第156回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その85~代替品管理の基本をもう一度考える(必要性編)

本コラムでも何度か述べてきました「部品ひっ迫と、その対応策としての代替品管理の考え方」ですが、いまだに「代替品管理の基本的な考え方、携わる部門とは?」という質問が多く寄せられます。再度、基本的な視点に立ち返って、この代替品管理の「必要性」と「その定義」として2回に分けて述べます。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その85~代替品管理の基本をもう一度考える(必要性編)

いつまでも暖かい日が続いたせいで、師走らしさがあまり感じられませんが本コラムも本年最後です。まずは、1年間のご愛読に感謝します。

例年どおり忘年会のお誘いは増えてきて「お酒は飲まない」というわがまま(?)に対して、多種多様なノンアルコール飲料を用意してくれます。これでウーロン茶だけでは「割り勘負け」という損得勘定が遠のきます(笑)。が、しかし、そもそも「割り勘負け」という発想自体、のん兵衛視点でした(反省)。
「スマドリ(スマートドリンキング)」飲み放題付きというご時世なのだという再認識でした。

代替品管理の前提

本コラムに関わる内容を複数回にわたって述べています。時代背景も多少異なりますが、過去のコラムでも共通項が多く存在していますので、併せてご一読いただければと思います。

頭を悩ませる問題として、お預かりしている製造業各社、さらに当社スタッフの間でも代替品に対する基本的な考え方に相違が存在することです。もちろん、製造業ですから生産している最終製品の違いによって代替品に対するイメージがおのおの異なることはやむを得ないとしても、基本的な考え方をしっかり理解したうえで、それぞれの製造業に適合した代替品管理を定義してほしいと考えています。
まずは、「必要性」から考えてみましょう。「なぜ代替品管理が必要なのか?」という原点の認識です。

大前提として、代替品管理が必要な「部品」は原則購入品です。社内で設計した部品の代表格は「メカ系部品、エレキ系プリント基板」など、それら部品のデータ(図面やNCデータ、配線データ)があれば、よほど特殊な材料でない限り調達できます。これは保守の視点から見ても、数十年前の部品であっても調達ができることを意味します。

内製化という動向はこの辺りにも関係しています。「自力の製造業」とでもいいましょうか、完全内製化は難しいとしても意味のある改革ではあります。従って、設計者がカタログから選択して、それを調達する「他力の部品」がその代替品管理対象になるわけです。

代替品管理とはEOLと部品ひっ迫との闘いである

EOL(End Of Life)の典型は「生産中止」です。これは製造している部品メーカーの意思によって行われるわけで、あらかじめ「生産中止」の情報が発出されます。もっともこの情報に鈍感な設計部門は新規設計に採用してしまったり、購買部門は入手難になって初めて気付いたりなどの代替管理以前の問題を克服しなければなりません。

保守という視点においてもこのEOL問題は難題です。生産設備製造業では数十年の機器寿命を期待される場合が多いのですが、保守対応時点で対象部品が「EOLでこの世に存在しない」となった場合をしっかり想定すべきです。

一方、部品ひっ迫は何らかの理由で需給バランスが崩れた結果です。その理由は前述したコラムで述べたとおり、後で分かれば「なるほどね」となるわけですが、その多様な原因を事前に占うことはなかなかできません。
従ってこの予測は難しく、それ故、事前の管理が必要ですし、後にモノをいうわけです。

代替品管理の必要性とは

1. キャッシュフロー悪化に直結する部品入手難

そもそも部品が入手できないことが大きな問題になるのは、ひとえにこれが原因です。製品として数千万円の売価の製品が、入手できない数千円の部品で出荷が止まります。数千円の部品が、数千万円のキャッシュフローをショートさせる可能性があるわけです。経営者の「いくらでも良いからその部品を入手しろ!」との檄(げき)が飛びます。世の中にはそのような入手難部品探索を専門に行っている商社が存在する理由にもなります。「コスト重視」と言ってきた経営者を「いくらでも良いから……」と言わせる背景を知るべきです。

