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第157回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その86~代替品管理の基本をもう一度考える(定義編)
本コラムでも何度か述べてきました「部品ひっ迫と対応策としての代替品管理の考え方」ですが、いまだに「代替品管理の基本的な考え方、携わる部門とは?」という質問が多く寄せられます。前回は代替品管理の「必要性」について述べました。今回は代替品管理のあるべき姿を考えるために、その「定義」について述べます。
設計部門BOM改善コンサルの現場から~その86~代替品管理の基本をもう一度考える(定義編)
謹賀新年
本コラムを愛読していただいている皆様。良き新年を迎えられたと思います。本年も製造業ニッポン、特に中小中堅製造業に向けたコンサルタント現場の景色を、本コラムを通して伝えたいと思っています。引き続きのご愛読をお願いします。
スマドリ(スマートドリンキング)の正月でしたが、自分自身が奈良漬になるほど鯨飲していた今までとは異次元といえる体験です。「変わる」とはこういうことなのですね。
代替品管理の定義
代替品管理をどのように定義するのか? というところから始めましょう。
実は案外難しい問題なのです。それは各社の製品群や業態によって、各社各様の定義が存在することになるからです。しかし、そうであっても原理原則としての考え方は存在します。今回はそのあたりを軸にして述べてみたいと思います。
準互換と完全互換の理解とその定義が代替品管理の原理原則
「互換の三要素」=「仕様・形状・原価」であることを、まずは理解しましょう。この三要素をしっかり理解・はっきり区別できることが、代替品管理には必須となります。
つまり、製品を構成する(BOMを構成する)部品として、「製品仕様」をこの互換の三要素が「満足」することが必要十分条件となるわけです。しかし、この「満足」というカタチの定義は、多くの側面を持っていることは想像に難くないと思います。従って、設計者の「仕様満足」に対する視点や考え方が異なれば、一意の定義が難しく、混乱をきたすことになります。まさに、ここが代替品管理を難しくしている主たる要因と言いきって良いと思います。
そうであっても「満足」の可否判断は設計者に委ねられるわけですから、「わが社の代替品の定義」をしっかり定めて、設計者同士で理解・共有する必要があります。しかし、この理解・共有が思いのほか、難度が高く、難儀をしているという理由で、私への問い合わせが増えているということなのかもしれません。
代替品管理の定義としての要素は、大別すると「準互換品」と「完全互換品」とに分かれます。この二つは定義の根本として代替品管理の肝となる考え方です。従って、あまねく製造業に対しての共通項として存在していると考えていますので、代替品管理の定義への初めの一歩として検討を重ねてください。
1. 準互換品
仕様・形状・原価(納期)は完全一致しないが、製品全体仕様の満足は可能
上位互換=部品単体の仕様がオーバースペックであり、おのずと高価格(大は小を兼ねる)
例えば、メカ系部品では精度や剛性、限界回転数など、エレキ系部品では温度特性、処理速度、メモリー容量、ノイズファクターなどが、必要とする仕様を上回る部品です。上位互換の例では、仕様互換に関しての技術的な配慮はほとんど必要ありませんが、常に高価格であり、製品原価を押し上げてしまいます。「それでも一刻も早く出荷してキャッシュフローを助けるべきか否か?」という経営者マターとしての判断も必要となってきます。
取り付け・搭載にアダプターなどの補助部品によって、準互換部品Assyを製作する(Piggy Back手法)
EOL(生産中止)という激しい新陳代謝にさらされているエレキ系では常とう手段となっている手法です。例えば、メモリー、CPU、FPGAなどの半導体部品では新規部品は小型化がされています。それ故、ピンアサインや形状不一致状態で代替品を探すのですが、世の中のトレンドとして小型化・高密度化が進んでいるわけですから、どこかの倉庫に不動在庫として眠っている部品を「発掘」する以外、同一部品はないわけです。
そこで、Piggy Backとは、いつも私が言っている形と逆ですが「小は大を兼ねる」という半導体部品の特徴を逆手にとって、入手できない半導体の準互換部品をマイクロ基盤と部品群を搭載したAssyを新規設計して対応する手法です。メカ系部品も同様に小型化・高密度化が進んでいます。これも同様に取り付けアダプター群によってAssy化して準互換部品とします。
ここで大切なのはE-BOMへの反映です。今後も入手が困難なEOL部品に対してPiggy Back Assyを設計した場合は、しっかりそのAssyをE-BOMに反映させることは重要です。さらに保守部品目線としてS-BOMにも反映させるべきです。むしろ完全新規設計の期待できないS-BOMへの反映の方が重要かつ必須でしょう。
在庫管理・原価管理の識別は必須
準互換部品といえど「似て非なる部品」として存在するわけで、しっかりとした在庫管理と原価管理は必要であることは理解してもらえるでしょう。その場合、E-BOM上の新たな構成と一致した新規品目コードの採番によって、生産管理側もマスター更新をして対応していくことになります。
2. 完全互換品
仕様・形状・価格が一致=在庫管理不要(原価の多少の高低は移動平均などで対応)
電子部品・半導体、ベアリング(JIS規格)などのように業界で代替品を設定している(汎用〈はんよう〉電子部品・メカ部品)完全互換品の場合の代替品定義は、部品供給メーカー(ベンダー)から代替品としての提示がされています。セカンドソース、サードソースと呼ばれ、汎用部品の旺盛な需要に対応することを目的に製造販売されています。
もちろん、技術的な評価・判断は必要ですが、設計者に大きな負担は与えないでしょう。むしろ、「このような代替品が存在するのか否か」を知っていることが大切な要件となってきます。完全互換品の代替管理は、以上の理由から生産管理側で置換管理することも可能です。
ただし、条件として、設計部門が認定した完全互換部品(群)をしっかり登録管理ができていることです。そのうえで、資材部門の判断で「納期が早くて、安価な部品」を選択、発注すれば良いことになります。
完全互換部品であれば在庫の混在管理も可能です。人間の視覚からすればA社部品、B社部品と外装や伴う色が異なり、ごちゃ混ぜにすることに多少抵抗感はあるでしょうが、仕様として問題はないはずです。これが完全互換品の大きなメリットです。
難度の高い完全互換品の発注
完全互換品も良いことばかりではありません。発注管理として悩ませる問題があります。それは、メーカー品目(カタログ)コードの識別です。A社、B社の部品が相互に完全互換であっても、それぞれの部品を指示するメーカー品目コードは異なります。一方、自社の品目コードはA社、B社ともに同一ですから、販売管理システム的にはマスター管理をどのようにするべきか悩み深い問題です。
つまり、自社の一意の品目コードに対し、A社、B社二つ(あるいは、さらに多数)のメーカー品目コードがひも付くことになります。先述したとおり、在庫管理(原価管理)は省けたとしても、P/O(注文書)にはおのおののメーカー品目コードが明記されなければなりません。もちろん、発注先ベンダーも異なるわけで、納品管理(支払管理)にも直結します。生産管理システムの機能に代替品管理が備わっていれば問題はないと思われますが、そうでない場合は知恵と工夫を要する項目なのです。
まとめ
前回、今回と2回に分けて代替品管理の基本を述べました。多分に「いまさら聞けない代替品管理」という事項もあったと思いますが、コロナ禍を主因とする「部品ひっ迫」という苦い体験をした中小中堅製造業の学習効果として、何らかの対応策が求められています。
そのために、まずは人間業ではなく、DXの一環としての対応策を全社的に考えるべきでしょう。
以上
次回は2月7日(金)の更新予定です。
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