第80回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その16~ PDMは構築したが設計効率は上がらない……その原因を探る

3D CADに付属している図面ファイルマネジメントを主目的にしたPDMから始まり、PLMを意識した高機能PDMまで仕組みとしては構築したものの、設計効率が上がったという効果も設計者間の実感も結果として得られない。何が原因なのか? そのような悩みからコンサルティングとしての相談を受けるケースが増えています。多くの場合、原因は一致しています。ではその原因とは何か? 共有したいと思います。

PDMは構築したが設計効率は上がらない……その原因を探る

梅雨明けはまだだというのに、気温は猛暑日を超えようとしています。今夏も酷暑の予感です。しかし、相棒の無敵三冷ホッピーは気温が上がれば上がるほどコップの外側に汗をかいてくれています。Nice guy! です。

使えないPDMにしてしまう原因を探ってみると……

結論から言えば「設計プラットフォーム」として最も大切な、設計成果物に共有という部分が成立していないということです。

設計プラットフォーム構築の肝は「設計成果物の2S(整理・整頓)」であると本コラムでも繰り返し述べてきました。その結果として「自社の部品カタログ集を完成させることです」とも述べてきました。

*参考
第75回 中小製造業・設計部門の「働き方改革」とは? Part2(ERPナビ)

物(部品・製品)をITに管理させるための「(1)品目コード」と、その物の実態・仕様を人間に認識させる「(2)属性情報」と、機能を分類して仲間集めを行う「(3)分類・整理」がそれぞれ三位一体となった「2S」が最も大切であるというのが主旨です。

相談を受ける会社のPDM構築責任者にこのあたりをヒアリングすると、「異論はありません、そのように2Sを行ったつもりです」という回答が返ってきます。

では、なぜ使えないPDMになってしまっているのか?
この三位一体項目の性質を項目ごとに分けて考えてみましょう。

(1)品目コード

これは品目コード体系に基づく一義的なITによる付番ですので、ある意味、無機的な作業であり、人為的なものが入り込む余地はあまり考えられません。

(2)属性情報

これは人間(=設計者)に対して物を認識させる、つまり、どういう物なのか? ということを表現する文字情報群です。さらに、この情報は物を探す・見つけるための検索キーワードとなり、設計者と物を結び付ける重要な情報です。

寸法や仕様を数字で表現するデジタルな部分と名称や構造を文字で表現するアナログの部分が混在しています。
そして、この文字で表現するアナログな部分が人為的かつ属人的になりやすいのです。

一例ですが、生産現場によく、ハンマー、スパナ等の工具置き場の位置指定として、ハンマーやスパナの外形を縁取りして「ここに戻しなさい」という表示があります。ここには、ハンマーやスパナの外形が普遍的に現場の人間に認識されているという大前提が存在します。T字型の縁取りを見て「ここがハンマー置き場だな」と理解する連想プロセスが必須なわけです。そこにはハンマーの外形がT字型だという共通認識が存在するからこそ置き場として成立する、ということは理解してもらえると思います。

従って普遍的に認識されていない物(特に社内設計部品)をどのように設計者に認識させるか、というポイントは大変重要なのです。ここに属人的、偏った人為的な表現が存在すると「ある設計者は理解するがある設計者は理解できない。つまり、結果として検索して探し出せる設計者、探し出せない設計者が存在する」という「差別」を生みだしてしまうことになります。

(3)分類・整理

いわゆる仲間集めであり、機能分類して類似した物を集めて自社のカタログ集の目次となる部品リストを作成することです。「2S」としての仕上げとなる重要な仕分け作業です。

従って、この分類・整理の基準やルールは誰が決めるのか? という疑問は大変重要です。ここにも属人的、人為的基準やルールが存在すると属性情報と同様な「差別」を生むことになります。
「えっ、この部品ってこっちの分類かよー! 考えられないなー!!」と、このような残念な結果をもたらすわけです。

もう、そろそろ原因が見え始めたと思いますが、(2)の属性情報と(3)の分類・整理に原因は集約されるわけです。私がコンサルティングで会社を預かる場合、この属性情報と分類・整理の基準やルールを決めるときは必ず設計者全員ですり合わせることを必須としています。よくやってしまう誤りは「設計者は忙しいからA氏を専任と決めて2Sを進めてもらおう」という個人依存の構図を作ってしまうことです。

そしてA氏は孤軍奮闘、それでも「独りよがりは後で問題を残すから」と一応はメールか何かで設計者間のコンセンサスは図ろうとするものの、忙しい設計者は「良きに計らえ」とその時点では関心を示さないわけです。そして出来上がった基準やルールはA氏の属人化した、他人の設計者からすれば独断と偏見に満ちた2Sの結果となり、後出しじゃんけんであることを忘れ、多くの設計者からすると「こんなカタログ使えない!」ということになります。欲しいものが見つけられない、見つからない設計プラットフォームは結果、あるけれど使えない、使わないPDMとして存在していくこととなります。

設計に携わる全員が侃々諤々(かんかんがくがく)、この基準やルールのすり合わせを行う機会は大変貴重かつ重要だと考えています。それはまさに「設計基準」のすり合わせに他ならないからです。「全員参加のすり合わせなんか非現実」という声が聞こえてきそうですが、私が言っている全員参加とは「良きに計らえ」という依存構造を作らないということなのです。結果、このプロセスから「いつも一緒に設計していたみんながこんなにばらばらの設計基準だったのかー!」といういまさらながらの驚きを耳にすることとなります。

そうです、このばらばらの設計基準こそ「蛸壺設計」の結果なのです。同じ部屋に居るだけの設計基準がばらばらの設計者たちが、蛸壺に入って野放図設計を繰り返す姿はもう二度と見たくはありません。

設計プラットフォーム構築は設計基準をすり合わせる絶好のチャンス

「蛸壺設計からの脱却の具体策は?」と問われれば、「設計成果物の2Sのときに行われる、設計に関わる全員による、設計基準のすり合わせにある」と答えます。このようなイベントは、毎年はおろか5年に一度でさえもなかなか実行できないと思います。それ程、大きな負担や多くの時間を必要とする場合もあるでしょうが、その価値はあるのです。

逆に言えば「設計成果物の2S」を行うとき以外、設計者同士の設計基準をすり合わせて、統一させていくというイベントの実行を決断できる機会は無いとも言えるでしょう。何より「蛸壺設計の蛸壺を割る作業そのものなのだ」という観点からこのイベントの重要性を認識してもらいたいと思います。使えるPDM構築つまり設計プラットフォーム構築という作業にはこのイベントは不可欠なのです。

せっかくの、このような好機を逃し、さらに2Sを一部の人間に委ねてしまうことの危うさに気づいてもらえれば今回のコラムの主旨は届けられたと考えます。

以上

次回は8月3日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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