第6回 製造業のベルリンの壁

前回は、流用化・標準化設計の実現は設計ルールと、それを維持する仕組みと、設計者のマインド・マネジメントを確立し、実行すれば決して難しくは無いこと。そして生き残り策としての設計効率向上がいかに大切な条件に成っているかを話しました。

流用化設計が可能と成り、その積み重ねによって標準化設計という目標に到達して、初回にお話しした世界標準の設計成果物の出図が叶うことになります。

しかし、私の目指す最終目標は、流用化・標準化設計の完成ではありません。それは多くの中小・中堅製造業が抱える慢性疾患の治癒にあります。つまり、流用化・標準化設計の完成はその治癒に必要な体質改善というポジション・役割なのです。

では、その慢性疾患とは何でしょうか?
それは、上流側(設計側)と下流側(購買・生産側)の間に横たわる厚くて高い強固な壁です。この壁のことを、私は「製造業のベルリンの壁」と呼んでいます。

同じドイツ民族を東西に分断していた壁はとうに崩壊しましたが、製造業ニッポンの多くの中小製造業には未だ頑然としてその壁は横たわっています。この壁は同じ会社組織の間に中に多くの問題を造り、モノつくり思想の差異さえも生じさせてしまいます。同じ会社にも関わらず!です。

従って、この壁の存在は全社的な生産効率向上を妨げる諸悪の根源であることも容易に想像して頂けるでしょう。壁をそのままにして、これからの厳しい環境を乗り切ることはできません。なぜ、この壁ができてしまったのかの理由は後述するとして、
ここで興味深い傾向について話をしましょう。

これは私がお預かりした多くの製造業を拝見しての私見ではありますが・・・
壁崩壊前の東西ドイツの国力や技術力の差異は皆さんも認識が深いと思います。では、上流側、下流側のどちらが東で、西か?皆さんどの様に想像されますか?少し考えてみてください。

「技術を扱い、学歴や給与体系も下流側より高く、一般的に経営層の思い入れも深い設計部門が西側だ」とおっしゃるかもしれません。確かにイメージはそうですし、私の当初の先入観もそうでした。・・・しかし、実態は逆なのです。

蛸壺設計集団と化して、似て非なる設計を繰り返して設計効率は悪く、異文化交流と言える技術共有もなく、ただひたすら残業を繰り返しながら設計している上流側としての設計部門の実態は、私も何度か訪問した張りぼて都市の東ベルリンに澱(よど)んでいた空気を思い起こさせます。

一方、その様な設計部門から出図される設計成果物は不完全でモノつくりはおろか資材発注もできません。従って、その設計成果物を下流側の人間情報コネクタと言うインターフェイス役が発注やモノつくりを可能にする為に会社中を走り回って?設計成果物を整理・翻訳して再度流す。その挙げ句に遅延した納期を回復し、設計の不具合と戦いながら西ドイツたる下流側は必死に頑張ることになるのです。

壁崩壊時、東ドイツを吸収した西ドイツの勇気と実行力には敬服しますが。多くの製造業の下流側が好む、好まざるに関わらず西側のポジションに置かれているのです。

この様な下流側を私は「設計成果物補完、納期遅延、不具合吸収過程」と呼んでいます。結果、帳じり合わせばかりやらされる下流側のモラルは下がり、東ドイツ側、いや上流部門たる設計部門への不信感は募るばかりです。そして下流側の努力の甲斐もなく納期遅延、不具合、原価オーバーが発生して経営者がそれを叱責すれば下流側は当然、上流側に犯人捜しを行い、責めるのです。これが綿々と繰り返される訳です。綿々とです。

この様な製造業で流用化・標準化設計による上流側の改善提案をすると「うちの設計部門にそんなことできっこない」と言うのは何と下流側です。勿論、上流側を支えてきた自負がそう言わしめる気持ちはわかりますが、この反応は、かなり末期的です。そして、最後には先述した様にモノつくりに対する思想さえ食い違ってしまうのです。

もう、おわかりですね。「製造業のベルリンの壁」の存在理由は。

先ほどから、上流側を悪者扱いにしている様に感じられたかもしれませんが、全くそうではありません。私自身設計者出身ですから設計部門には人一倍思い入れがあります。そうであっても、この様な表現をしなければならないことは忸怩(じくじ)たる思いです。

少なくとも設計者個人、一人一人は一心不乱に頑張っていると思います。その頑張りを反映することなく、上流側の抱える諸問題を放置して、かつ厄介な慢性疾患である、この壁の認識をしても放置して、具体的な治療対策、行動を起こさないのであれば、それらのすべては経営的な責任に回帰します。そうです、これも最後は社長の経営判断の問題なのです。社長自身が経営マターとして真剣に取り組む姿勢こそが壁崩壊への第一歩です。

この壁を崩壊させて全社一丸と成った真のチームワークものつくりを実現させる為に、まずは何をすれば良いのでしょうか?
このコラムを愛読していただいている皆さんには「まずは、流用化・標準化設計の実現」と言う上流側の改善は対症療法ではなく根本治療たる体質改善と冒頭で述べた意味と、その必須性を理解してもらえると思います。

では、そこからどうすべきか?・・・
実はここからが長い道のりなのです。
実際のベルリンの壁の崩壊は激動の流れの中、短時間で崩壊した記憶ですが、製造業のベルリンの壁は経営力・マネジメント力によって用意周到に崩壊させる必要が有ります。つまり「壊し方」が有ると言うことです。重機やダイナマイトでこっぱみじんと言う訳には行きません。
ここからは次回にまわしたいと思います。

次回は6月8日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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