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デジタルトランスフォーメーションとは? 導入のメリット・デメリット
デジタルテクノロジーの進化にともない、人々の生活やワークスタイルにさまざまな変化が起きています。近年になり、注目を集めているのが、「デジタルトランスフォーメーション」というキーワードです。経済産業省による呼びかけなどにより耳にする機会が増えていますが、意味について正しく理解している方は少ないかもしれません。こちらでは、デジタルトランスフォーメーションの意味やメリット・デメリットなど、基本的なポイントについて解説します。
目次
人気記事デジタルトランスフォーメーションの戦略の必要性と立案時のポイント
既存システムのブラックボックス化・老朽化、デジタルテクノロジーに対応できる人材の枯渇などによって引き起こされる「2025年の崖」という大規模な経済損失を乗り越えるために必須とされている取り組みですが、成功させるためには戦略が求められます。デジタルトランスフォーメーション戦略の重要性、打ち立て方などについてご紹介します。
デジタルトランスフォーメーションの基礎知識
デジタルトランスフォーメーションとは何なのでしょうか。まずは、基本的な情報についておさえておきましょう。
言葉の定義や推進されている理由、日本企業での現状など、デジタルトランスフォーメーションの基礎知識についてお伝えします。
デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の定義
デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)とは、「人々の生活をデジタル化によるテクノロジーによって豊かにしていく」という概念のことです。経済産業省は、デジタルトランスフォーメーションを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
「Digital Transformation」の頭文字をとると「DT」ですが、英語圏では「Trans」の略称が「X」であることから、「DX」の略称で呼ばれます。2004年にスウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱し始めた概念です。
デジタルトランスフォーメーションの導入が必要な理由
現在、デジタルトランスフォーメーションの導入が推進されているのは、「2025年の崖」と呼ばれる問題を解決し、企業の競争力を上げるためです。「2025年の崖」とは、2025年~2030年に予想されている最大12兆円の経済損失のこと。古い既存システム(レガシーシステム)に起因するシステム障害による経済損失額として、経済産業省が算定しています。
さらに、少子高齢化による労働力不足で、ITに知見のある人材が不足する見込みです。レガシーシステムは老朽化やブラックボックス化が進んでいるため、運用・保守にコストがかかることも懸念されています。
経済産業省は、2025年までにデジタルトランスフォーメーションの対応が進めば、2030年には実質GDPを130兆円押し上げる効果があると試算しています。
企業におけるデジタルトランスフォーメーションの現状
現状、企業におけるデジタルトランスフォーメーション推進の状況はどうなっているのでしょうか。
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響により、クラウドサービスの活用やRPAを活用した自動化への取り組み、テレワークなどデジタルトランスフォーメーションに対する世間の理解は進んでいる状況です。しかし、経済産業省による調査では、デジタルトランスフォーメーションに対して「部門横断的に推進」「持続的に実施」と自己診断している企業はわずか約5%にとどまっています。
一方で、多くの企業が戦略に基づくデジタルトランスフォーメーションに未着手の状態と認識しており、浸透が加速しているとはいえない状況です。
デジタルトランスフォーメーションに取り組むメリット・デメリット
デジタルトランスフォーメーションは多くのメリットから評価されていますが、デジタルトランスフォーメーションに取り組むうえでは、メリットとデメリットの双方を理解しておく必要があります。以下では、代表的なメリット・デメリットをご紹介します。
デジタルトランスフォーメーションのメリット
生産性を向上させやすい
デジタルトランスフォーメーションへの取り組みの中で、業務の見直しや棚卸を実施し、業務の自動化の実現や無駄な作業の削減につながります。分散していた業務やデータを統合し、売上への貢献度が高い業務を見つけて、リソースを投下できるため、現在の生産性を最大化させることへもつながります。
新たな商品・サービスを開発しやすい
デジタルトランスフォーメーションの取り組みの一環として、IoT(モノのインターネット)やSNSを通して顧客の情報を収集するケースもあります。データを解析・活用することで、顧客のニーズの変化を捉えることも可能です。データを活用した新しい取り組みを始めることで、売上につながる業務を創出することもできるかもしれません。
環境の変化に対応しやすい
