第158回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その87~保守部門のプロフィットセンター化を目指す

生産自動機器を主製品としている製造業の継続した課題として、保守部門運営があります。本来、保守部門はしっかり利益を稼ぎ出すことが可能な部門ですが、実際は損失を生んで、ましてCS低下につながる原因を作る部門となっている実際を多く見ています。この問題の解消には保守部門のプロフィットセンター化が必須となります。そのためには何が必要なのか? 述べてみたいと思います。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その87~保守部門のプロフィットセンター化を目指す

季節の分かれ目のはず? の「節分」なのですが、日本文化の礎である「四季」が「二季(夏・冬)」になってしまう可能性があるとのこと。温暖化による自然の爪痕は世界中で後を絶ちません。

これまで、お酒の四季も、その移ろいを私の好みで伝えてきましたが、「スマドリ」へ乗り換えてしまった今、「スマドリ」の四季とは何だろう? とつらつら考えています。
三冷ホッピー⇒二冷ホッピー(冷たいジョッキ+ホッピー外)
キンミヤお湯割り⇒白湯(さゆ)(ちょっと悲しい。今のところノンアル焼酎を手にしたことがない。そもそもノンアル焼酎とは? 割水のことか? 焼酎の香りのする水か?)
シャリ金⇒かき氷(すごく悲しい)
てなことになってしまうのでしょうか? と未練がましくお酒の後を追っている節分です。

保守部門のプロフィットセンター化とは?

これも何度も述べている「製造業は二毛作」を実践する具体的な手段です。

  • 一毛作目:製品販売からの利益
  • 二毛作目:保守部品(製品)販売からの利益

この両方の利益を製造業は享受できる可能性を持っていることを意味します。

特に生産財製造業(自動生産設備や建機等々)においては、顧客との継続した関係づくりの原動力であるCS(顧客満足)を生み出す大切な要素です。つまり、顧客にとって稼働率の高い製品を提供できる製造業になれれば、買い換え需要を自動的に取り込むことができることになります。

特に使えば使うほど摩損する「稼働疲労」を性とした製品群(例:高温炉、建機など)をつくっている製造業は、摩損・摩滅する部品の予想・想定が可能であり、よって保守事業をしっかりマネジメントすることによって大きな利益確保が(予想)可能となります。

また最近ではIoTの普及により、客先現場における自社製品稼働状況が把握できますから、プッシュ型の保守情報提供(有料のサブスク体系など)も併せて、顧客に対し稼働維持へのポジティブなアプローチが可能です。つまり、製品を販売した後の二毛作目で確実にもうけることができるスキームが用意されているのです。

しかしながら、保守事業で損失を出している製造業は多く存在しています。そればかりか、保守という名の下で生産用部品の「横取り」などで生産部門に混乱を与え、全社効率を低下させてしまい、利益損失を生み出してしまっているのです。「大変残念な状態」と言わざるを得ません。
会社全体の利益が潤沢であれば、まだ時間的猶予が与えられますが、厳しくなる一方の製造業ニッポンにおいては喫緊な経営課題です。このような「残念な状態」から一刻も早く脱却する手段が、保守部門のプロフィットセンター化なのです。端的にいえば、保守部門が独立可能な経営組織になることです。

顧客との受注・発送、予想・想定に基づいた保守製品の生産部門への発注と受け入れ、それに伴う在庫管理、保守製品としての原価管理。それが保守製品の販売価格政策へとつながり、最終的な利益計画へ。そして、間接費用のマネジメントなどを行い、独立した利益確保が可能な組織にすることです。つまり会社運営そのものといえるでしょう。

もちろん、これらが実現するまでの苦労(リソース=人・モノ・金)は伴うものの、プロフィットセンター化に成功した事例では潤沢な利益確保が可能となり、子会社化することによって本社に「利益上納」も可能となっています。

先述しましたが、保守事業のおきてである「正しい製品を早く届ける」を可能としてCS向上に直結するように注力すれば、おのずと新規・買い換え需要による製品購入の選択につながります。その理由の多くは、顧客側の保守部門責任者の意向(稟議〈りんぎ〉)が強く反映されるから(=製品価格より、稼働率を支えてくれる保守製品を重視するため)です。

顧客との強固な関係づくり(カスタマーリレーション)に強力に寄与する保守事業であることを、あらためて認識してください。使いやすい保守製品の想定や需要予測に基づく発注(資金繰り)・在庫管理・人材確保育成など……会社経営として利益追求を行うことは本社に依存しない独立したコミットメント(責任)として全社的な健全経営を促します。

プロフィットセンター化への初めの一歩はS-BOM構築から

私は保守用の部品をあえて「保守製品」と呼ぶようにしています。これは保守用製品≠生産用部品であることを強く意識してもらう理由からです。
外見・機能として、保守製品Aと生産用部品Aとが同一であっても、確実にはっきり区別することを目的とするからです。

その理由として……

  • 保守製品は、顧客の保守業務という視点で製作された製品であるべき(顧客の保守業務を容易にする)
  • 保守製品は、「正しく・早く」が最も重要な付加価値である(稼働率を低下させない)
  • 上項より保守製品の原価・販売価格は、保守事業が成立する価格政策により決定すべき(特急料金・単品発注価格、加えて在庫負担や保守事業経費を賄うための利益計画)

これらは大項目としての理由ですが、少なくとも先述したように、生産用倉庫に在庫していた部品を担当営業が「勝手に」新聞紙に包んで発送してしまう状況とは、全く異なるマネジメント環境を実現するための、保守事業改革であることを理解してください。

まず何から手を付けるべきか?
それは生産用部品を保守製品にするためのBOM構築から始めるべきです。

このBOMをS-BOMと呼びます。S=Serviceから由来していて、保守BOMと呼んでも良いでしょう。このBOM体系も何度も述べていますから詳細は省きますが、約10年前の訴求がようやく製造業ニッポンの中小中堅製造業にとっても一般化された課題になってきたと感じています。

【参考】

第50回 「保守ビジネスを考える」 その1

第51回 「保守ビジネスを考える」 その2

第52回 「保守ビジネスを考える」 その3

第53回 「保守ビジネスを考える」 その4

この課題に早く気付き、着手した製造業は、先述したような成功を収めています。それでも一朝一夕でかなう改革ではないわけですから、現在課題として挙がっているのであれば一刻も早く着手すべきです。当然、DX支援による効率化によって、無駄な人的作業をなくしていく方法論も併せて考えるべきでしょう。

製品販売で利益を稼いでも、保守部品で損失している現状があるならば、躊躇(ちゅうちょ)している時間はありません。「製造業は二毛作」を自社に展開し、実現するためにはどのようにすべきなのか?
E-BOM、M-BOM、そしてS-BOMという製造業としての基本的な生産情報を骨格にして伴う大胆な組織リフォームも視野に置いて、全社を俯瞰(ふかん)しながら改革の進捗(しんちょく)を進めてほしいと思います。

保守部門のプロフィットセンター化という改革を核にした、生き残りを賭けた製造業の中・長期経営計画として真剣に検討すべき課題といえるでしょう。

以上

次回は3月7日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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