介護センサーサミットレポート

経営者・職員・ご利用者の各視点から導入メリットを考える

介護現場へのセンサーや見守りシステムの導入が急速に進んでいるが、「多様な製品からどれを選べばよいか分からない」「投資対効果が見えづらい」といった理由から迷っている事業者が多いのも現状だ。「介護センサーサミット」では、セミナーや実際の導入企業による事例報告、座談会を通じ、導入時に踏まえるべきポイントを紹介。会場には主要なシステムや機器の展示スペース、導入時について専門家がアドバイスする相談コーナーなども設けられ、事業者の悩みや疑問を総合的に解消する場となった。

  • * 本ページ中の登壇者の肩書きは、2018年11月時点の所属のものであり、閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

介護事業者における介護センサー・見守りシステム導入をめぐる課題

発展的な活用を見越したフレキシブルな環境設計を

介護事業のIT化は、2000年の介護保険法施行を機に進展してきた。まず請求などの基幹業務効率化に向けたシステム化が進み、2010年ごろより現場の記録業務を支援するためのソリューションが発達。そしてここ数年は、IoTを活用した介護センサー・見守り系システムに注目が集まっている。その背景と現状を、株式会社大塚商会 本部SI統括部 業種特化支援グループ 部長の豊田 雅章は次のように説明する。

「介護は人対人の労働集約型サービスですが、高齢者の増加と人手不足が相まって、IoT化による生産性向上を図らなければ現場が機能しないところまで来ています。そんな中、さまざまなバイタルデータや体動を感知する介護センサー・見守り系システムは、ご利用者の安全管理強化や自立支援、職員の作業効率化やコミュニケーションの円滑化などに役立つとして、急速に利用が広がっています」

導入時の大きな課題となるのが投資コストだ。正確な情報収集には高性能のセンサーやカメラを十分な個数をそろえることが不可欠だが、普及に伴い機器の価格は低下しているので、各種公的補助金を活用すれば、中小規模の事業所であってもハードルはそう高いものではなくなっている。留意したいのは、システム本体以外に、設備工事や無線LAN環境整備、保守などの費用も必要となることだ。経営者には、総費用から1部屋あるいは1ベッド当たりのコストを算出し、投資対効果を十分に検討することが求められる。

「安全管理強化や職員の作業負担軽減など、当初特定の目的で導入しても、運用が進むと別の用途でも活用したくなるケースが少なくありません。初めから発展的な運用を見越し、多様な用途に対応するフレキシブルなシステム選択とデータベース設計をすることをお勧めします」(豊田)

株式会社大塚商会 本部SI統括部
業種特化支援グループ 部長
豊田 雅章

システムを提供するパートナー選びも大切だ。介護センサー・見守り系システムは複数の技術の組み合わせで構築されるので、多数のメーカーとの取引がある実績豊富なマルチベンダーが望ましい。専任の管理者を置けない事業所では、ワンストップの対応窓口を持つベンダーでなければシステムの障害発生時などに苦慮するはずだ。

「もう一つ念頭に置いておくべきことは、システム化は導入時がスタート地点だということです。現場の環境にマッチした運用に落とし込むには3カ月程度のアジャスト期間が必要で、具体的成果が表れるのはそれ以降です。今後センサーやカメラはますます高性能化し、データの解析技術も飛躍的に高まるはずなので、信頼できるベンダーに効果的な運用方法を相談することも非常に重要です」と豊田はアドバイスする。

定員を超えるご来場者様へは、別室に設けられたライブ中継にて本会場の模様をご覧いただきました。

【Part1】介護センサー・見守りシステム導入の目的と効果検証

「座談会」パートでは、介護事業や高齢者住宅事業を展開する4社による、介護センサー・見守りシステムの導入事例が報告された。

スマホ1台で多様な業務を完結させ、個別ケアに注力できる環境を構築

首都圏で介護付きホーム17棟、デイサービス15事業所、ショートステイ4事業所を運営する株式会社アズパートナーズ。同社は業務効率化に向け、介護業界初のICT・IoT システム 「EGAO link」をメーカー4社と共同開発した。活用したのは、パラマウントベッド株式会社の見守り支援システム「眠りSCAN」、アイホン株式会社のナースコールシステム「Vi-nurse」、住友電設株式会社のIP電話システム「ナースコールゲートウェイ」、株式会社富士データシステムの介護カルテシステム「CAREKARTE」。

