第157回 営業の目的は売上向上、AIはツール……目的なきツールは浸透しない
営業活動でAIの活用を進めている会社が増えています。資料作成や情報収集の効率化、提案や戦略の精度向上……、確かに有効なツールです。しかし、この有効なツールを使っても案件が増えない、売上が上がらない。今回は営業成果につながり、継続・定着させるAIの導入方法についてご紹介します。
営業の目的は売上向上、AIはツール……目的なきツールは浸透しない
近年、IT技術の進歩によって営業を取り巻く環境は大きく変わりました。営業強化を進めるために、多くの会社で新しいツールや仕組みを次々と導入してきました。
- iPadやモバイル端末による業務の効率化
- 営業管理システムや名刺管理システムによる情報共有の促進
- クラウドサービスによる情報共有の促進
……
みなさんの会社でもさまざまな取り組みを進めてきたことでしょう。しかし、さまざまなツールを導入し、さまざまな取り組みを進めても、営業強化が進まない、売上が上がらない。3年、5年と成果が出ずに試行錯誤し、そしてやめてしまう会社も少なくありません。
そして、今AIが急速に広がっている……
確かにAIの導入により、情報収集や資料作成の時間を削減でき、働く時間の短縮が進むことでしょう。また、提案書の精度も高くなるかもしれません。
はたして、AIを導入して売上は上がるでしょうか?
顧客獲得を目的にAI活用を検討することに
コールセンター会社のセントCRMでは全社でAIの活用を進めていました。
そして、営業部でも部長がマネージャーAさんにAIの活用方法を考えるように指示していました。
- 全社でAIの活用を推進している。
- 営業部も少ない人数で新規のお客さんを獲得していくためにはAIが必要。
- 既に議事録作成にはAIを使っているようだけど、他にもAIの活用方法を考えて進めなさい。
そこで、マネージャーAさんはAIの活用方法を考えるためにミーティングを開きました。
マネージャーAさん
「部長からの指示なんだけど、AIの活用方法を考えないといけない」
「新規のお客さんへの提案も進んでいないし、残業も減らないから、うちの課でもAIの活用を進めないと」
「うちの課ではAIを使って何ができる?」
営業担当Bさん
「既に議事録作成には使っていますよ」
「あと、お客さんの情報を調べるときにもAIを使っていますし……」
マネージャーAさん
「それは知っているけど、新規のお客さんに提案できていないでしょ?」
「他にどんなことに使えるかを考えないと」
営業担当Bさん
「そうですね」
マネージャーAさん
「AIの活用方法を考えるために、まずは今の問題点を洗い出そう」
「なんで提案できていないの?」
営業担当Cさん
「忙しくて時間がないんですよ」
「既存案件の対応では、コールセンター運営部門のオペレーション部と打ち合わせが多く、お客さんとオペレーション部の定例会も毎週参加しないといけないんですよ」
マネージャーAさん
「確かに、うちの営業は既存案件対応の負担が大きいからな」
営業担当Bさん
「それに自分たちで提案書を作ったことがありませんから、提案書を作成するノウハウもないんですよ」
「今までオペレーション部が作っていましたから……」
マネージャーAさん
「忙しくて時間がない、提案書を作成するノウハウがないのか……」
「AIでできない?」
営業担当Cさん
「そうですね、提案書はAIで作ったらいいと思います」
「ノウハウがなくてもAIで作れますし、それにオペレーション部はAIを使って短時間で作っているみたいですよ」
マネージャーAさん
「うちのコールセンターの強みとか特長をまとめた資料じゃなくて、お客さんの課題に対してコールセンターの必要性をまとめた提案書だよ、作れるの?」
営業担当Cさん
「お客さんに課題をヒアリングしてきて、AIに聞けば提案を考えてくれますし、提案書も作成してくれますよ」
マネージャーAさん
「そうなんだ……そうしたら提案書はAIで作成しよう」
「Cさん、オペレーション部にAIで提案書を作成する方法を聞いてきて、みんなに教えて進めてくれる?」
営業担当Cさん
「分かりました」
そして、半年後の営業1課のミーティング。
マネージャーAさん
「みんな提案していないじゃないか」
「AIを使えば提案書の作成に時間がかからないだろう、なんで提案しないの?」
営業担当Bさん
「一度、提案したんですけど、お客さんに必要ないって言われて」
営業担当Cさん
「お客さんから課題を聞けなくて……」
半年後……
相変わらず議事録作成とお客さんの情報を調べるときしかAIを使っていませんでした。
なぜAIの活用が進まなかったのか
なぜ、AIを使わなくなってしまったのでしょうか?
