第137回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その66~「費用対効果」とはどの様に考えるべきか? ~DXを伴う全社改革に対する費用対効果とは~

実際にICTによる仕組みを導入して、DXとしての仕上げの段階で「ところで費用対効果はどうなるでしょう?」という質問が出現します。社運を賭けた全社改革に費用対効果という尺度は意味があるのでしょうか?

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その66~「費用対効果」とはどの様に考えるべきか? ~DXを伴う全社改革に対する費用対効果とは~

桜の開花が大変早まりそうです。花より団子、花よりホッピーです。何より、今年から飲食解禁となり、多摩川沿いに住んでいますので、すでに花見の日程は確定させました。キンミヤにするかシャリキンにするか……。
天気予報を見ながらの気温次第です。

費用対効果とは何なのでしょう?

費用対効果・ROI(投資利益率)などは、「投下する資金に対し、経営的視点で利益にどの程度寄与するのか?」という目的で生まれた指標であると理解しています。

私の経験の多くは、コンサルタントも終盤を迎え、いよいよ設計プラットフォームを導入したいという意思決定がPJ(プロジェクト)からなされ、稟議(りんぎ)書が発起されます。その後、経営層(特に財務担当役員)から「ところでこの仕組みの費用対効果はどの程度なのでしょう? 特に流用化標準化設計への移行が利益にもたらす効果は? その数字が明確でないと稟議回議できません」という厄介な質問が出現します。

「いまさら、そこ?!!」という私の本音を押し殺して懐柔策を練るのですが、ここに至って社長自身の覚悟や経営としての必然性に疑問を持つケースが多いのです。

費用対効果が、歴然として評価にぶれが少ないものは、例えば生産設備です。
新規導入によって生産タクトが3割短縮されれば、それだけアウトプットが増え、そのまま売り上げに寄与するのであれば、減価償却を上回る利益を稼ぎつつ、営業利益にどの程度寄与するのか? は算術の世界で明らかになります。

私は経営者に対して「費用対効果が明らかになったら、小学生でも経営判断できます!」と率直に進言します。

そもそも、費用対効果やROIなどというものは、稟議書が回議される役員がハンコを押すための「責任回避」のよりどころとして存在すると考えています。超大手の投資ならばいざ知らず、中小中堅製造業の全社改革を伴うDXに対し、「費用対効果」を持ち出すこと自体、経営者(層)としての覚悟の不足を感じてしまうのです。

DXの費用対効果は「中期経営計画」と共に考える

小生の持論は「費用対効果」「ROI」はいずれも「見せ方・考え方次第」ということです。

先述したように自動生産設備のように生産タクトが明確なものは算術で導き出せますが、DXとしての全社改革の実行を目指し、その先鞭(せんべん)としての流用化標準化設計への移行と、それを支える仕組みに対する場合の考え方はどうすべきでしょうか?

まずは、経営者が会社存続への必須投資と考えられるか否かです。
会社存続ですから費用対効果などが及ばない世界です。経営者の「勘」とはいいませんが、「何があっても今回のDXは実行する」という強い意志が存在すれば、稟議回議は自動的に成立するはずです。その意思が希薄で、揺らいでいるから結果、財務担当の役員が不安になり、悶着を起こしてくるのです。

流用化・標準化設計プラットフォームの導入とその構築に必要なリソースに対する費用対効果をあえて問われた場合、そこにはDXという改革に伴う「中期経営計画」は必須です。

自社の改革に経営計画が伴っていないこと自体、経営の棄損(きそん)といえるでしょう。

従って、中期経営計画の経営目標がまずあって、その計画目標を達成するための具体的施策として何が必要なのか? そして、そのためのマイルストーンとリソースの確保が経営層の大切な働きとなります。

例えば目標を「営業利益30%アップ」とすると……

1. その利益を獲得するために必要な上流側の施策(ECMを実行できる環境の構築)

  • タコつぼ設計環境の改善
  • BOM構築による流用化標準化設計の実現と設計効率改善
  • 流用化標準化設計プラットフォームの構築流用化標準化設計プラットフォームの構築
  • 設計部門のモチベーションアップ(設計者の働き方改革)

2. その利益を獲得するために必要な下流側の施策(SCMを実行できる環境の構築)

  • QCD+在庫低減
  • 効率化による固定費削減
  • 保守業務の利益改善
  • 大切な下流側社員のモチベーションアップ(被害者意識からの脱却)

そのために必要なファンダメンタルズ・システムとして、流用化標準化設計プラットフォーム+生産管理システムというICTによる仕組みが必要であるというアプローチです。

そして、「このシステム稼働に必要な情報を全社員で構築しよう!」というもう一つの大切な施策が必須となります。経営者としての「導き、忍耐、責任」が最も問われる瞬間です。

営業利益が30%向上すれば、仕組みの導入コストなど取るに足らないです金額です。

これは会社全体に対する変革がテーマですから、生産設備を入れ替えるようなミクロな視点では困る訳で、あくまで経営層の変革の必然性(会社の存続)に対する投資という視点から考え、全社、全員で中期経営計画の実現に努力するというものだと感じています。

再述しますが、全社のモチベーションアップによる「御社社員ライフの向上」を経営層はいったい幾らに換算しているのでしょうか?
「あーなんだかなー」と徒労感が伴った働き方からの脱却は必須です。全社員の大切な命の一分一秒を無駄使いさせない改革。ここはROIとか費用対効果とかいう尺度では届かない世界です。特に中小中堅製造業の場合は……。
「費用対効果やROIを示せ」という言葉を聞くと、どこかに大企業病の存在を感じてしまうのです。

以上

次回は5月8日(月)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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