第8回 チームワーク・モノつくり

前回は「3W(全方位)ジョブ・ローテーション」により「一気通貫力」を持った人材を育てて、上流側と下流側の間に存在する壁の崩壊にチャレンジする話でした。
壁の崩壊を目論むだけでなく、海外進出等、難度の高い生き残りマネジメント戦略に対し「自前の人材」で戦って行ける能力を持つ人材養成企画こそ経営者マターとして大切であることも強調しました。

今回は中小・中堅製造業、特に設計・組立製造業のモノつくりとしての視点から一気通貫力がもたらす大切なテーマを取り上げたいと思います。
さて、今回のテーマ「チームワーク・モノつくり」と聞いて、そのイメージがしっかり捕捉(ほそく)できる方は少ないと思います。
経営者の中に「我が社は社員同士の懇親を図っているので、チームワークは問題ありません」と胸を張る方がいらっしゃいますが、その様な会社に限って上流・下流間の壁が有って生産効率が悪く、モノつくりが上手くできていないと言う現実を多く見ます。社員同士の懇親や親睦(しんぼく)が直接チームワークではないことは皆さん理解して頂けると思います。

では、「チームワーク・モノつくり」とは具体的にはどの様な姿・形でしょうか?
逆に視点を変えて、「チームワーク・モノつくり」の対極はどの様な姿・形なのか?と言いますと・・・
それは「尻拭いモノつくり」です。

設計部門からアウトプットされる設計成果物が求める付加価値(設計完成度)を満たしていない為に、そのままでは最終製品仕様を満たすことはできません。
従って下流側がその補完に待った無しの対応を迫られ、疲弊してモラルが低下している状態のモノつくりのことです。
「設計はイイよな~あんな設計で出図するから下流側の私たちはいつも納期や不具合と戦いながら設計部門の尻拭いをさせられることに成るんだ~」と言う嘆きが下流側から聞こえてきます。

ですから、納期遅れや原価オーバーを経営者から追求されると下流側は上流側にその犯人捜しを求める様になります。
この悪循環が上流・下流間の壁を強固にして行くのです。

このように「尻拭いモノつくり」の製造業には必ず立派な壁が存在します。
ただし、設計部門を非難している訳でなく、この様な設計成果物をアウトプットさせ続けている経営層にその最終責任が有ることを強調したいと思います。

これらのソリューションとして設計完成度の向上は流用化・標準化設計の実現によって、そして壁の崩壊は3Wローテーションによる人材養成企画で対応するという考え方に至る訳です。
しかし、「そうか!設計完成度が上がり壁も無くなって生産効率が上がれば万々歳!」とここで終わらせるつもりは有りません。と申しますか、ここで終わらせてはダメなのです。
もうひと踏ん張りして「同じモノが2度作れる製造業」に成るまで頑張るのです!

「バカにするな!」とおっしゃるかもしれませんが、私がお預かりした製造業で2度同じモノが作れない製造業が何と多かったことでしょうか。
壁が存在する「尻拭いモノつくり」は、なぜ同じものが2度作れないのか?
それは設計成果物と製品の最終完成形の一致が図られていないからです。

つまり「アーやれやれやっと製品出荷だー、今回も苦労したなー」と製品を完成出荷した段階で製品と設計成果物が一致していない、つまり設計変更が完了していないからです。
勿論、後日、設計担当者に情報として渡される(はずの?)設計変更要求書なる曖昧な資料は残るわけですが、これがくせ者です。

まず、このメカ系・エレキ系・ソフト系全分野に跨(またが)る設計変更要求書たる物の内容の精度が低いのです。
納期に追われながら徹夜で書いたメモから始まって、漏れ、忘れ、誤記と最終出荷時の製品の姿を正確に表す追補資料に成っていないのです。

ましてや、その正誤を確認しようにも、最終製品は海外の顧客工場の中・・・
まさか設置稼働場所の海外まで調べに行くわけにも行かず、曖昧な記憶が頼りの設計変更要求書。
さらに最悪の場合、設計担当者にこの要求書が渡っても担当設計者は次の設計で超多忙。
悲しいかな設計変更が速やかに行われず、そのうち忘却の彼方へ・・・

この状態で「リピート受注だ!前回の赤字を取り戻すぞ!」と意気込んでいる経営者の思いとは裏腹に、最終形への設計変更未完了の設計成果物が悲劇の再生産を繰り返します。これでは「2度同じモノが作れる」とは言えないですね。

そこで、私が実践してきた「チームワーク・モノつくり」の仕組みの紹介です。
流用化・標準化設計と3Wジョブ・ローテーションの実現を前提として・・・
求める仕組みの形は簡単で「製品出荷時に係る設計成果物が最終形態を表している。つまり最終形態への設計変更が完了していること」です。

流用化・標準化設計が完成しているとはいえ、満点の付加価値、つまり完全な設計完成度はなかなか望めません。
しかし、出図時に設計レビューを行って完成度が足りない部分を明確にして(例、新規設計ユニットやすり合わせ設計部分)その完成度追及を下流側に依頼することはできます。
下流側にはこの為に設計能力のあるスタッフが3Wジョブ・ローテーションの結果存在しますから、この完成度追及を担当します。

当然、この完成度追及に必要な設計環境(CADや流用化・標準化を維持する設計プラットホーム)を私は経営者として生産部門たる下流側に投資しました。
最終設計責任は設計部長であっても設計変更権限を生産側の担当者に与えることにより、設計変更要求書などという曖昧な伝言ゲームを介さずにリアルタイムで設計成果物が生産部門で直接設計変更されて行くのです。

何度も申し上げますが、製品という現物が存在する内に、その実態をいかに正確に設計成果物に反映出来るかが勝負なのです。それが許される僅(わず)かな時間を決して無駄にしない仕組みとして、私なりに試行錯誤した結果が「チームワーク・モノつくり」です。

さらに目論みを超えた効果として、下流側の設計変更に刺激を受ける設計担当者がありました。
「悔しいけど、この設変イケてるなー」と生産部門の視点で行われた設変に対する設計担当者の気づき。
この様な切磋琢磨をもたらす仕組みは経営者として大変魅力的でした。

「私設計する人・あなた作る人」と言う雰囲気が社内に蔓延している製造業は本当に生き残って行けません。
なぜか?同じモノが2度作れないからです・・・いまどき・・・

次回は8月3日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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