第126回 ドライバーが辞める運送会社と辞めない運送会社との決定的な違い
「給料は決して安くないはずなのに、なぜドライバーが辞めてしまうのだろう」――こんな疑問はありませんか? 同じ給与でも、ドライバーが辞める会社と長く働き続ける会社があります。配車や休日、評価を見直し、人材定着につなげる方法を解説します。
ドライバーが辞める運送会社と辞めない運送会社との決定的な違い
「給料は決して安くないはずなのに、なぜドライバーが辞めてしまうのだろう」
運送会社の経営者であれば、一度はこんな疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。
前回は、ベテラン社員が持っている経験や知識を会社全体の財産として残していくことの重要性についてお話ししました。しかし、どれだけ経験を会社に残す仕組みを整えても、社員が次々と辞めてしまう会社では、安定した経営は難しくなります。
今回は、ドライバーが長く働く会社と、退職者が多い会社との違いについて考えてみたいと思います。
ドライバーが辞める理由は給与だけではない
ドライバーの退職理由として、まず思い浮かぶのが給与です。
もちろん、給与は重要です。生活を支えるために働いている以上、仕事内容や責任に見合った待遇が求められるのは当然でしょう。しかし、給与を上げれば全て解決するかというと、そう簡単ではありません。
例えば、同じような給与を受け取っている2人のドライバーがいたとします。
1人は、毎日の仕事がある程度決まっていて、休日の予定も立てやすい。急な変更があっても、管理者から理由を説明してもらえる。
もう1人は、前日の夕方まで翌日の仕事が分からず、予定していた帰宅時間も頻繁に変わる。仕事の変更について説明がなく、いつも自分ばかり負担が大きいと感じている。この2人が、同じように会社に満足しているとは限りません。
働く人にとって大切なのは、給与の金額だけではなく、その会社で安心して働き続けられるかどうかなのです。
「なぜ自分ばかり」と思わせる配車になっていないか
運送会社でドライバーの不満が生まれやすい場面の一つが、仕事の割り振りです。長距離運行が多い人、早朝出勤が続く人、休日出勤を頼まれやすい人がいる一方で、比較的決まった時間に帰れる人もいます。もちろん、担当する車両や運転技術、荷主の条件、本人の希望などによって、仕事の内容が異なるのはやむを得ないことです。
問題は、その違いについて本人が納得できているかどうかです。
例えば、あるドライバーが「どうして自分だけ休日出勤が多いのですか」と質問したとします。
そのとき、管理者が「仕事だからしかたない」「君が一番頼りになるから」と答えるだけでは、本人の不満は解消されないかもしれません。
会社として仕事の割り振りに理由があっても、それが伝わっていなければ、不公平だと受け取られることがあります。大切なのは、全員に全く同じ仕事を与えることではありません。それぞれの事情を踏まえたうえで、仕事の割り振りについて説明できることです。
予定が立てられることも大切な待遇である
ドライバーの働きやすさを考えるとき、給与や休日の日数に目が向きがちです。しかし、実際には「自分の予定が立てられること」も重要な待遇の一つです。
例えば、休日が月に同じ日数あったとしても、早い段階で休みが分かる会社と、直前まで予定が決まらない会社とでは、生活のしやすさが違います。
子どもの学校行事に参加したい。家族と出掛けたい。病院の予約を入れたい。
こうした当たり前の予定が立てられることは、長く働き続けるうえで大切な条件です。
運送業では、荷主の都合や交通状況などによって予定が変わることがあります。全ての予定変更をなくすことは難しいでしょう。それでも、配車計画を早めに作る、休日の希望を事前に確認する、変更が必要な場合はできるだけ早く伝えるといった工夫はできます。
ドライバーの定着を考えるのであれば、給与明細に表れない待遇にも目を向ける必要があります。
社員は「自分の頑張りを見てくれているか」を気にしている
もう一つ大切なのが、仕事に対する評価です。
例えば、急な仕事の変更にも協力し、安全運転を心掛け、日々の業務を丁寧にこなしているドライバーがいたとします。しかし、会社からは特に評価されず、仕事ができるという理由で難しい運行ばかり任される。
