第79回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その15~ 鍋蓋組織状態の会社に改革プロジェクト・チームは作れるのか!?

鍋蓋組織? ……まさに大きなアルミ鍋の蓋のような組織状態になっている会社のことです。大きくフラットな蓋本体=社員、真ん中にある蓋の摘み=経営者というイメージです。そこには組織ヒエラルキーは存在せず、社長突出、それ以下は幹部+社員といった感じです。このような組織状態を抱えた中小製造業は案外多く、オーナー会社、社長トップダウン経営型会社に多く見受けられます。決して悪いことばかりではない鍋蓋組織ですが、改革を行ううえで大変難儀をする場合もあります。その「功」「罪」を比較して考えてみたいと思います。皆さんには他山の石として、本事例を参考にしてもらいたいと思います。

鍋蓋組織状態の会社に改革プロジェクト・チームは作れるのか!?

いきなり気温30℃となり、体温調整能力が追いつかぬままの初夏ですが、ホッピーには間違いなく三冷の季節到来です。日も長くなり、明るいうちから多少の罪悪感を携えての一杯は格別です。

鍋蓋組織の「功」「罪」

実は私の社会人経験の一社目は「オーナー会社」それも頭に「超」がつく程でした。
その会社に25年以上仕え、専務取締役まで仰せつかった私にさえ社長曰く「私と君とは月とスッポン、君と社員とは紙一重」と言って憚らない超オーナー社長でした。そうです、私はスッポン専務だったのです(笑)まさに社長自ら鍋蓋組織であると宣言していることになります。

層が薄い、従って、指示命令系統は実に明確で全て社長直轄でした。経営判断速度は実に早く、担当責任も明確で「稟議書にたくさんの判子並べて責任を希釈しながらの判断具申」とは異なり、当日起案当日稟議決済が実行されていました。大人数の会社では実現が難しいほどの経営のスピード感がありました。

ただし、許可決済を得るためにはオーナーの意向が反映されているか否かに拠ることは自明で、「どうやったら社長の判子がもらえるか?」にひたすら社員は腐心することになります。社長の意向に対する「傾向と対策」が施されていない限り、目の前で稟議書を破られることになるのです。その意味では社長の経営姿勢をしっかり理解していくこととなり、自ずと経営に参画する意識も芽生えてきます。層が薄い分、経営に近いわけです。

もちろん、「明らかに社長の判断ミス」と考える幹部も存在し、「刺し違えても判断を変えてもらう!」と血気盛んに具申しようとする彼らを「殿中でござる!」がごとく羽交い締めにして止めた記憶も何度かあります。そうです、たとえ刺し違えても死亡するのは絶対に幹部の方だからです。大事な幹部を失うことはできなかったわけで、そこには社長命令に対しては「実行しますか? それとも辞めますか?」が徹底していたことも確かです。社長のミスを幹部が「上手く責任を被って」諫めるという、つまり、社長に退路を開いてから判断を変えてもらうという艱難辛苦も経験したように思います。しかし、そのおかげ(?)で難しい終戦処理やビジネスの影の部分も含めた対応への手練手管は学ぶことができました。現に同社出身の会社経営者が多く存在しているのは決して偶然ではないと思います。

改革改善に対してもトップダウンが極めて明確であり、プロジェクト・チーム(PT)はある意味「背水の陣」で臨むわけですから良い結果が出てきます。結果、付加価値は上がり、私が在籍していたときは超高収益企業でした。当時は今の私のようなコンサルタントが入り込む余地など全くなく、幹部層を厳しく鍛えて「自前主義」を貫き通す経営姿勢で、そのための投資は全く惜しむことのない経営姿勢でもありました。

つまり、経営スピード、上意下達+実行、信賞必罰(「信賞は無く必罰のみであった」という意見もありましたが……)それらがその実績を支えていたのだと考えています。
従って、功罪でいえば「功」の例だったのでしょう。いろいろありましたが、今はそう思えています。

さてさて問題は「罪」の例です……。

結論から言うと社長が「雲上人」と化してしまっている場合です。
社長判断は「神のお告げ」のごとく上から降ってきて「良きに計らえ」的なトップダウン。

「スローガン」や「あるべき論」は聞こえてきますが、具体的な具申要求や結果要求(いつまでに・どのような)はなく、漠然とした目標があるだけで社員のモチベーションは上がりません。さらに改革方針に一貫性がなく、途中まで頑張って二階に上った幹部がある日突然、方針転換という名の下に、はしごを外される。そのような現場を見ている社員は誰も二階には登ろうとしなくなってしまいます。

