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第7回 歌って・踊れるエンジニア
前回は上流側(設計側)と下流側(生産側)の間にはだかる壁の存在とその存在理由、そして壁の「崩壊のススメ」を話しました。さらに、崩壊のさせ方、つまり「壊し方」が重要であると結びました。
今月は「その壁を崩壊させる原動力をどの様にして醸成させるか」と言う話です。
結論から申し上げれば「3Wジョブ・ローテーション」により「一気通貫力」を持った人材を育てて壁の崩壊に臨んでもらうことです。と言っても??でしょうか・・・
「3Wジョブ・ローテーション」「一気通貫力」等、造語ではありますが、それぞれ私自身が提唱し、大切にしているキーワードです。このキーワードを軸に今月は話を進めたいと思います。
字数の制約もありますのでマネジメント手法のみの要点に止めますが、まずは大切な前提条件が有ります。
それは、流用化・標準化設計を実現して設計部門の設計効率アップと少数精鋭化です。その少数精鋭化によって生じた人材流動性(=人材余剰)を、まずは確保することです。
毎日、「何だかなー」と思いながらも漫然と蛸壺設計と残業を繰り返す設計効率が悪く、メタボに成った設計部門からの離脱です。今まで、このコラムで流用化・標準化設計の実現を繰り返し述べてきた理由には、この少数精鋭化実現=人材余剰確保への思惑があったのです。
朝、会社に来て「今日は何しようかなーーー」って考えられる設計者(=人材)の創出と確保なのです。この可否が以降の企ての全てと言っても過言ではありません。
そして人材が確保できたならば、その人材を3Wジョブ・ローテーションという仕組みに放つのです。3W=3Wayの意味で「技術・製造・営業各部門を主体とする全方位ジョブ・ローテーション」のことです。
例えば、設計部門から営業部門へ、または生産部門へと言う様に人材を異動させて異動先の部門で「大いにもがき・苦しんでもらう」という人材養成企画の実行です。私はこれを「修羅場ゴッコの演出」と呼んでいます。
この「ゴッコ」を体験することにより、壁の主因である各部門の事情や言い分が理解できるように成ります。それらの相容れない事情や言い分の整合そして矛盾との戦いを可能とするマネジメント能力が身に付いてくるのです。このマネジメント能力のことを私は「一気通貫力」と呼んでいます。
そうです、この「一気通貫力」を兼ね備えた人材こそが、壁の崩壊を実現させることができる人材なのです。各部門の事情・経緯や言い分はそれぞれ「理」が有ります。それらを会社全体の視点で俯瞰して理解し、各部門の利害のバランスを調整して行く能力を得た人材です。
私の確信として、この「一気通貫力」は何冊本を読んでも、何回セミナーに通っても得ることができない人材の潜在能力開発だと思っています。その確信の裏打ちとして私自身が体験し、何とか潜り抜けた「修羅場」(ゴッコではありませんでしたが=汗+涙)から得た多くのスキルやノウハウの存在です。つまり、マネジメントとして見えてくるモノ(=視野と奥行き)の獲得です。
そして、あえて「ゴッコ」を付けたのは、いきなりリアルな修羅場に耐えきれず、ドロップアウトすることを最小限にする為に、社内の各部門の業務をシミュレーション環境として体験させる仕組みを考えたわけです。ですが、異動先では、いきなり責任者のポジションに置き「退路」を断たせます。従って潜在能力の出し惜しみは許されません。厳しいようですが「本気で毎日考える」を実行することに尽きます。
お預かりする会社の経営者の多くが「うちの社員はなかなか育たない」とか「うちの社員のレベルは低い」等と嘆きます。この様な経営者には一気通貫力の自社内養成などと言う発想はなく、いざと言う時は大手企業的なヘッドハント発想で人材を確保しようとします。しかし中小製造業に、その様な逸材が来るのは稀で、逆に名ばかりの中途半端な人材に大手企業の論理を持ち込まれて現状より混乱を増すという悲しい実例を何度も見ています。
中小製造業の人材が当初から優れたマネジメント力を持って入社してくることは稀有ですが、潜在能力には大いに期待すべきです。大企業はいわゆる歯車でも生きていけますし、場合によっては歯車であることを強要されます。
対して、中小製造業の人材養成企画こそ潜在能力全開へのダイナミズムが必須で、能力開発する側も、される側も「一気通貫力」の体得を目指すことこそが、「中小製造業で働くと言う本質への到達である」という意識を持つべきではないでしょうか。
勿論、この一気通貫力養成にはお金が掛かります。しかし、どれだけ惜しみなく「投資」出来るか?に経営者としての先見性と度量が試されることに成ります。ゴッコに止まらず会社を一つぐらい創って(買って)任せるぐらいのビジョンを持っていただきたいと思うのです。そして、それに余りある投資価値は存在すると思います。
中小製造業経営者の欠かせない2大ミッションは「資金繰り」と、この「人材養成企画=一気通貫力養成」です。しかし残念なことに、大企業と見間違える様な組織図に人材を「塩漬け」にして、この「人材養成企画」を怠っている経営者は多いのです。従って、この辺りの経営層への啓蒙は私自身注力して行きたいと思っています。
技術部門上がりの私は「寡黙なエンジニア」を3Wジョブ・ローテーションに放ち、一気通貫力を身に着けさせ営業・生産のマネジメント能力を得て変化して行く過程を、とても大切にしていました。世界中の何処でも「一人=絶大なるコスト低減!」で飛んで行き、お客様と仕様を打ち合わせ、納期、価格等お客様のニーズの全てを本社の各部門と交渉しながら「現地で決定」して注文書を持って帰ってくる人材の頼もしさです。ここには壁の存在などあり得ませんし、人材的には将来の経営層や海外現法経営者候補でもあります。
私は、この様な技術出身の人材を「歌って・踊れるエンジニア」と呼んでいます。
もう「寡黙なエンジニア」は要りませんし、その様な集団では生き残って行けません。
どんどん経営に口出しして問題解決も図れる、歌って・踊れるマルチプレイヤーの人数が生き残りへのバロメーターです。
果たして御社には何人の「歌って・踊れるエンジニア」が居るのでしょうか?・・・
次回は「一気通貫力」を体得した人材「達」がもたらす「チームワーク・モノつくり」という話題にしましょう。(7月6日(金)更新予定)
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