第101回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その33~それでも中国出張が必要なわけ

新型コロナウイルスはたった二カ月で中小・中堅製造業の環境を激変させました。サプライチェーンの寸断から始まり、人的交流の遮断、それらに伴う事業進捗の停滞と、これほど中国の存在を意識させられた3月はかつてなかったと思います。このような状態でも、中国に社員を派遣しなければならない中小・中堅製造業の経営層の苦悩を共有します。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その33~それでも中国出張が必要なわけ

新型コロナウイルスを不活化するアルコール濃度は70%以上といわれています。新型コロナウイルスのエンベロープ(殻)を構成する脂質を溶解する必要があるのと蒸発時間の関係からだそうです。 どんなものにも頃合いがあるものですね。泡盛やウォッカには近いものはあっても、三冷ホッピーでは遠く及びません。それでも金宮の量を少し増やして、何となくアルコール消毒をしている気分になっている今日このごろです。

中国へ社員を派遣しなければならない理由とは

まず前提条件として、今(3月末現在)中国に社員を派遣するためにはどのような事象を想定しなければならないのでしょう?

  1. 中国入国するためのビザを含めてのイミグレーション環境の準備
  2. 入国後の検疫処置としての2週間の隔離
  3. 帰国後の検疫処置としての2週間の隔離
  4. フライトの確保(週1便程度に減便されている)

以上4項目は最低必要でしょう。このようにハードルが高い出張条件は北朝鮮でも見たことがありません。少なくとも、派遣させられる社員は往復約一カ月間隔離され、仕事ができないばかりか、自由を奪われるつらい期間を乗り越えてもらわねばなりません。さらに、新型コロナウイルス感染のリスクを常に負うことになります。

「これってパワハラ? 人道的にどうなの?」という声も聞こえてきそうですが、皆さんはどのように考えますか?

これらの厳しい前提条件の存在がありながら、それでも社員を派遣しなければならない理由を挙げると大きく二つでしょう。

  1. 中国に部品製作を依頼している会社が閉鎖を解かれ始動。「サプライチェーンが切れて生産が止まっている、我が社の部品から優先的に生産して欲しい」を実現させるための「お願い、兼、監視要員」
  2. 中国に送った生産設備を設置して稼働させ、検収を上げるための「インストレーション要員」

双方とも会社の売上が掛かっているという意味では同じ目線です。会社の生き死に直結するといっても過言ではありません。

皆さんの会社の現状はいかがでしょうか? 大手の製造業では手元流動性も豊かですから、ここ半年ぐらいは耐える力はあるでしょうが、中小・中堅製造業はそれから比べれば脆弱な資金繰りと戦わなくてはなりません。従って上記の理由によって「何とかして中国に社員を派遣したい、しなければ」という経営的判断は当然あり得ると考えます。

もちろん、嫌がる、行きたがらない社員を無理やり「業務命令」というやつで片を付けようとすれば例のパワハラということになると考えますが、私の身近にある中小・中堅製造業の社員、スタッフの皆さんは会社の現状を理解していて、「結局は自身の給料を守るためです」という感覚です。特に、設備の稼働に関しては「自分が設計したシステムです。ぜひ行かせてください」という声が聞けました。

ただし、これら社員からの反応の優劣は普段の経営層との意思疎通の良し悪しが如実に表れるのも事実です。厳しい状態になったときこそ、経営層の普段の行動や社員への啓蒙がものをいうと感じています。「運命共同体としての中小・中堅製造業」という感覚を常に全社で共有して、リーダーシップを発揮しているのか否か? 新型コロナウイルスがもたらす環境が問うていると思うのです。

ドキュメンタリー 中国隔離生活はこんなです!

私の友人(約200名の半導体設備設計製作製造業の責任者)が報告してくれた中国入国後の生々しい隔離生活リポートです。中国に送り込んである半導体生産設備のインストレーション業務遂行のために派遣される社員からの現地リポートを友人が要約してくれました。

今日になって、中国渡航後の監禁期間中に肺のCT撮影との新しい事実が発覚しましたが、結局、隔離用のホテルはWi-Fi付き個室。3食付きで400元。

設計部門の課長を派遣しますが当人はいたって平然としています。「3食いらない2食でいいから、肉団子を追加で1個付けて欲しい」とのんきなことを言っています。

3月15日(日)に関空移動。3月16日(月)浦東へ移動です。
特攻隊員を送る気分ですが、55日間の長丁場、頑張って欲しいです。彼の肩に2.5億が掛かっています!

いよいよ出発です。
そんな中、課長が今日、関空から浦東へ。エコノミーは一席飛ばしの座席だったらしいが、ほぼ満席。我が社以外に、非人道的会社が多数存在することを知って、安堵(あんど)。(笑)

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今日の浦東空港。防護服が緊迫感ですね。閑散としているにも関わらず、税関の手荷物検査がフリーパスだったらしく、ハンドキャリー部品をもっと持たせればよかったかな? 今日中に寝床に到着できるか?
空港から隔離用のホテルへ連れていかれ、以下第一報です。

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ドキュメンタリー 監禁者の一日。
現地から生々しい情報が入って来ました。ホテルの部屋から一歩も出られない規制はあるものの、起床、消灯の時間制限はないようです。

一日は朝8時の非接触検温から始まるようです。防護服を着た検査員が、部屋の扉を開けて非接触検温。
9時には、自己申告で「グループWeChat(中国の無料コミュニケーションアプリ)」に体温報告。
15時にも、自己申告で「グループWeChat」に体温報告。
16時に再度、防護服を着た検査員が、部屋の扉を開けて非接触検温。

食事は三度決められた時間に部屋の外に置かれ、ノックで食事が届けられたことを知る。初日の朝は中国粥(がゆ)。昨晩は中国野菜炒め。
監禁中の課長は38歳なのに、体重100kg超えの巨漢。健康診断二次検査の常連。
食べたい物が食べられない今の生活で、健康を取り戻せるか? 囚人が刑務所で健康を取り戻すのと同じ? 部屋のアメニティーグッズの交換、補充も「グループWeChat」で申請。食事と共に部屋の外に置かれる。飲み物は、毎日ミネラルウォーターのみ大きなペットボトルで支給。酒、たばこなどの嗜好(しこう)品は、だれか(現地代理店など)に頼んでホテルフロント経由で、部屋の扉の前に届けてもらうことは可能。ただし、途中で行方不明になることもあるとか?

長々となりましたが、一言でいうなら、検査員、ホテル関係者も一切近寄りたくない。バイ菌扱いです。

ご当人の設計部門の課長は無事、インストレーション業務に現在就くことができたようですが、設備が稼働し検収が終わるまで、これからが正念場だと思います。どうか新型コロナウイルスに負けずに仕事を成就されることを友人と共に祈りたいと思います。

新型コロナウイルス禍は私にとっても想定外でしたが、流用化標準化設計プラットホームを構築できた設計部門はテレワーク設計が可能となって「設計部門改革を実行して本当によかったです」という声を聴くことができています。厳しい環境ではありますが、改革を実践した結果を実感できることをうれしく思うのです。

以上

次回は5月1日(金)公開予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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