AIを使えば短時間で提案書を作成できるし、ノウハウがなくても作れるはずなのに……
ミーティングでは営業部長の指示に従い、AIの活用方法を考えました。
「うちの課ではAIを使って何ができる?」
AIの活用方法を考えるために、はじめに現在の問題を洗い出していました。
「新規のお客さんに提案できていない」
「忙しくて時間がない、提案書を作成するノウハウがない」
そして、洗い出した問題に対してAIの活用方法を考えました。
「提案書はAIで作ったらいい」
「お客さんに課題をヒアリングしてきて、AIに聞けば提案を考えてくれる」
「提案書も作成してくれます」
確かに提案書を作成する時間を削減できるかもしれません。また、ノウハウがなくても提案書を作れるかもしれません。しかし、AIで提案書を作成してもうまくいかない……
「お客さんに必要ないって言われて」「お客さんから課題を聞けなくて」
当然、AIを活用した提案書の作成は、継続や定着につながりにくいでしょう。
AIを活用して本当は何をすべきだったのか
AIを活用した提案書の作成を継続するためには、AIで提案書を作成するだけでなく、課題を聞き出す方法や能力、提案で説得する方法や能力も必要だったのです。
なぜ、セントCRMでは、課題を聞き出す方法や能力、提案で説得する方法や能力について考えなかったのでしょうか?
それは、AIの活用方法を目的として考えたからです。
もし、AIの活用方法でなく、新規案件を獲得することを目的として考えていたら……
「どうしたら新規案件を獲得することができるのか?」
- 新規案件を獲得するためにはどのような提案が良いのか?
- 提案に必要な情報はどうやって収集するのか?
- 担当者が提案で説得できるのか?
新規案件の獲得に対し、必要な営業方法や担当者の能力について考えたことでしょう。
そして、
提案内容や情報収集方法、説得力を向上する方法を考えて進めようと考える。
……しかし、「忙しくて時間がない、提案書を作成するノウハウがない」
その結果、
業務の効率化やノウハウ不足を解消しようとしてAIの活用を考える。
「提案書はAIで作ったらいい」
「お客さんに課題をヒアリングしてきて、AIに聞けば提案を考えてくれる」
「提案書も作成してくれる」
すると、
「お客さんに必要ないって言われて」「お客さんから課題を聞けなくて」という問題が起こらず、AIを活用した提案が進んでいたかもしれません。
仮に「お客さんに必要ないって言われて」「お客さんから課題を聞けなくて」という問題が起こっても、説明方法やヒアリング方法を改善して提案を進めようとすることでしょう。その結果、AIを活用した提案が進んでいたかもしれません。
セントCRMでは、「必要ないって言われて」「課題を聞けなくて」と言って、AIを活用した提案をやめてしまいましたが……
営業成果を目的に据えた視点が重要
営業活動の目的は営業成果です。
この営業成果を目的とした視点で考えると、業務の効率化やノウハウ不足の解消、情報共有は、限られた営業体制の中で、営業成果を上げるための手段です。そして、iPadやモバイル端末、営業管理システムや名刺管理システム、クラウドサービスは手段に対するツールです。
現在、急速に広がっているAIもツールであり、このツールを使うための業務の効率化やノウハウ不足の解消、情報共有は営業の目的に対する一つの手段です。今までさまざまなツールが普及してきましたが、その導入に際しては、目的を考えずに手段とツール主導で導入している会社が多く見受けられます。
営業部門でAIを有効活用するためには、手段である業務の効率化やノウハウ不足の解消、情報共有、ツールであるAIを考える前に、どうやって売上を上げるのか、そのためにどのような営業活動を進めるのかという目的や方法、能力を考えて明確にしましょう。
目的と達成するための方法なき手段やツールは、継続することもできず、浸透することもありません。
「AIを使って何ができるか」ではなく、「どうやって売上を上げるか、そのためにAIをどのように使うか」です。
営業部でAIの導入を考える方法……詳しくは、
「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス
次回は8月17日(月)更新予定です。
今月のクイズ(営業のクイズ)
あなたはオフィス機器の営業です。
いつも上司から売上を上げるためには効率的な営業が大切だと言われている。
お客さんを訪問したら「今は検討していない」と言われた……どうする?
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