連載開始10周年を迎え、100記事を超える過去のコラムから筆者厳選の10記事と、書き下ろしのコラムをまとめて特別冊子をご用意しました。
本冊子の内容がヒントとなり、ビジネスにおける悩みや課題解決の一助になれば幸甚です。
第157回 「リーダー向きの人」と「昇進しやすい人」とのギャップという話
多くの企業で「リーダー人材」が求められています。しかし、必ずしも好ましい「リーダー向きの人」がなっているとは限らず、組織で「昇進しやすい人」との間にはギャップがあることを認識しなければなりません。
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「リーダー向きの人」と「昇進しやすい人」とのギャップという話
企業が求める人材要件の中には「リーダー適性」「リーダーの素養」が含まれることが多いと感じます。そのスタイルはいろいろであっても、チームのまとめ役は常に求められており、まだまだ人数も足りていないという話をよく聞きます。採用と育成との両面で対応している企業は多いでしょう。
「リーダーに向いている人」はそう簡単には現れない
そんな「リーダーに向いている人」の特徴には、多くの項目が挙げられます。
例えば、「仕事ができる」「信頼される」「責任感が強い」「行動力がある」「逆境に強い」「メンタルが強い」「判断や決断に優れている」「努力をいとわない」「話をよく聞く」といったものが目につきます。これらを見ていると、リーダーには「人格者」であることが求められているといえます。
組織の中に「リーダーに向いた人格者」がいれば、組織全体を良い方向に向けられますから、その素養を少しでも持った人を見つけ出し、採用や育成を通じて登用することが大切です。
ただ、ここに挙げられるようなリーダー要件には抽象的なものも多く、さらにハードルが高いため、これらの多くを兼ね備えた人は、ほとんど存在しないのではないかと思われます。また、人格的な要素が多く、教えることや育てることには難しさが伴うでしょう。多くの企業でリーダー育成が課題に挙げられますが、「理想のリーダー」はそう簡単に現れるものではありません。
組織のリーダーになるのは必ずしも「リーダーに向いている人」ではない
こうした中で、「共感力の低い人ほどリーダーになりやすい場合がある」という指摘があります。心理学者のDelroy L. PaulhusとKevin M. Williamsが2002年の論文("The Dark Triad of personality: Narcissism, Machiavellianism, and psychopathy," Journal of Research in Personality, 36(6), 556-563)で提唱した「ダークトライアド(暗黒の3要素)」という人格特性の枠組みがあり、以下の三つを指すとされています。
- マキャベリズム:自分の野望や利益、目的のためなら、他者をだますことや冷酷な手段を使うこともいとわない傾向
- ナルシシズム:過度な自己愛、自己本位、自分を特別な存在と捉える誇大性、他者への共感の欠如の傾向
- サイコパシー:衝動性が高く、他者への共感や気配り、罪悪感が欠如した反社会的人格
自分ファーストのいわゆる「イヤなやつ」という印象を受けますが、実はこの理論を基にした研究では、こうした特性を持つ人が組織の中で相対的に昇進しやすい傾向がある、とする見方が示されることがあります。また、権力を長く持つことで共感力がさらに低下する可能性や、裕福な人ほど共感力が下がり、非倫理的な行為への抵抗感が薄れる傾向があるという指摘もあり、権力が共感を担う脳の働きを阻害しうるという研究も紹介されています(小塩真司『「性格が悪い」とはどういうことか――ダークサイドの心理学』ちくま新書、Minna Lyons, The Dark Triad of Personality: Narcissism, Machiavellianism, and Psychopathy in Everyday Life など)。
ここから見ると、組織のリーダーになるのは「昇進しやすい人」であり、必ずしも「リーダーに向いている人」ではない場合もあるということになります。「昇進しやすい人」は、「暗黒の3要素」の傾向が強い人であり、競争原理ばかりでリーダーを選んでいると、必ずしもリーダー向きとはいえない、自分本位のリーダーが生まれることも考えられます。それは組織にとって困ることです。
これを防ぐには、「リーダー向きの人」が登用される仕組みを作ることや、当てはまる人材を数多く育てることが必要です。
組織を牛耳って私腹を肥やすような不祥事は、相互監視が行き届いているはずの大企業でも起こっており、そうした事例の背景に、上記のような特性を持つ人物の存在が指摘されるケースもあります。自分本位で共感力が低い人に性善説を基にした節度を求めても、本人に都合よく利用されるだけでなかなかうまくいきません。リーダーに不向きでも、自分に都合が良い人材を登用しようとする上席者もいます。
出世欲や権威欲の強い人の中には、手段を選ばずその立場を得ようとする人もいるため、全てをルールで縛ることも難しいでしょう。
「リーダー向きの人」をリーダーにするために
リーダー向きか否かの境目はなかなか見えづらいものです。例えば、通常行われている人事評価があくまで顕在化した事実を基に行われるのに対し、さらにリーダー適性はこれにプラスして、本人の性格や価値観などの内面的な要素も見る必要があります。目標達成や売上貢献のような結果だけでなく、それをどうやって行ったかというプロセスも重要です。職務経歴書などに書かれる表面的な事象だけでなく、どんな体制で、どんなメンバーと、どんなかかわり方で協働したのかを見る必要があります。
リーダー適性を見極めることは難しいですが、結局は日常的な内面観察とコミュニケーションの積み重ねの中で判断していくしかありません。性格診断や適性テストのようなものを参考にする方法もあるでしょう。また、不適切な人選をチェックする仕組みも必要です。
「昇進しやすい人」が必ずしもリーダー向きとは限らない、という視点は持っておいて損はありません。リーダーの選び方、任命の仕方には、十分な注意が求められます。
次回は10月27日(火)の更新予定です。
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