一方で、仕事への取り組み方に違いがあっても、給与や評価にはほとんど差がない。こうした状態が続けば、真面目に働いている人ほど不満を感じる可能性があります。
もちろん、ドライバーの評価を運行回数や売上だけで決めるべきではありません。安全運転、法令の順守、車両の取り扱い、荷主への対応、後輩への協力など、数字だけでは表しきれない大切な仕事もあります。
重要なのは、会社が何を大切にしているのかを明確にし、それに沿って社員を評価することです。
頑張っている社員にただ仕事を多く任せるだけではいけません。その頑張りを会社がきちんと認め、評価していることを本人に伝えることが必要なのです。
ドライバーが辞めることで会社が失うもの
ドライバーが1人退職すると、会社は新しい人を採用する必要があります。かかるのは採用広告の費用だけではありません。面接、入社手続き、教育、同乗指導など、多くの時間と手間がかかります。
新しいドライバーが仕事に慣れるまでは、配車担当者や先輩ドライバーにも負担がかかります。場合によっては、退職した人が担当していた仕事を引き受けられず、荷主との取引に影響することもあるでしょう。
さらに見落としてはいけないのが、社内に残った社員への影響です。退職者が出るたびにほかの社員の仕事が増える。その負担が解消されないまま次の退職者が出る。こうした悪循環に入ると、採用しても人が足りない状態から抜け出しにくくなります。
人材の定着は、単なる人事の問題ではありません。
安定して仕事を引き受け、荷主との信頼関係を維持し、会社を成長させていくための重要な経営課題といえます。
DXは社員が納得して働ける環境づくりにも役立つ
ここまで読んで、「社員の気持ちの問題だから、システムでは解決できない」と思われるかもしれません。確かに社員との信頼関係は、システムを導入するだけで生まれるものではありません。
しかし、管理者が社員の働き方を正しく把握し、説明できる環境をつくるうえで、DXやシステム化は有効な手段の一つになります。
例えば、配車計画と勤務実績とがつながっていれば、特定のドライバーに仕事が偏っていないかを確認しやすくなります。休日の希望や勤務予定を共有できれば、本人の事情を踏まえた配車計画も立てやすくなります。運転日報や安全に関する記録が整理されていれば、日々の仕事ぶりを評価する際の参考にもなります。
大切なのは、こうした情報を社員の監視や管理強化のためだけに使わないことです。むしろ、管理者が気付いていなかった負担を発見し、仕事の割り振りを見直し、社員の努力を正しく評価するために使うべきでしょう。
また、勤務実績が公平に記録されていても、本人の希望や家庭の事情までは数字だけでは分かりません。システムの情報を基に本人と話し合うことが欠かせません。
DXは人間関係の代わりになるものではありません。社員との信頼関係を築くために、管理者がより良い判断をする手助けになるものなのです。
人が辞めない会社は「辞める前」に動いている
社員が退職を申し出たとき、初めて不満を知る会社があります。
「そんなに不満があるとは思わなかった」
「もっと早く相談してくれればよかった」
しかし、社員の側からすると以前から小さな不満が積み重なっていたのかもしれません。
仕事の偏り、休日の取りにくさ、急な予定変更、評価への不満。こうした問題は、突然生まれるものばかりではありません。だからこそ、経営者や管理者には、日ごろから社員の働き方に関心を持ち、変化に気付く姿勢が求められます。勤務状況を確認することも大切ですが、それだけでは十分ではありません。
定期的に声をかけ、本人の希望を聞き、必要であれば仕事の割り振りを見直す。社員が辞めると決めてから引き留めるのではなく、辞めたいと思う理由をできるだけ早く減らしていく。これが人材定着に取り組む会社の基本的な考え方ではないでしょうか。
まとめ
ドライバーが長く働く会社と、退職者が多い会社との違いは、給与の金額だけでは説明できません。仕事の割り振りに納得できるか。休日や生活の予定を立てられるか。自分の頑張りを会社が認めてくれるか。
こうした日々の積み重ねが、会社への信頼につながっていきます。
著者より
社長へのワンポイント
今月、ドライバーに一つだけ質問してみてください。
「今の仕事で、一番負担に感じていることは何ですか?」
その答えが給与とは限りません。配車、休日、仕事の進め方、人間関係など、経営者が想像していなかった問題が見つかるかもしれません。
次回は10月30日(金)更新予定です。