軟さが必要です。

次回は6月23日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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