「EGAO link」はこれら機器やシステムの組み合わせにより、職員がスマホ1台で全ご入居者のベッドでの様子を把握することを可能にする。スマホに通知されるコールにも即応でき、それらのデータや活動が自動的に記録されるのも特長だ。

「手書きで24時間当たり8時間だった介護記録業務が0.8時間に短縮され、1夜間当たり5時間の定期巡視は撤廃しました。ナースコールへの対応は24時間当たり150回から50回ほどに減少。トータルで約17時間もの業務時間削減を実現しています」と取締役の山本 皇自氏。

株式会社アズパートナーズ 取締役
山本 皇自氏

この結果、職員の間接業務負担が劇的に軽減。ご利用者の個別ケアに以前の約3倍の時間を充てられるようになり、訪問診療医師に提供する情報の質も向上した。来期までに同社の全介護付きホームに「EGAO link」が導入される予定で、60床当たり2,000万円の投資コストは2年ほどで回収できる見込みだという。

居室環境や睡眠状態などのモニタリングで総合的な健康管理

住友林業グループのスミリンフィルケア株式会社は、各地に介護付有料老人ホーム15施設、デイサービス3施設の運営を行っている。「介護現場の業務効率化も大切ですが、当社はご入居者の健康維持・向上が最優先されるべきと考え、『安心の居室環境』『質の高い睡眠』『適度な運動』『健康的な食事』の四つの見える化を図るための取り組みをしています」(副社長 福元 均氏)

同社は6カ所の新規施設に、エコナビスタ株式会社の見守りシステム「ライフリズムナビ+Dr.」を導入。各種センサーで睡眠の状態や活動量(動体検知/活動時間/ドア開閉)、居室の温湿度などをモニタリングし、体調急変の早期発見や事故防止ができる安全な居室環境を実現した。睡眠の状態が悪化するとそのデータを往診医に提示し、相談できる環境が整えられているのも特長である。

また、住友電気工業株式会社の歩行モニタリングシステム「Q'z TAG walk」で歩きの質を計測し、転倒防止やリハビリ支援に活用。さらに人工知能で嚥下の状態を計測するPRIME株式会社のウェアラブルデバイス「GOKURI」を用い、歯科医や歯科衛生士から嚥下(えんげ)機能の維持向上に役立つアドバイスが受けられるようにした。

「『四つの見える化』を総合的に推進することで、運動量の増加に伴う睡眠状態の改善、リハビリへの参加意欲増進といった好循環が生まれることが期待されます」と福元氏。同社はこうしたIoTの活用により、今後もご入居者の健康維持に向けた取り組みをさらに発展させていく構えだ。

スミリンフィルケア株式会社 副社長
福元 均氏

ホームセキュリティの知見を介護現場での見守りに応用

セコムグループは、これまでホームセキュリティで培ってきた豊富なノウハウをベースに、暮らしに広く安心を提供する社会インフラ「あんしんプラットフォーム」を構築しようとしている。介護付有料老人ホームを企画・運営するセコムグループの株式会社アライブメディケアは、コニカミノルタ株式会社と連携し、居室の天井に近赤外線カメラを設置。離れた場所から心拍数などを計測できるドップラーセンサーも導入し、ご入居者の行動や様子を検知して適切なケアができるシステムを構築した。

「ご入居者が居室内で転倒したときは、その前後の様子を撮影した画像が職員に送信され、直ちに対応します。転倒時を除いては居室内の画像をモニタリングできない仕組みにすることで、プライバシーを担保しています」と専務取締役の三重野 真氏。こうした画像の記録は、万一の際にスピーディーな対応ができるようにするためのものであると同時に、事故発生時のエビデンスを確保して個々人の主観による現状把握の食い違いを避けるという目的もある。

セコムには、契約者が急に体調を崩した場合に、自宅や外出先からセコムに救急通報できるサービスがあるが、株式会社アライブメディケアの見守りシステムはそれを介護の現場に応用したもので、きめ細かで切れ目のない安心を提供する「あんしんプラットフォーム」構想の一翼を担うものだ。また、収集したデータや対応の内容は自動的に記録されるので、記録業務の省力化や職員間の情報共有を促し、職員のワークフローをトータルサポートすることにもつながっている。

株式会社アライブメディケア 専務取締役
三重野 真氏

在宅生活を支援しながら職員の業務負担も軽減

株式会社やさしい手は、ご自宅で暮らすご高齢者の生活をサポートする居宅介護支援サービスを展開している。介護人材が不足する中、同社は各拠点の責任者が個々の職員の合理的な行動を促すための人事配置マネジメントシステム「とこTONシステム」を開発。互いの業務を可視化し、ジョブローテーションを最適化することで組織全体の効率を高めることに成功している。

