第78回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その14~ こんなに儲かっているのにBOM改善をする必要あるの?

生産設備設計製造業で2年間にわたりBOM改善から設計プラットフォーム構築を目的に設計業務・ルールの見直しから始めた「地ならしコンサルティング」が終了しました。設計プラットフォームの実稼働に向けたステージにバトンを渡し、私の責任範疇を終えることができましたが、本コンサルティングで難度を高くした背景は「高収益企業」であったことです。素朴な疑問として「こんなに儲かっているのに、なぜ改善・改革をしなければならないの?」という声なき声と戦ったコンサルティングでした。この2年間を振り返ってみたいと思います。

こんなに儲かっているのにBOM改善をする必要あるの?

関西・関東の桜はとうに新緑を育み、夏日も訪れます。一方、先日、岩手を訪れましたがまだ開花宣言前でした。季節のダイナミックレンジが広い日本列島ですが、私も自宅での3冷ホッピーから岩手の名米焼酎「えさし乙女」のお湯割りまで幅広く楽しんでいます。「冷・温折衷」が楽しめる季節です。

確かに高収益ではあるのだが……

そもそも、なぜこの企業を預かることになったのか?

今回、事例としてご紹介する企業は、生産設備製造業というくくりになるでしょうが、同社の設備が業界デファクトに近く、オンリーワン的な存在でした。従って、この環境が「競争力」や「高粗利」をもたらし、一般的な製造業では看過できないような非効率や高コスト状態を包み隠してしまっていたのです。

ただし、そのような環境にあっても「このままではそのうちに行き詰まる」という危機感と共に現状否定を行うことができる幹部たちが存在していたことは同社の幸運であったと思います。しかし、一方、その幹部たちは「マイノリティー」であったことも事実です。

その幹部の一人である設計部門責任者は、「同じものが二度作れないのです。顧客に呼ばれて、同一仕様なのに昨年の設備と今年の設備と配線や配管の取り回しがなぜこのように違うのか? 細かいところも微妙に異なる」と追及され、「生産部門に丸投げ、現合している結果なので、ただひたすら謝るだけなのです」と、このように嘆き、現状否定の拠り所にしていました。

多忙な設計部門から出される設計成果物の不完全さを補うために、本来であれば「設計責任として存在する部分」を生産部門に預けてしまうのです。生産部門も性能さえ出れば細かいところまで気配りできないという本音もあって、結果、生産部門からすれば何百台の中の一台にすぎない設備が、顧客にとっては一台一台がおのおの100%であり、先のようなクレームになることは自明です。

「しっかり設計責任を果たすためにはBOMを構築して流用化・標準化設計を実現させる。そのためには多忙な設計部門の高効率設計を目指し、設計プラットフォームを構築する」という改善・改革目標のもとコンサルティングがスタートしました。

難度を高めた原因は……

1:高収益の中で危機感を共有する難しさ

現状否定が可能で実態を直視できる幹部たちではあったが先述したようにマイノリティーであり、全社のうねりとしての改革に結び付けることに苦慮したことでしょう。「高収益でリソースが確保しやすいうちに改革をしたい」という考えは大変まっとうで、多くの企業が手遅れから改革を始めるのと異なり、理想的なアプローチではあるのですが「平原を断崖のごとく歩む」ことを強いるわけで、リーマン根性とは対極にあります。つまり「そのうち、会社がなんとかしてくれるだろー」という意識ではPT(Project Team)は進捗しないことになります。

2:現業と改善・改革との狭間で揺れるPT

高収益の裏付けとして、現業が多忙であるという現実と直面するわけです。そして、トップからも含めて「現業よりも改善改革を!」という指示は期待できません。だいたいが「両方上手くやれ」でしょう。

どうしても優先順位を突き詰めていくと、自ずと顧客がついた現業に軍配が上がります。「せめてPTの進捗を止めるのではなく、日程の引き延ばし、もしくは限定PT人員で、できる範囲で進捗を図る」という妥協案となります。現環境は何十年となく放置してきた累積の結果であり、その累積を短期間で解消することの困難さは理解していかなくてはなりません。

細々でも良いので、決して中断させず、進捗させることが肝要です。せめてアイドリングを掛けておくこと、つまりPTの温度を下げてしまわないことです。このあたりのマネジメントは幹部層の力量に委ねられます。高い意識と知恵と工夫で乗り切っていく幹部層の腕の見せ所です。上から下から挟まれるサンドイッチのハムの心境です。美味しいハムになるのか、不味いハムで諦めるのか……です。

3:経営者は朝令暮改である

経営者で改善・改革を否定する人は、まずいません。PT発足時は期待感満載で「同社改革のために頑張って欲しい! 期待する!」と背中を押します。しかし、現業や放置してきた問題の累積とPTが戦っているとアッという間に1年が経ってしまいます。すると経営層は「まだそんなことやっているの? 何年やるつもりなの?」的な雰囲気を醸し出してきます。

経営には確かにスピードは必要です。その意味で「朝令暮改」の囚われない経営は悪くないと思いますが、しかし、改革には時間が掛かるという真逆の経営姿勢も同時に必要です。経営者自らの発想に基づいた経営理念としての改革でないと、上記のような朝令暮改が始まり、全社的なコンセンサスが難しくなっていきます。ここにも、常に経営者を揺さぶりながらPTをプロテクトしていく幹部層の存在が問われます。経営層からPTに対して押し寄せてくる大波の「良きテトラポッド(波消し)役であれ」という部分でしょう。

振り返ってみると、これらが高難度の主たる原因ではなかったかと思います。いずれにしてもPTとして進捗を図れ、目標としていた結果も得られたのですから、PTメンバーの努力と幹部層の汗の賜物として、喜ばしいことと思いますが、改善・改革を行うタイミングとして理想的であった「儲かっている今のうちに」というアプローチの難しさも同時に実感した案件でした。

しかし、そうであっても「貧すれば鈍する」という手遅れ状態から始める改善・改革と比べれば比較にならないほど、手段の選択肢があり、結果、成就への可能性は飛躍的に高まるのです。皆さんの会社においても、「手遅れの悲劇」という憂き目を見ることがないように「今しかない」と思えば躊躇なく行動を起こされることをお勧めします。

以上

次回は6月1日(月)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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