近年は、自然災害の多発から、不測の事態によって事業が止まることを警戒する機運が高まっています。ITツールを活用することでテレワークが可能になり、不測の事態でも事業を続けることが可能です。そのため、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みはBCP(事業継続計画)対策としても注目されています。それらへの取り組みを通じて、環境の変化に強い企業体質へ転換できる点もメリットです。
デジタルトランスフォーメーションのデメリット
初期費用やランニングコストがかかる
デジタルトランスフォーメーションへ取り組むためには、ITツールなどの拡充が必要になるケースがほとんどです。導入には初期費用やランニングコストが発生します。また、効果が出るまでには時間がかかる場合があるため、それまでのランニングコストも覚悟しなければなりません。経営層にとっては、この点が大きな課題となるでしょう。
社内全体の協力が必要になる
デジタルトランスフォーメーションでは、状況によってはシステムを全体で統一することが求められます。その場合、事業部ごとの部分最適ではなく、全体最適のシステムにすることを意識しなければなりません。そのため、社内全体の協力が必要になります。部分最適が実現できていれば、その実績とノウハウを社内全体へ転換する、社内全体での取り組みが重要となります。
企業におけるデジタルトランスフォーメーションの効果
デジタルトランスフォーメーションの取り組みによってさまざまな効果が期待できます。以下では、主要な効果について具体的にご案内します。
営業・マーケティングの効率化
営業・マーケティングの効率化により、デジタルトランスフォーメーションを実現するケースもあります。営業やマーケティングは勘や経験に頼りがちな分野です。デジタルトランスフォーメーションによって、データを基にした、根拠のある方法で効果的な営業やマーケティングを実行できます。
MAツールや、SFA、CRMは営業・マーケティングにおいて、デジタルトランスフォーメーションの実現のために活用される代表的なツールです。
MAツール
「Marketing Automation」の略。
MAツールは見込み客を顧客へとナーチャリングする際に役立つツールです。リードの確度を選別し、最適なアプローチを自動的に判断できます。
SFA
「Sales Force Automation」の略。
営業活動の効果や情報をデータ化し、一部の業務プロセスを自動化するシステムです。有効活用すれば、商談の成功確率を上げることもできます。
CRM
「Customer Relationship Management」の略。
顧客の情報を管理するツールのこと。過去に実施したアプローチの履歴や、購入履歴を管理できます。消費行動を把握し、顧客との関係性向上に役立つツールです。
業務の自動化
RPA(Robotic Process Automation)は、業務を自動化するソフトウェアロボットです。一部のデスクワークを自動化し、作業時間を短縮できます。記入漏れや作業ミスなどのヒューマンエラーを防止することも可能です。自動的にテキストや音声で対話を行うチャットボットも普及しています。問い合わせの対応を任せられるため、顧客や社内でのコミュニケーションの業務効率を向上できます。
顧客の負担軽減
ECなどの情報入力で自動入力のシステムを採用することにより、一度入力した情報を再度入力せずに済むようになります。こちらは、「ワンスオンリー」と呼ばれる機能です。UI(ユーザーインターフェイス)を向上させれば、顧客にかかる余計なストレスを軽減可能です。
ペーパーレス化
近年は、紙の資料を電子化するペーパーレス化も進んでいます。紙の書類をPDFなどでデータ化しておけば、情報共有が容易になり、紙代や印刷代、書類管理業務にかかる経費を削減することも可能です。電子契約システムを導入すると、契約締結の手間や時間を短縮できます。
データの一元化
システムの導入により、各部門のデータをリアルタイムで共有できるようになるため、部門ごとの生産性が「見える化」されるようになります。複数のデータを把握・分析できるため、経営判断のスピードを速めることも可能です。
働き方改革の推進
働く場所の制限が少なくなるため、リモートワークなど多様な働き方が現実的になります。Web会議ツールを利用すれば、オンライン会議、リモート営業、Web接客など、コミュニケーションが欠かせない業務もリモートワークで対応可能です。通勤時間を節約し、労働の効率・密度を上げることもできます。
まずはデジタルトランスフォーメーションについて正しく理解することが重要
来る「2025年の崖」に備えるためには、業務にある無駄を是正し、効率を上げていくことが重要です。デジタルトランスフォーメーションの必要性は、全ての企業にとって他人事ではありません。一方で、デジタルトランスフォーメーションに取り組むためには、まず正しい理解が求められます。今回ご紹介したような定義やメリット・デメリット、具体的な効果について知ることで、自社が実施するべき最適なデジタルトランスフォーメーションが見えてくるはずです。デジタル変革を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
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