第125回 ベテラン社員が辞めても困らない運送会社は何をしているのか
「この運行のことなら、○○さんに聞けば分かる」こうした言葉をよく耳にします。ベテラン社員の休職や退職で業務を止めないために、配車や請求、運行の知識といった長年の経験を次の世代へ継承する仕組みについて考えてみたいと思います。
ベテラン社員が辞めても困らない運送会社は何をしているのか
「この運行のことなら、○○さんに聞けば分かる」こうした言葉をよく耳にします。
長年働いている配車担当者、荷主のことを知り尽くした事務員、どの納品先にも詳しいベテランドライバーは、会社にとって非常に大切な存在です。しかし、その人が明日から1カ月休むことになったら、同じように運行を回せるでしょうか。
運送会社には、システムにもマニュアルにも書かれていない「人の頭の中にしかない情報」が驚くほどたくさんあります。この情報を会社の財産にできるかどうかは、これからの運送会社にとって重要なテーマです。
ベテランは「仕事」ではなく、「判断基準」を持っている
例えば、ベテランの配車担当者のもとに朝、荷主から急な追加便の電話が入ったとします。すると、その担当者は配車表を少し見ただけで、「この車をこっちに回して、こっちの荷物は午後便に載せよう」と判断します。
周りから見ると、あっという間です。しかし、本人の頭の中では、単に空いている車を探しているわけではありません。
「このドライバーなら、この納品先を知っている」
「この荷主は多少時間がずれても調整できる」
「この車両では、この荷物は積みにくい」
「このルートなら帰りに別の仕事を組める」
こうした過去の経験を瞬時に組み合わせて判断しています。つまり、ベテランが持っている本当の価値は、「配車ができること」だけではありません。長年の経験から作られた判断基準を持っていることなのです。
請求業務にも「その人しか知らない」が隠れている
属人化は配車に限った話ではなく、請求業務にもよく見られます。
「A社はこの運賃表だけど、このコースだけ金額が違う」
「B社は月末締めだけど、この仕事だけ別に請求する」
「この荷主は付帯作業があったときに別料金になる」
ベテランの担当者は、これらを当たり前のように処理しています。
ところが、新しい担当者に交代した途端、「これはどう処理するんですか?」という質問が次々に出てきます。そして前任者が残したExcelや過去の請求書を探しながら、何とか正解を探すことになります。
ここで怖いのは、仕事が止まることだけではありません。
間違った金額で請求していても、誰も気付かない可能性があることです。ベテラン社員の頭の中には、会社のお金に直結する情報まで入っています。
ドライバーが持っている情報も会社の財産
同じことはドライバーにもいえます。
「この納品先は朝一番に行くと入り口が混む」
「ここは大型車なら裏から入った方がいい」
「この荷物は、この順番で積んでおいた方が降ろしやすい」
「この納品先では受付の前に伝票を準備しておいた方がいい」
こうした情報は、ベテランドライバーにとっては当たり前のことかもしれません。しかし、初めて行くドライバーにとっては非常に価値のある情報です。
会社としてこの情報を持っていなければ、担当が変わるたびに新しいドライバーが同じことを一から経験しなければなりません。一人が10年かけて覚えたことを、次の人も10年かけて覚える。それでは、会社として経験が積み上がっているとはいえません。
「マニュアルを作ろう」だけではうまくいかない
そこで、「ベテラン社員の仕事をマニュアルにしよう」と考える会社があります。もちろん、それも必要です。ただ、全てをマニュアルに書くのは簡単ではありません。なぜなら、本人が「自分が何を知っているのか」を意識していないことが多いからです。
配車担当者に「配車のコツを書いてください」とお願いしても、なかなか書けません。
「いつも普通にやっているから、説明しろと言われても難しい」
これが実際のところでしょう。
そのため、大切なのは、ベテランの知識を一度に文章にすることではありません。普段の仕事の中で、少しずつ会社に残していくことです。
納品先で気付いたことを記録する。荷主ごとの条件を残す。配車変更の履歴を残す。運行した結果を残す。
こうした小さな記録が積み重なることで、「あの人しか知らない」が少しずつ減っていきます。
システム化の目的は「人を必要なくすること」ではない
「人が持っている経験を会社に残す」ことに大きな価値があると考えています。例えば、納品先の注意事項がシステムに残っていれば、初めて行くドライバーも確認できます。
荷主ごとの運賃や請求条件が整理されていれば、担当者が変わっても同じルールで処理できます。過去の配車や運行の記録が残っていれば、新しい配車担当者も過去の実績を参考にできます。
これは、ベテランを不要にすることではありません。むしろ反対です。
ベテランが何年もかけて身につけてきた経験を、その人だけのものにせず、会社の財産として次の世代へ渡していくことです。
ベテランが本当に生きる会社とは
「あの人がいないと仕事が回らない」
一見すると、それだけ頼られている優秀な社員がいるということです。しかし、会社経営という視点で見ると、その状態を何年も続けるのは危険です。
本人も休みにくくなります。仕事を任せにくくなります。後輩も育ちません。
そして、何よりベテラン自身が、いつまでも同じ仕事から離れられません。
経験が会社に残る仕組みがあれば、ベテランは自分が覚えている仕事を少しずつ若い社員へ渡すことができます。そして本人は、もっと難しい配車の判断、荷主との調整、後輩の育成など、経験があるからこそできる仕事に時間を使えるようになります。
DXによって目指すべきなのは、「誰でもできる会社」だけではありません。
「経験のある人が、経験のある人にしかできない仕事に集中できる会社」をつくることでもあるのです。
まとめ
運送会社には、長年の経験によって蓄積された貴重な知識がたくさんあります。
問題は、それが会社に蓄積されているのか、それとも社員一人一人の頭の中だけに蓄積されているのかです。
配車の判断、荷主ごとの条件、納品先の注意点、請求のルール。こうした情報を日々の仕事の中で少しずつ記録し、共有できるようにする。ここにも運送会社がDXやシステム化を進める大きな意味があります。
人に頼らない会社をつくるのではありません。人が持っている経験を会社の力に変えていく。
これから人材確保がさらに重要になる運送会社にとって、システム化にはそんな役割もあるのではないでしょうか。
次回は10月16日(金)更新予定です。
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