第151回 仮説提案は本当の課題を聞き出すもの……提案書の枚数は少なめに
顧客の要望を待つのでなく、営業自らが仮説として顧客の課題と解決策とを考えて積極的に提案する仮説提案営業が増えています。しかし、理解してもらえない、受け入れてもらえない……。その原因の一つは、要求されたときと同じ体裁で提案書を作成していることです。今回は仮説提案営業の特性から、成功する仮説提案書の作り方についてご紹介します。
仮説提案は本当の課題を聞き出すもの……提案書の枚数は少なめに
最近、新規案件を獲得するために、仮説提案営業を進める会社が増えています。
営業担当者自らがお客さんの課題と解決策の仮説を考えて積極的に提案する営業。
お客さんの情報を集めて、課題を考え、商品による解決策を考え、お客さんのメリットを考える……一生懸命に考えてお客さんに提案。
しかし、お客さんから「課題がないから大丈夫、検討していないので必要ない」
うまくいかない……
全20ページの提案書を作成し、仮説提案を力説
コールセンター会社セントCRMの営業担当Aさんは、健康食品メーカーのリーディングファーマーを2年間も訪問しているのに案件を獲得できていません。そこで、仮説提案をしようとお客さんから聞いた情報から課題と解決策、メリットを考えて提案書を作成しました。
Aさんが作成した仮説提案書は……
- リーディングファーマーの背景
- 健康食品市場は競争が激しい。
- 健康志向が高まっているため健康食品の需要は伸びている。
- 健康食品は年代別に需要が異なる。
- リーディングファーマーの方向性
- 競争に勝つために、年代別の需要に合った商品開発を強化していく。
- 商品開発を強化するために、消費者の声を活用する必要がある。
- リーディングファーマーのコールセンター
- コールセンターには、クレームや商品の問い合わせ、販売している店舗、追加注文……さまざまな問い合わせが入ってくる。
- リーディングファーマーの課題
- コールセンターに入ってくるさまざまな消費者の声の中から年代別の需要を把握できる仕組みが必要。
- リーディングファーマーの解決策
- 需要を把握するために必要な問い合わせ理由を収集するコールセンターを確立する。
- トークマニュアルの改善:問い合わせに返答する→返答した後に問い合わせの理由を聞く。
- オペレーターの指導:リーダーがオペレーターの会話を録音し指導。
- システムの改善:問い合わせ理由の情報から需要を分析できるシステムに改善。
- リーディングファーマーのメリット
- 消費者の声を活用することで、年代別の需要に対し精度の高い商品開発を進めることができる。
- 競争の激しい健康食品市場で早く新商品を投入できることでシェアを拡大。
Aさんは、提案の説得力を増すために、以下の情報も調べて提案書に記載しました。
- 健康食品業界全体の売上推移、年代別の売上推移
- 競合他社の年代別の注力商品
- 現在のリーディングファーマーの年代別の商品ラインアップ
そして、コールセンターの体制や運営方法などをまとめて、全部で20ページの提案書。
「力作の素晴らしい提案書ができた!」
翌週にリーディングファーマーを訪問して提案しました。
Aさん
「それでは、コールセンターの消費者の声を活用した商品開発力の強化についてご提案させていただきます」
Aさんは、力作の20ページの仮説提案書を30分かけて説明しました。
説明した後で、Aさん
「いかがでしょうか?」
リーディングファーマーの担当者
「……」
Aさんは、「あれっ、反応が悪い」と思いながら、
「御社が進めている年代別の商品開発にも有効かと思うのですが」
リーディングファーマーの担当者
「年代別の商品開発は、商品開発部が担当しているので私には分かりません」
Aさん
「そうですか、そうしましたら商品開発部の方にお話しいただけないでしょうか?」
リーディングファーマーの担当者
「商品開発部もそれなりに考えているので必要ないと思います」
Aさん
「そうですか……」
Aさんの仮説提案はうまくいきませんでした。
お客さんから聞いた情報から一生懸命に課題と解決策、メリットを考えたのに……
一生懸命に考えて20ページもある力作の提案書を作成したのに……
30分も一生懸命に説明したのに……
なぜ、Aさんの仮説提案はうまくいかなかったのでしょうか?
みなさんもAさんがうまくいかなかった理由を考えてみてください。
仮説提案の意義は本当の情報を聞き出すことにある
仮説提案は、お客さんから要望されて行う提案ではありません。
営業担当者自らがお客さんの課題や解決策、メリットを考えて、積極的に案件を獲得するために行う提案です。
お客さんにとっては、要求していない、検討していない提案。
みなさんは自分が要求していない、検討していないときに20ページの資料を説明されたら……
真剣に聞こうとするでしょうか? 右から左に聞き流してしまうことも多いのでは?
また、30分も一気に説明されたら……
提案内容を具体的に理解できず、全体を漠然と理解し、必要か否かという結論しか考えなくなるのでは?
リーディングファーマーの担当者も……
Aさんの20ページ、30分の提案に対し、右から左に聞き流し、提案内容全体を漠然と理解し「私には分かりません」「必要ないと思います」と結論しか考えなかったのです。
そして、仮説提案とは仮説の提案です。当たっているか分からない提案、間違えているかもしれない提案です。
当たっているか分からない、間違えているかもしれない仮説提案の目的は、仮説提案に対するお客さんの反応によって本当の情報を収集することです。
仮説の提案を説明して本当の情報を聞き出すこと。
「どこが違うか? 実態はどうか? 本当の課題は? 本当は何が必要か? 本当に大切なことは?」
仮説提案の説明を聞いてもらうことや提案内容を理解してもらうこと、20ページの力作の提案書を作成して頑張ってきたことを理解してもらうことではありません。
本当の情報を収集するための仮説提案で大切なことは、お客さんに考えさせ、本当の情報や意見を言わせること。お客さんに考えさせ、本当の情報や意見を言わせるためには、考えさせやすく、情報や意見を言わせやすい提案書でなければなりません。
……枚数が多くしっかりまとめた提案書ではなく、枚数が少ない軽めの提案書。
20ページの資料を一気に説明されたとき
2~3枚の資料を説明されたとき
みなさんは、どちらの資料の方が、相手と一緒に考えたり、相手に情報や意見を言ったりしやすいですか?
仮説提案を成功させる方法……詳しくは、
次回は1月19日(月)更新予定です。
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あなたはWeb会議システムの営業です。
3カ月前に求人広告会社のお客さんを訪問。見込みがありそうだしそろそろ訪問したい。
……どんなメールを送る?
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