第151回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その80~システム導入後の「To be=あるべき姿」とは?

DX活動の結果として「あるべき姿」を目標として進捗(しんちょく)させることは重要ですが、その結果にとらわれてしまい、「どのように目標に到達するべきか?」を見失ってしまう例を述べます。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その80~システム導入後の「To be=あるべき姿」とは?

花粉症も落ち着き、いよいよ「シャリ金」登場です。気温が高くなると、即、売り切れます。スーパーの店員さんに「もう少したくさん仕入れてもらえないですか?」と質問したところ、アルコール飲料なので、冷凍食品やアイスクリーム類と同居ができないそうです。確かに「シャリ金」は専用の小型冷凍庫にあって、取り出し口に「これはお酒です」との注意書きがありました。「なるほど」と納得をして、少し多めに購入です。
何事も「それなりの事情」があるのですね。

システム導入決定後の「あるべき姿」とは?

「あるべき姿」をわれわれは「To be」と呼びます。この「To be」の共有が全社的にできて、初めてシステム導入が本来決定されるべきです。「このように仕事が楽になる」「働き方改革が具体的に可能となる」「全社効率が向上して利益体質になれる」等々……

後出しの「To be」確認という実例を紹介しましょう。
ある機器メーカーで、流用化・標準化プラットフォーム導入が決定してコンサルティングを開始しようとした矢先、外部の方から「導入後のTo beが見えない」との指摘が入りました。「このままでは、経営層の責任問題にもなりかねない」ということで、再度すり合わせの機会があり、後出し「To be」の再確認となったわけです。

そこで、大きな疑問が湧いてくるのが「中期経営計画」の有無です。本来であれば、システム導入の決断の前にこのDXに関わる「中期経営計画」は必須なはずです。その理由はリソース(人・モノ・金)確保と計画マイルストーンが決定されている必要があるからです。

もちろん、社長たる経営トップの意思は明確に提示され、結果、マイルストーンごとの「To be」は決定され、社内で共有されていなければなりません。システム導入決定後に「To be」が定まっていないという話は、明らかに前後の錯誤です。

今回のすり合わせの中で「わが社の今後の経営方針(To be)はこうで、そのために流用化・標準化は必須事項なのである」と誰一人明確に言っていただけなかったのは少し残念でした。今回のDXの必然性が経営層や周囲のメンバー・関係者にしっかり理解と共有がされていなかったのです。

「To be」より「モチベーションプランニング」の重要性

今回のミーティングには設計部門の責任者をはじめ、設計部門スタッフも参加していました。彼ら・彼女らからは一言も発言はなく、自ら存在を消しているように感じました。その場で経営層を中心に「こうあるべき、いや、こうあるべき……」とそれこそ会議は踊るのですが、それを聞いている設計部門スタッフは下を向くばかりです。「それって、われわれがやるんでしょうか??……」「まじかー、仕事が増える!!」という雰囲気です。

事前にスタッフに「To be」が経営層から共有されていて、納得感が得られていればまだ良かったのですが、その場で「To beはこう決まったからよろしく!」と業務命令のごとく降りてくることを設計スタッフは知っているからです。
本コラムの愛読者の皆さんであれば、ここに大きな課題が存在することが理解できると思います。

やらされDXはうまくいくはずがありません。「To be」を実現させる働きを担う、設計部門スタッフおのおのの「自己実現」と直結してこそのDXの成就なのです。設計部門のDXは改革(=脱皮)を意味し、プロセスには設計部門スタッフには大きな物理的・精神的負担が掛かります。それらを乗り越えるための「やる気の創成と維持」「設計者の自己実現」が不可欠です。

従って、ここで経営層に求められる最も大切な経営姿勢とは経営層自身はもちろんのこと、DXを実行して「To be」を実現させる設計部門スタッフに対するモチベーションプランニングなのです。そのことが「やる気の創成と維持」そして「設計者の自己実現」に直結します。

このモチベーションプランニングに関する考え方は本コラムで何度も述べていますが、イラスト化した経営層の視点と設計者の視点おのおのにおけるモチベーションプランニングを添えます。今回の事例の問題点を再認識してもらうのと同時に読者自身の状況も踏まえて、どのようにあるべきかを考えてみてください。

次回は7月5日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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