「当社は、自宅に設置するだけで体温/血圧/血糖値などのバイタルデータを医療機関や介護事業所に送信できるユニテック・ジャパン株式会社の遠隔医療システムソリューション『Health Keeper』をはじめ、在宅介護を支援するためのシステムも積極的に利用しています」と代表取締役社長の香取 幹氏。

株式会社やさしい手 代表取締役社長
香取 幹氏

設定された時間に薬ケースがトレーに乗って押し出され、インターネットで服薬管理できるエーザイ株式会社の服薬支援機器「eお薬さん」、人感・ 室温・照度センサーで離れて暮らすご家族の生活を確認できる株式会社コンテックの見守り支援サービス「あなたの安心」、専用ケアシューズなどにGPSを装着して徘徊(はいかい)時の安否確認をする生活支援見守りサービス「いまどこちゃん」など、活用するシステムの種類は多彩だ。同社は自社の居宅介護支援サービスに利用するだけではなく、介護のコンサルティング事業を通じてこうした機器の普及を推進。「介護センサーや見守りシステムは在宅生活継続支援にも有用で、介護の質を高めると共に、業務効率化にも大きく貢献するはずです」と香取氏は語る。

【Part2】導入をめぐるさまざまな課題に、どのような姿勢で対応するべきか

各社のセンサー活用状況の話に続き、株式会社高齢者住宅新聞社 代表取締役社長の網谷 敏数氏、株式会社大塚商会 本部SI統括部 業種特化支援グループ 部長の豊田 雅章による司会進行の下、パネルディスカッションが行われた。

まず網谷氏が、「今後のセンサー・見守り系システムはどのような方向性へ向かうことになるのか」とテーマを提起。株式会社アライブメディケアの三重野 真氏は、「ご入居者の安全確保の観点から、カメラによる画像記録がICTツールの基礎要素になるのではないか」と応じた。転倒事故などの際のエビデンスが残されることは多くのご家族の要望でもあり、スタッフの心的負担軽減にもつながるというのがその根拠だ。一方、スミリンフィルケア株式会社の福元 均氏は、「IoT・ICTの利用目的は介護におけるヒューマンエラーをなくすことが第一義であるべきで、職員の業務効率化はその次のステップで考えるべきテーマなのではないか」と提言。豊田氏は、「当面解決すべき課題はさまざまだとしても、最終的にご入居者の安全性や快適性が確保され、なおかつ職員の業務負担も軽減される状態を目指すのはあらゆる事業者に共通するはずなので、まずはIoT・ICT化への第一歩を踏み出すことが重要」とも指摘する。

次に、ICT化に際しての職員への教育が話題に上った。株式会社やさしい手の香取 幹氏は、「個々の訪問介護員の介護記録入力業務が、ケアマネージャーや医師、看護師などとの多職種協働にどう役立ち、結果的にご利用者の在宅生活継続にどう貢献するかをきちんと理解してもらうことが大切」と述べた。株式会社アズパートナーズでは、比較的ITに詳しい職員からなるサポートチームを本社で組織し、システム導入をした現場に派遣。「導入後1カ月ほど全面的にサポートし、その後は新しいスタッフが入職するたびにサポートスタッフを派遣している」と、山本 皇自氏は自社の取り組みを紹介した。

来場者からは、カメラの設置時のプライバシー保護に関する質問が寄せられた。株式会社アライブメディケアでは、ご入居前に自社の見守りの仕組みを説明して同意を得ており、「最近はカメラで画像が記録されることに安心感を抱くご家族が増えている」と三重野氏。一方でスミリンフィルケア株式会社の福元氏は、「カメラを設置せず、複数のセンサーを組み合わせるだけでもご入居者のあらゆる異変を察知することが可能なのではないか」との見解を示した。

小規模事業者がIoT・ICT化する際のコスト面の課題について来場者から寄せられた質問に対しては、「無線LAN環境さえ用意すれば低コストで導入できるシステムもある」と香取氏が提示。豊田氏は、「介護センサーや見守りシステムは技術的に急速に発展し、投資対効果が得やすいものが増えているので、中小規模の事業者は手軽に導入できるものから試し、段階的に活用を深めていくべき」と包括的視点からまとめた。

大塚商会メディケアSPグループ担当者による相談コーナーにも、介護センサーに関心を持つ多くのご来場者による質問が寄せられた。

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