第85回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~21~設計成果物の2Sの具体例を考える その3:シンプルな部品こそ分類条件を定義する

設計成果物の2SについてT社の具体事例紹介の最終回。T社2S担当リーダーのK氏の悩みは尽きません。メカ系の基礎部品であるピン・コロ・シャフトでさえ設計者間のそれらに対する認識はズレたままでした。何がピンで、何がコロで、何がシャフトなのか???K氏はシンプルな部品こそ分類条件を定義する必要性を感じ、それを地道に実行していきました。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~21~設計成果物の2Sの具体例を考える その3:シンプルな部品こそ分類条件を定義する

師走です。が……妙に三冷ホッピーが旨いのです。「金宮」のお湯割りの出番が明らかに少ないし、そういえば木枯らし一号も吹きません。そうやって暖かいまま師走を迎えますが年末年始のお酒大量摂取に備えて、皆様ご自愛のほど。

シンプルなメカ系部品の氾濫を防ぐためには「探せて見つけられる」ことが必須、しかし……

掲題のピン・コロ・シャフトを代表とするシンプルなメカ系部品の類似設計の氾濫は例外なくお預かりする会社全てで起きています。具体事例を紹介するT社も例外ではなく「なぜ、このシャフトとこのシャフトが共用できないのか?」という質問に設計者は誰も答えられません。設計者はそもそもこのような類似したシャフトが存在することさえ知らなかったというのが実態です。

ですから、当然の結果でもあるのです。その意味からすれば「探せて・見つけられるようにすればこの問題は解決できそうだな」という感触を2S担当のK氏は得たことでしょう。

しかし、K氏を驚かせ、悩ませたのはもっと遥かに基本的な問題だったのです。

ピン・コロ・シャフトは円形・棒状形態部品ですが、何がピンで、何がコロで、何がシャフトなのか?
設計者同士の認識のかい離はK氏の想定を遥かに超えていました。
設計者全員を集めて2S会議をするたびに「なぜ、こんなに認識がズレているのか?」とK氏が設計者達に詰問めいた口調になることも。しかし、設計者達にも言い分はありました。

例えばピンとシャフトの認識。
「対象製品やユニットの大きさによって圧入ピンでさえφ1からφ20まで存在しているし、もうφ5以上のピンとシャフトの外形、外観ってほとんど同じだよね……」

確かに……。

「じゃー逆にシャフトをピン代わりに使ってもいいわけかー」
そうとも言える……ウームこれはカオスです!

K氏は悩みましたが「正否の問題ではなくT社としての基準を設けない限り設計者全員の認識を一致させることは難しいし、このままでは『探して・見つけられる』という2Sの目的を達成することができなくなる」との結論に達し、そして考えたのです。結果、大変分かりやすい「判断基準」を定義しました。

まずは形状認識の一致から

図1を見てください。

一例ですがPIN、CANTILEVER PIN、POSTという類似形状部品の「分類基準」です。「T社ではこの形状条件で分類します」という定義の宣言です。もちろんJISやISOで定義などされている必要はなくT社独自の分類基準の認識のすり合わせで良いのです。

各社製品や市場の特質もあるわけで、ここの定義はまさに各社の独断で良いわけです。ただし、定義した以上設計者全員が共通認識することは必須となります。K氏が唯我独尊的スタンスで定義しても「総すかん」を食らってしまっては元も子もありません。従って共通認識に至るためにT社は設計者全体会議等ですり合わせを重ねて来たのです。その意味ではK氏は硬軟あわせての提案、修正の繰り返しであったろう想像できます。頭が下がります。

ピンとシャフトはこうやって分類=一次条件で明確な分類基準を定義する

図2はシャフトとピンの分類基準です。

T社はL(長さ)/D(直径)比という数値で明確に分類基準を定義しました。
ここには先述したようなカオスとは無縁で、用途や対象物の大小も関係ありません。このL/D比のみが基準です。これでT社の設計者全員は何がピンで何がシャフト? という迷いから脱却できるわけです。

類似形状の厄介者、円筒状部品もこうやって分類=多次条件で明確な分類基準を定義する

図3は仲間集めの厄介者と称している円筒形状部品の分類基準の実例です。

これをK氏から見せられたときは思わず「Good Idea!」と叫んでしまいました。ぜひ、他社にも参考にしてもらいたい名案です。

前項と同様のL/D比に加えてL(長さ)と公差の有無を加えた多次条件で分類しています。三次条件ですから分類条件としてもシンプルですし、設計者にも受け入れられる(覚えられる?)条件だと思います。

定義してしまえば「なるほど」と得心するばかりなのですが、ここに至るまでのK氏の苦闘はそのシンプルさゆえに窺い知れません。しかし、この裏側に隠れたK氏の苦悩と努力には拍手を送りたいと思います。

さて、3回に渡り、T社の具体事例をお伝えすることができました。今まで多くのプロジェクト(PJ)を預かってきましたが、依存体質満載で「誰か決めてよ」の雰囲気の中で漂流し始めるPJも少なくありません。しかし、T社の場合は何よりIリーダーの強いリーダーシップとその行動をフォローアップするF社長のトップダウンが上手く調歩していると感じています。2S担当のK氏ばかりでなく他のPJメンバーもこれから出番が待ち構えているわけで、その意味ではこれからが胸突き八丁です。しかし、きっと第二、第三のK氏が出現してくることでしょう。期待したいと思います。

具体事例の開示をお許しいただいたことに対する感謝にあわせて、流用化・標準化設計への早期実現を祈ります。

さて、今年も最後のコラムとなりました。何より今年一年の愛読を感謝いたします。
来年も引き続き、お預かりしているコンサル現場の生々しい状況をお伝えできるよう、頑張ってまいりたいと思います。
皆様、良いお年をお迎えください。

次回は1月11日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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