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教育現場でデジタルトランスフォーメーションが求められる理由と課題
デジタルトランスフォーメーションは、「デジタル技術によって生活を改善する」という取り組みです。企業や各種組織・機関の間でも、システムやツールで業務を効率化し、さらに重要な業務に注力する取り組みとして普及しています。さまざまな企業や組織がデジタルトランスフォーメーションを急いでいますが、教育現場での推進も求められています。
この記事では、教育現場でデジタルトランスフォーメーションが求められている理由やメリット、推進に際しての課題についてご紹介します。
目次
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既存システムのブラックボックス化・老朽化、デジタルテクノロジーに対応できる人材の枯渇などによって引き起こされる「2025年の崖」という大規模な経済損失を乗り越えるために必須とされている取り組みですが、成功させるためには戦略が求められます。デジタルトランスフォーメーション戦略の重要性、打ち立て方などについてご紹介します。
教育現場でデジタルトランスフォーメーションが求められる背景
多くの業界・業種でデジタルトランスフォーメーションが求められています。教育現場も例外ではありません。以下では、教育現場でデジタルトランスフォーメーションが必要とされている理由についてご紹介します。
遠隔授業の需要
遠隔授業とは、ビデオ会議ツールや動画などを使用し、生徒に自宅で授業を受けさせる形式のことです。現在、遠隔授業のニーズは確実に高まっています。
最たる理由は、新型コロナウイルス感染症のリスクです。3密(密閉・密集・密接)を避け、感染を防ぐため、多くの学校が臨時休校となりました。このことから、リモート授業、オンライン授業の需要が高まっています。インターネットを利用できる環境とビデオ会議ツールに対応した端末があれば、生徒・学生は授業を受けることができます。
社会全体におけるデジタル化の加速
現在は、デジタル化が進んでいる影響で、価値観や生活様式に変化が出てきています。また、ビジネスでもデジタル活用が当たり前になっています。生活を豊かにするため、そして社会に出て生き抜く力を身に付けるため、生徒にITリテラシーを身に付けてもらう必要があります。
多くの教育機関は、デジタルに関する内容をカリキュラムに組み込んでいます。小学校では、既にプログラミング教育が必修化されており、将来活躍できるIT人材を育成するため、VRやAR、AIなどの教育を実施している高校も少なくありません。
文部科学省がICT教育を主導している
文部科学省は、世界のIT教育に後れを取らないために、ICT教育を主導しています。ICT教育とは、PCやインターネットなど情報通信技術の設備を活用する教育のことです。
また、実現すべき教育環境として「GIGAスクール構想」を提示しています。「GIGAスクール構想」とは、公立小中学校で生徒一人に端末一台が割り振られる教育環境のことです。生徒一人一人の個性に合わせた教育が実現できます。
これらの取り組みの一環として、デジタル教科書の導入が進んでいます。
教育現場でデジタルトランスフォーメーションを推進するメリット
教育現場におけるデジタルトランスフォーメーションには、生徒・保護者側、教師側の双方にメリットがあります。代表的なメリットをご紹介します。
生徒・保護者側のメリット
遠隔授業の場合、場所を問わずに学習できる
学校に行かずに授業を受けられるため、通学にかける時間が不要になります。何らかの災害が起きた際に、生徒を自宅に待機させたまま授業を提供できるのもメリットの一つです。教育の実施と生徒の安全を両立できます。
連絡手段が効率化される
専用のシステムを利用すれば、保護者は欠席・遅刻の連絡をデジタルで行えます。また、提出物に保護者の押印を求めず、デジタルで完結させるフローも一般的です。こうした連絡手段によりコミュニケーションの手間がなくなり、保護者の負担が削減されています。
授業の進捗(しんちょく)度合いが分かる
学習システムにより、授業の進捗や習熟度などを可視化できます。生徒は自らの得意・不得意を簡単に判断できるため、学習を効率化できます。
教師側のメリット
長時間労働の是正につながる
定型的な事務作業はRPAを活用することで効率化できます。本来の教育の仕事に集中できるのは大きなメリットです。教師に関しては長時間労働が問題視されていますが、デジタルトランスフォーメーションによってこうした状況の改善が期待できます。
生徒のデータを分析しやすい
出席状況や、授業での生徒の反応・理解度などをシステムに蓄積しておくことで、分析ができます。次の授業にその分析結果を生かすことも可能です。カリキュラムを作成する作業も効率化されます。
教育現場のデジタルトランスフォーメーション推進時の課題
デジタルトランスフォーメーションの推進時には、現場によって課題が生じるケースがあります。教育現場での推進を検討している場合、以下のような課題について対策しておかなければなりません。
インフラ整備に費用がかかる
デジタルトランスフォーメーションの推進には、システムやツール、それらを利用するための端末などのインフラ整備が必要です。教育現場に実施する場合、学校だけではなく、生徒の自宅にもインフラ整備が求められます。学生や生徒がPCを所持していない場合は、スマホやタブレットを教育用端末として使用するのも一つの選択肢です。
また、オンライン授業準備のためにはツールの準備や操作方法の理解が必要です。ツールの整備状況や操作方法の習熟度によって教育の進捗に差が出てしまうケースは避けなければなりません。そのため、生徒や教師が一定のスキルを獲得するためのサポートが求められます。
ITに対する知識や理解が必須となる
教育現場のデジタルトランスフォーメーションを実現するためには、教師、生徒、保護者それぞれにICT教育に対する理解が必要です。特に教師はIT技術に対する一定の理解が求められます。人によっては、知識や技術の習得に負担を感じるケースがあります。
スマホやタブレットの利用にルールを設ける必要がある
教育現場のデジタルトランスフォーメーションでは、スマホやタブレットを教育用の端末として用いることがあります。ただし、これらの端末は勉強以外に用いることができるため、生徒に利用させる場合は一定のルール策定が必要です。一方で個人用端末の場合は、そもそも利用状況を確認・管理するのが難しいうえに、利用させている生徒の数が多かったり、教師側に知見がなかったり、といった理由から、完全に把握し、指導することは現実的ではありません。
また、近年は、インターネットを原因とするトラブルが多発しています。個人情報の漏えい、ネットいじめ、未成年の出会い系アプリの利用といったトラブルは代表例です。こうした不要なトラブルに巻き込まれないようにするため、生徒にはITリテラシーやインターネット上のマナー・モラルなども指導する必要があります。
これからの時代に求められる教育のデジタル化
教育現場におけるデジタルトランスフォーメーションの影響や課題についてご紹介しました。かねてより、教師の労働状況改善や生徒の学習プロセス改善の必要性から、教育のデジタル化が重要視されていました。2020年に流行した新型コロナウイルスにより、教育の場所そのものが奪われています。今後も教育を実施していくため、また教育の質を向上させていくためには、デジタルトランスフォーメーションが必要不可欠といえます。既に教育現場に導入されているサービスは少なくないため、ソリューションとして活用できるものを探してみましょう。
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