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第135回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その64~代替品の考え方とその実際 ~部品入手難を乗り越える手段として~
半導体や高機能部品の入手難や異常納期が続き、たった数点の部品欠如で完成できない苦しい状態が続いています。なんとか代替できる部品を探して完成させるために、代替品の指定、管理の考え方の問い合わせが増えています。
設計部門BOM改善コンサルの現場から~その64~代替品の考え方とその実際 ~部品入手難を乗り越える手段として~
コロナ慣れも手伝ってリアル新年会が少し増えました。キンミヤのボトルを真ん中に置いてホッピーで割るなり、お湯で割るなり……古き友人と静かに一献交わすのは数年ぶりです。Web飲みでは感じられない豊かな時間です。
代替品指定のルールとは?
自社設計部品(ほとんどがメカ系部品)は材料調達に問題がなければ入手できます。
今、入手困難になっている部品は、全てメーカーがカタログで仕様を設定した購入部品です。
具体的にその代表格を挙げてみましょう。
メカ系部品:
高精度リニアモーション、特殊ベアリング、高機能樹脂ブロック(素材として) 等
エレキ系部品:
半導体、SW(スイッチング)電源、PLC、高密度回路コネクター 等
生産設備機器製造業の目線で考えれば、「このような状況で、どうやって製品を作ればよいの?」と言いたくなる悲惨な状況です。
確かに、製品出荷ができずに資金繰りに行き詰まり、倒産する製造業が悲しいことに増えています。
もはや「部品表さえ作成すれば部品は集まる」という幻想は捨てるべきでしょう。
汎用(はんよう)性、代替性、流用性を確保した設計成果物をアウトプットすることが、この厳しい時代を乗り切るために求められています。私のコンサルティングにおいても相談が増えている代替性の確保のために設計部門、生産部門(資材購買部門も含む)おのおの代替品の指定や管理の具体的な方法を述べてみたいと思います。
ルール1
代替品の指定は「設計責任」として設計部門の重要な役割です。時々、その指定を下流側に委ねてしまう設計者を散見しますが、これは後々大きな不具合を起こす原因となります。従って設計部門が指定すべきですが、この指定には幅広い知識と経験が必要になります。単機能部品ならば大丈夫でしょうが、「本当に代替部品として大丈夫なのか?」の迷いは常に付きまといます。やはり設計部門全体で「代替品検討会」のような、個人任せにしないための諮問会議は設けるべきでしょう。
ルール2
どこまでが代替品なのか? の定義をする必要があります。例を挙げて説明します。
代替指定が容易なモノ:
締結部品、標準ベアリング、シールリング類、抵抗、コンデンサーなどのエレキ系パッシブ部品、互換半導体のセカンド(2nd)、サード(3rd)ソースメーカーの部品 など
代替指定が可能なモノ:
エレキ系パッシブ部品のアッパーコンパチブル品(特性や仕様が上位にある)、海外製SW電源、ソフトウェア互換のあるPLC など
- * ただし、価格が高いし、納期も不明
代替指定が困難なモノ:
高精度リニアモーション系、高機能半導体(FPGA、MPU、高特性OPアンプなど)、高機能コネクター 、レトロ(古い)半導体 など
このカテゴリーに関しては、絶対的な需給バランスが崩れているため、残念ながら名案はありません。この辺りの部品を探して供給する商社も存在します。お宝探しのような商売ですが、大変繁盛していると聞きます。
需給バランス崩れの原因の多くはシングルソース(1社製造品)であることです。このような部品をどうしても採用しなければならない場合は、在庫や数量確保などの安全策は、今回の騒動から、その対応を考えるべきでしょう。「なんでこんな部品使ったの?」と言われないような裏打ちは必要です。
以上の三分類に分けて考えると、「代替指定が可能なモノ」までが現実的な代替指定可能領域でしょう。
ルール3
代替指定が済めば、その選択は生産部門に委ねる。
部品Aの代替指定品がB、Cであったとした場合、A、B、Cのいずれにするかの選択は生産部門(資材購買部門)に委ねます。生産管理システムを稼働させている場合であれば、A、B、Cそれぞれにマスター構築ができているはずです。ならばおのおののメーカーカタログ品番でP/Oが正しく発行されます。
逆に生産管理システムが稼働していない場合、生産部門の負担は相当なものが想像されますし、誤った部品の購入など、代替指定の負の側面が顕著になってしまいます。代替指定運用の可否の条件として、生産管理システムの稼働は必須と考えます。
ルール4
代替品を採用した場合の記録はどうするのか?
ここにはいろいろな解釈があるでしょう。
医療機器や航空・軍需関係など、部品の変更に厳しく制約がかかる場合は除くとして、「代替品だから総合性能、仕様に変化がない訳でE-BOMを最終部品構成とする」という考え。
一方、「ロットトレースの一端として代替品を使用した場合は、M-BOMをその都度変更して記録する」という考えもあります。いずれにせよE-BOM、M-BOMの存在が基本条件であることは理解してもらえるでしょう。「Excel運用の部品表で……」という発想はあり得ませんし、不可能だと考えます。
製造している製品によってその考え方は異なるでしょうが、ルールだけは考え、決めておく必要があります。
最後の手段。Piggyback(ピギィバック)という選択もあるが……
直訳すると「おんぶ」とか「かたぐるま」という意味になりますが、できるだけ仕様近似した部品を購入して、それらの形状や仕様に追加工して「疑似部品」としてしまうことです。もちろん、追加工設計の時間や部品コストなど原価上昇の原因になりますが、「この部品さえあれば完成できるのに!」という厳しい事態からは脱することができます。
例えば、メカ系部品のリニアモーションの場合、取り付け穴位置や高さなどを補正する機械的なアダプターを付加して使用するイメージです。当然このアダプターも高精度な研削部品ですから原価を上昇させます。
さらに、エレキ系の場合は、かなり多くの事例が存在します。
「十数年前に設計したプリント基板に搭載されるICは、パッケージがDIP(はんだ槽)対応だが、既にそのICは存在せず、機能コンパチブルだがSMT(表面実装)パッケージになってしまった」という事例は、多くの会社が経験していると思います。
この場合の選択肢は二つ。
- プリント基板を再設計する
- ピギィバックで対応する
1の選択は理想ですが、これから基板の再設計と実働試験を考えると来年の話になってしまいます。従ってピギィバックが可能であれば、まずは再設計の時間稼ぎとしても選択肢になってきます。
エレキ部品は時間とともに高密度対応になっており、つまり形状はどんどん小さくなります。これはピギィバック対応にはありがたいことで、DIP形状(ピンアサインも含めて)に合わせた小さなプリント基板を作って、その上にSMT対応の新パッケージICを乗せることで対応します。重ねて若干の補正回路も付加できます。
まさに部品を「おんぶ」するような形です。別名として「古い部品に適応する」という意味でRetro fit kit(レトロフィットキット)と呼ぶ場合もあります。日進月歩の半導体はユーザー側の事情ではなくマーケット側の事情で形状・仕様変更やディスコン(生産中止)になります。この辺りの実際を視野に、汎用性のない先端仕様の半導体の採用は注意が必要であると考えています。
再度述べますが、コロナ禍で経験した部品ひっ迫の反省とは、汎用性、代替性、流用性の高い設計コンセプトの重要性への気づきです。同時に、それはBOMを構築して流用化・標準化設計の実現を目指すことと直結すると考えています。
以上
次回は3月3日(金)の更新予定です。
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