第155回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その84~製品規格・仕様の一定管理が難しい製造業の在庫管理手法を考える

製造業の基本はQCDですが、QCDが安定しない天然素材(原料)を相手に営む製造業のQCD管理はおのずと難しくなります。特に製品在庫管理は多くの会社で混乱をきたし、生産管理としての足元を揺るがします。この辺りを考察してみましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その84~製品規格・仕様の一定管理が難しい製造業の在庫管理手法を考える

「断酒は続くよ、どこまでも♪」と口ずさむのですが、ようやく秋めいてきた季節のはざまで、キンミヤのお湯割りを思い出します。まだまだ脳ミソが「酒」を覚えている証拠ですが、あらがうことも人生の行動選択と考えるようにしています。
ご褒美は「健康」です。アルコールという化学物質が健康に及ぼす悪影響が実体験として理解できます。

お米から半導体まで、この問題にさいなまされていた

お米作りは「農業の典型」です。同時に「農業は立派な製造業」として私は認識しています。新米の季節になると今年の収穫量と質は? というニュースが流れます。

お米作りに心血を注いで携わった農家の思いがこの瞬間に集約されるわけですが、それでも自然相手の製造業の定めとしてQCDが揺さぶられます。特にQ(Quality=品質)のファクターが大きく「一等米」「二等米」「三等米」「くず米(飼料米)」に分類、等級付けがされます。当然、この等級によって「価格」が決定されることになり、製造業たる農家にとっては年間に渡る作業の評価、つまり製造業としての売上(利益)が確定されます。

しかし、誰が等級付けするのかといえば、農水省の検査官という人間の経験値がその主体です。測定器やAIを使って……という話は聞きません。等級付けされた後は例えば、新潟県南魚沼産コシヒカリの一等米、二等米、三等米、くず米として担当地域のJAの米穀倉庫に分類在庫されることになります。
ここで注目すべきは

  • Qを分類、等級付けを行うのは人間による経験値=あいまい、バラツキの存在
  • 在庫管理方法
    旧:コメ袋のスタンプによる在庫管理(目視管理)
    新:製品コードによる在庫管理=新米・古米の識別管理も併せてバーコードシールなどによるIT管理
    など
  • 在庫価格
    等級や新米、古米による在庫評価価格の管理

お米の場合、品種、等級の順列組み合わせの数からしてもRFタグなどを使ったDX管理のメリットはなかなか見いだせません。「そんなことしなくても、バーコード+Excelで十分管理できる」という声も聞こえてきそうです。
しかし、ここで重要なのは、Qという品質分類が「売上(利益)」も「在庫管理」にも大きな影響を及ぼすということです。

シンプルな例としてお米のケースを考えてみましたが、Qが「作ってみないと定まらない=想定できない」という製造業の存在の認識につながれば良いと考えます。「このQのバラツキをなくしていくことが製造業の使命だ」という言い分に反論はしませんが、特に自然(天然物)を相手にする製造業の場合、事はそれほど単純ではないのです。

半導体製造業は農業だ

台湾の半導体メーカーが九州や北海道に工場を新設するというニュースでは、「ハイテク半導体製造業は、これからの製造業ニッポンを支える」という声をよく聞きますが、半導体製造業はその発祥時点から先述したお米と同様Qの問題で苦しんできました。基盤となるシリコンウエハーそのものに欠陥が存在し、プロセス過程の化学物質や純水の純度、人間が関与するちり等々、お米作りに負けない(?)環境変動要素が存在します。

トランジスタと呼ばれる半導体製造業の開闢(かいびゃく)期を担った製品は「産業のコメ」と呼ばれていた程です。現在の超LSIと呼ばれる大規模ICはそのトランジスタの数十万という集合体です。従って、超LSIであっても「産業のコメ」に変わりはありません。
そうです。いまだに作ってみないと分からないという実際が存在しているのです。

しかし、数十年前から、お米の場合と大きく異なるQを取り巻く管理環境は存在していましたし、現在も存在します。

1. 規格仕様が数値化・細分化されて、「測定装置」によって分類・整理されます

ここがお米と大きく異なるところです。「測定装置」という勘と、経験によらない数値による分類整理がまずは重要となります。
そして、分類された製品はおのおのに重複しない呼び名(国内統一品目コード)が付与されます。その統一コードに基づいた規格仕様カタログができて、設計者はその規格仕様に基づいて製品を選択し、設計します。
国内統一品目コードですから、製造業者が異なっても品目コードが同じであれば設計には支障がありません。
しかし、問題は製造側の社内品目コード管理をどのようにするか? ということです。