従って、社員全員が社長判断に委ねることを免罪符としてしまい思考停止。「社長が言っているから……」と結果責任を誰も取らなくなってしまうことでしょう。もちろん結果が悪ければ業績に反映して結局、全社員で年収減という間接的な結果責任を負うことになります。さらに悪いことに信賞必罰ではないので「やったふり」や「責任たらい回し」が横行し、「何もしないで雲上人のお告げを上向いて待っているのが一番楽」となります。ましてや誰も社長判断には反対しないし、忠言もない。雲上人はますます高度を上げて「設計・生産現場」というリアリティーから離れていくことになります。そして、ますます現場の実態を反映しない判断が降ってくるという悪循環が始まるのです。

前述の「功」のケースでは、たとえ社長の判断ミスであっても、幹部にその責任が回ってくることが不文律でしたから幹部は必死で対応します。その意味では幹部による別のプランが常に用意されていたと思います。マネジメントとしての負荷は重いですが幹部は確実に鍛えられることになります。いかがでしょう? 功・罪それぞれ真逆のなり行きとなっていることに気づかれるでしょう。同じ鍋蓋組織でもこれほど異なるのです。

このような「罪」を抱える鍋蓋組織と、そこに横たわる社員の意識の中で、改革のためのPTを立ち上げなければならないとしたら、どのようにしたらよいのでしょうか? 見るからに難しそうですね……。
ここは素直に「はい、大変難しいです」とお答えしましょう。

雲上人(社長)とのインターフェイス作りと相互理解がカギを握る

結論から言いますと、PTというもう一つの「鍋蓋の摘み」を作ることになります。社長の摘みほどは大きくなくとも、PTに課された改革案件に関わるマネジメント要件に関しては社長権限に近いものを委譲してもらい、「社長の分身」を作ります。

上を向いて長年仕事をしている組織には「社長権限相当」を認識させない限り、まずはPTさえも発足できません。
そして、最初の難関は「社長権限相当」を委譲してもらえるか否かです。

雲上人ですから面談するのもなかなか大変です。ましてや開口一番「権限移譲してください」などと言おうものなら、きっと逆鱗に触れ改革の目論見は崩壊します。逆に、この面談で社長の改革に対する思いや必須性を伺い知ることができたなら、相互理解は進み、このPTという「副の鍋蓋摘み」の形成を可能とするでしょう。まずはこの雲上人としっかり意思疎通を図れるパイプを構築することが必須要件となってきます。

人材的にはインターフェイス専任スタッフを任命する必要性があります。このスタッフはいわゆるプロパーではなく、できれば第三者的な視点を持った中途採用が望ましいと考えます。逆にプロパーでは難しいと思います。
もちろん、常駐スタッフとして雲上人の社長とPTを結び、私のコンサルティング業務と調歩しながら、時には社長の意向を咀嚼、翻訳してPTに伝え、その逆も双方向インターフェイスとして実行してもらいます。

是々非々で社長に直談判は必須条件。その意味では「不死身」が要求されます。問題はどのくらい不死身でいられるか? にあると思います。もちろん、このスタッフまでも上を向いてしまったらPTの存続はできなくなります。その意味で社長と対峙できる力が試されるスタッフなのです。

もう一つ重要な判断要件は「会社は社長以上にならない」ということです。
この社長面談を通じて、相互理解が得られない、もしくは社長の経営者としての力量に限界を感じた場合は、会社存続の限界に近づいているのかもしれません。コンサルタントとしては辛いことですが、その旨をしっかり伝えて終戦処理に入ることを考えるのも重要な判断だと思っています。

鍋蓋組織の中堅・中小製造業は思いのほか多く存在していると思います。その功罪は前述したとおりですが、既にお気づきように、その結果としての組織運営とは大変大きな隔たりがあるということです。

「功」の場合:上意下達と経営スピードにより幹部層のマネジメントスキルは鍛えられ、従って改革改善は自ずと行われていく。

「罪」の場合:経営者と社員の一体性を失い、依存体質の組織となり「甘えの構造」が諸々の問題を抱えることになる。改革改善もPTの組織化からつまずくこととなり、難儀をする改革プロセスとなる。

同じ形の組織状態でありながらこれほど違うのです。やはりその違いを決定するのは「経営者」ということでしょう。

以上

次回は7月6日(月)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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