2. 部品の購入コスト低減・納期短縮(複数購買)

部品の入手難とは切り離して、普段のQCD活動の一環として積極的に代替品管理を実行すべきです。特に電子部品系統には「汎用(はんよう)部品」が多く存在します。メーカーが異なっても代替品として管理されている部品であれば、どれを使っても製品の仕様を満足するという前提ですから、その部品の中で「早く、安い」部品を調達すべきです。いまだに購買部門責任者が特定のベンダーと「癒着」して、調達を任せきってしまう事例を多く見ています。広く全世界からあまねく調達できる能力は、これからの製造業ニッポンには不可欠だと考えています。

3. 海外生産拠点の汎用部品現地調達率向上(最終形はシングルE-BOM・マルチM-BOM)

中小中堅製造業であっても海外工場を運営している製造業は多くあります。海外工場の是非は今回避けますが、既に存在する工場運営は経営層にとっては喫緊の課題です。海外工場のQCDに直結する現地調達部品の管理は生き残り策としても重要です。コア・ノウハウである部品を本社工場(日本)で作成して、海外工場に輸出することは、理解できるとしても、汎用部品をいかに現地調達できるようにするかは重要です。数百円の汎用部品を1万円以上のロジ・コストをかけて日本から現地工場に向けて輸出している事例をたくさん見ています。

生産管理システムの理想としては本社工場(日本)と海外現地工場とデータベース上でつながっていることが理想ですが、現地の言語や税制の相違から海外現地製のシステムを採用する場合もあると思います。
その場合においても設計部門からアウトプットされるE-BOMに基づいて、日本工場用M-BOM、海外工場用M-BOMをそれぞれのモノつくり環境に応じて作成すべきです。結果、この海外工場用M-BOMではできるだけ多くの現地調達可能な部品(早く、安い)が構成されるべきです。つまり「一つのE-BOMから多種(国別・法制別)なるモノつくり環境に応じたM-BOMが必要になってくる」という意味合いを理解してください。
これをシングルE-BOMマルチM-BOMと呼んでいます。

4. 設計者の視野拡大・ノウハウ拡充=部品ひっ迫に強い設計を目指す

設計者のコスト意識や技量に直結する課題です。設計者の意識として「A社の最新部品を使いたい。特殊な部品で差別化を図りたい」などの欲望を抱く可能性は否定しません。しかし、これが部品ひっ迫状況になると入手困難に直結してしまいます。さらに設計者が「部品表に書いた部品を遅滞なく入手するのが購買部門の責務だ」などといまだに勘違いしている場合は意識改革から始める必要があります。

やはり設計の時点(E-BOM構築時点)で代替管理品をしっかり意識してほしいと思います。
「世の中にはこの部品の代替品がどの程度存在するのか?」「入手の難しそうな部品の代わりに汎用部品の組み合わせで置換できないか?」という視点が設計者に求められるわけです。同時に、これは設計者の技量に直結します。もちろん、稼働中の生産管理システムにおいて代替品管理ができていることが前提であることは言うまでもありません。

以上4項目が私の考える「代替品管理の必要性」です。枝葉まで踏み込めばさらにいろいろな事項・内容はあるでしょうが、まずは上記4項目の意義を理解してください。今年年末から再び部品ひっ迫が予想されています。「わが社の代替品管理はどうなっている?」という視点で話し合いを関係部門で始めるべきではないかと考えています。

次回は「代替品管理の定義」を考えてみましょう。「代替品管理の定義」といっても各社各様の考えが存在するはずです。しかし、製造業としての在庫・原価などモノつくりの基本管理として重要な部分になります。
来年の製造業ニッポンを取り巻く環境はますます厳しくなるでしょうし、おのずと中小中堅製造業の悩みが減ることはないと思っています。本コラムのネタも尽きることはなさそうです。

皆様、良い年をお迎えください。

以上

次回は1月10日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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