  • 別品目コード体系を確立させて統一コードは品名とする
  • 統一コード体系をそのまま流用する

アイデアとしてはいろいろ考えられますが、少なくとも生産バッチごとのLot管理体系ではとても立ち行かないことは理解してもらえると思います。いずれにしても、同一バッチ内で数十種類の規格仕様にばらついたとすれば、とてもバッチごとのLotでは管理できません。

2. 規格仕様によって価格が決定されることはお米と同様

だからといって、高付加価値規格仕様だけを製造することはお米と同様、難しい訳です(Ex, CPUやメモリー:処理速度、メモリー容量、発熱量、消費電力など、アナログIC:ノイズ、周波数特性、動作温度など)。
一方、特にアナログIC(オペアンプ)などでは、いまだに規格仕様では表現できない部分で付加価値がつく場合があります。

人間の五感はアナログですので数値化が難しく、人間が感じる良し悪しが付加価値になるのでしょう。例えば、このICは音が良いとか……
お米の「味」にも似た感覚かもしれません?

3. 完成した製品の規格仕様をQのバラツキに応じてその分布を正規化するためのプロセス管理技術を磨く

製造業ですから、高く売れる製品(高規格品)をピンポイントで製造したいという意思は理解できますが、それがなかなかかなわないわけです。従って、このバラツキ分布が正規分布の頂点に欲しい製品の規格仕様が来るように品質管理、つまりプロセス管理する努力が必要なのです。これはQCD改善に直結し、結果、高付加価値を生み出すための行動となります。

バラツキを制御できない ⇒ 製品規格を低く設定せざるを得ない ⇒ 高く売れない(付加価値が確保できない)
という悪循環に陥ります。

4. 製品の規格仕様管理と在庫管理とは同時進行で考えるべき

しっかりと規格仕様管理が可能になって、「ところで、この類似規格群の在庫管理をどうするのか?」では、遅すぎます。規格仕様で分類したからには、分類した種類数だけ在庫管理ができる仕組みを考えておく必要があります。一意の品目コード体系の構築はもちろん、属性情報(マスター情報)の内容も含めて、生産管理システムをうまく活用するための検討を忘れずに行ってください。
少しまとめてみましょう。

4-1. 生産バッチごとのバラツキとして在庫管理する場合

製造業のQCD管理としては、いまだ行うべきことが残されています。せっかく存在する(であろう)高規格仕様が埋もれた状態で管理することになります。先述したようにバッチごとのバラツキはやむを得ないとしても、そのバラツキを分布管理できる能力を開発する必要があります。それが可能になったら、バッチごとの細分化規格仕様に分別できる能力を開発します。

まずは、バッチごとのひと山を在庫管理することになります。いわゆるLot別在庫管理を行うわけですが、Lotごとのバラツキ(でき不でき=品質管理として重要な情報)はあるでしょうから、最低でも代表品目コード+枝番(-1, -2……)管理は必須です。ただし、Lotごとのバラツキがあるため、在庫評価単価は「?」、売価は「?」です。

4-2. バッチごとのバラツキを細分化された規格仕様で分類整理可能で在庫管理する場合

分類整理された規格仕様に1:1で一意の品目コードを付番して在庫管理を行います。在庫評価単価も規格仕様によって異なる管理が可能になりますから、ようやくQCD管理ができる製造業になれます。もちろん、これらは生産管理システムなしにはかないませんから、品質管理情報もひも付けてマスター情報と併せて在庫管理を考えてください。

4-3. 規格仕様の分布管理に「AI」を使う

せっかく規格仕様を決定したとしても、その分布と材料やプロセス環境の相関関係を人力で見いだすことは、難度が高い作業であり、属人的なルールとなってしまう例を多く見ています。ここに来て「AI」プラットフォームが使いやすく、相関関係の導き精度も上がっています。何より安価になってきていることは朗報です。
多種にわたるパラメーター同士が、どのように規格仕様に関与しているのか? の判断を「AI」に委ねることは新たな生産管理の手法になると考えています。

ローテク、ハイテクに関わらず、製品の規格仕様コントロールが難しい製造業は今後も存在するでしょう。お米のように「一等米」から「くず米」までバラツキが存在することを前提に、製造業の改善・改革として品質管理能力を向上させることは大変重要です。
新たな味方になりそうな「AI」の力も借りて、せめてQCDが管理できる状態にしたいものです。

以上

次回は12月6日(金)の更新予定です

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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