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第9回 グローバル化と3Aモノつくり ~その1~
前回は「チームワーク・モノつくり」という一気通貫力がもたらす上流側・下流側の協業モノつくりの実現に向けての話と、「同じモノが二度作れる」という製造業としてあたり前のようで案外難しい製品完成時の設計成果物との一致の重要性について話しました。
今回は再び上流側(設計部門)に戻って設計成果物のあり方を考えてみたいと思います。
なぜなら、製造業ニッポンに大きな打撃を与えている超円高が強制的(?)にもたらす「グローバル化」と呼ばれるトレンドを考える時に、この設計成果物の考え方やあり方がとても重要になってくるからです。
その前にまず、「中小製造業のグローバル化とは? 」を考えてみましょう。
単にグローバル化といっても具体的な事例は大きく二つのケースに分かれます。
- 上得意先にくっついて海外移転するケース(「コバンザメ移転」と呼んでいます)
- 移転先(国)のマーケットに定着して、現地企業として存続することを目標とするケース(「マーケット・イン移転」と呼んでいます)
これらを比較して、その結果の違いを考えると・・・すでに皆さんはお気づきでしょうが、「コバンザメ移転」の末路の悲劇には枚挙にいとまがありません。
移転当初は得意先から「よくついて来てくれた! 」などと感謝されていますが、数年もたてば現地企業とのし烈な価格競争にさらされ、あえなく撤退・・・というケースが数多くあります。このように「コバンザメ移転」は単に生産現場を海外へ移転しただけで、グローバル化とは呼べないのです。
では谷口的グローバル化とは何かというと「マーケット・イン移転」であり、「移転先(国)の文化(風土、慣習、人)との戦いと融和」と答えています。
マーケット・インを目指すわけですからマーケティングという手法、知識も後々要求されますが、大前提として、まず「移転先文化への軟着陸」が求められます。これは私自身の体験から得た回答です。
従って、この「文化との戦いと融和」を実行し、軟着陸から融和までをマネジメント出来る「人材」が必須になります。この「人材」を得るために、何度もお話をしている3Wジョブ・ローテーション(全方位ジョブ・ローテーション)によって「修羅場ゴッコ」をプロデュースし、人材育成企画を実行しているか否かが問われます。
「マーケット・イン移転」を選択するにあたって、この「人材」の有無が成功のカギであり、人材の確保があってはじめて「マーケット・イン移転」を選択する権利があるといえるのです。
しかし、多くの中小企業の経営層はこの「人材」を外部調達で確保して、まかなおうという過ちを犯します。大手商社や外資系経験者の人材を自社のグローバル化に適う人材と勘違いしてしまうところが落とし穴です。もちろん、言葉を始めとするコミュニケーション・スキルは必須ですが、それよりも「文化との戦いと融和を戦略的に実行できる人材なのか? 」という重要な基本に気づいていただきたいのです。
自社の弱み、強みの展開である自社プロダクト・ポートフォリオをしっかり理解し、かつ本国本社の全部門に対し一気通貫力によって全部門との協力関係を取りつけられる人材と能力が最も重要です。この能力は自社で育成しないと得られないと私は考えています。つまり「(そのような人材はどこにも)売っていない」のですから、時間とお金をかけて育成しなければいけないのです。
私の体験では、移転先の文化と戦っている最中に、一番の大きな負担は本社各部門との協力取りつけでした。各部門のスタッフは、私が何と戦っているのかは聞いているかもしれませんが理解はできません。そして、不理解はネガティブな回答しかもたらしません。従って「敵は内にあり」と感じたこともよくありました。そのような状況を打開し、支えてくれたのが「よくはわからんが、谷口がそうしたいと言っているから任せよう」という各部門責任者からの信頼でした。
それは一気通貫力による過去実績からの信頼でした。本社の全部門長が私を知っている、理解してくれている、というビジネス環境はまさに一気通貫力の賜物です。
現地法人、現地工場を預かる責任者の心労は計り知れません。私の体験を思い起こすと、とても他人ごとでは済みませんが、「毎日が修羅場」を乗り切る「強じん」な精神力と現地文化との融合やマーケティングという「柔軟」な発想の二律背反した「ビジネススキル」を「トレーニング無しに身につけろ」といわれるようなものです。それはあまりにも無謀で酷だと私は思うのです。
3Wジョブ・ローテーションによって「修羅場ゴッコ」を体験し、一気通貫力を上げておくというトレーニングが具体的な育成企画として発想されるべきだと思っています。
そしてマーケット・イン移転の準備(=人材育成)が完成した後の移転先(現地法人、現地工場等)は「人材育成道場」として大変効率よく「人材」を輩出するファンクション(機関)として存在することになります。これは明らかに「人材育成企画」を実行した経営層へのリワードです。つまり人材育成が利益として回帰する仕組みの完成なのです。そしてこの仕組みによってさらに「人材」が磨かれ、次期経営層の候補として成長してくれるのです。
さて、次回は「その2」として続編をお話ししましょう。
「人材」の確保の次は、いよいよ設計成果物のあり方です。その考え方として「3Aモノつくり」を紹介しながら話を展開させたいと思います。
次回は9月7日(金)の更新予定です。
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