第159回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その88~中・長期経営計画は改革のリトマス試験紙

DX推進の実践として全社システムの更新と、それに伴う組織改革が行われている現場に立ち合います。しかし、この全社に関わる改革事業が中・長期経営計画として調歩していない事例を多く見ます。事業の生死をかけての改革なのですから、経営層として必須な経営計画であるべきですが……。考えてみましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その88~中・長期経営計画は改革のリトマス試験紙

カカオ豆のひっ迫と高騰によって例年に比べて、静かなバレンタインDayでした。CMを打っても原料不足で供給できないという現実は食品製造業でも、電子部品ひっ迫の生産財製造業でも、原料材に付加価値を載せて行くなりわいですから同様の景色となりますね。

前回のコラムで焼酎のスマドリって……という疑問を投げかけましたが、このコラムの編集スタッフが律義に調べてくれました。
ありました! ノンアル芋焼酎。
早速、近所の「かつてなじみ」の酒屋に行きましたが、「ノンアルだったらスーパーに行ってくれ」とけんもほろろ(一理ある!)。いまだ手にできていませんが、「最後の手段は通販で」と考えています。芋臭のお水? などと勝手に想像していますが先入観は禁物。入手できたら報告します。

中・長期経営計画の存在意義

MBAの講義が目的ではありませんから、中・長期経営計画の「そもそも論」は省いたとしても、本コラムでなぜこのテーマを扱うことにしたのか?……
「DXというトレンドを追い風にして、全社システムを更新して大きく社内改革を実行したい」という製造業を預かる場合が多くあります。もちろん大きなリソースを必要としますから経営層がその発端となります。いわゆるトップダウン型が圧倒的に多いということです。もちろんボトムアップ型は皆無ではありませんが、少数派です。特に中小・中堅製造業の場合その傾向が顕著です。

経営層の意思と決断によって製造業ニッポンの行く末に憂いを抱きつつ、生き残りをかけた改革に踏み出すこと自体は大いに賛同するところです。しかし、問題点はこの改革が単なる思い付きやDXトレンド(はやり)が発端であるとしたら、成就させるための必須アイテムが欠けていると考えるのです。結果、数年後に「やっぱり思い付きやトレンドに安易に乗ってしまった……」という後悔だけが残ることになるでしょう。
相談を承る製造業の経営層にその「必須アイテム」の欠損に対しては、案外無頓着という事実です。

この必須アイテムこそが「中・長期経営計画」です。
上場会社の場合はルールとして求められますから、内容の出来、不出来は別として一応「形」としては存在することになります。しかし、いわゆるオーナー系の中小・中堅会社の場合、「トップの決定事項に対する実行計画」として、具体的な手段と到達目標、進捗(しんちょく)、マイルストーンや必要なリソース確保計画などをブレークダウンすることなく、「走りながら考えましょう」などという便法をかざして始めてしまいます。従って期間は「できるだけ早く」、方法論は「プロジェクトチーム(PT)で考える」が常とう句です。

ここに今回のテーマとして中・長期経営計画を取り上げた理由があります。その意味を分かっていただけたでしょうか?
「わが社はいつもこんな感じ!」「それそれ、わが社のこと!」等々、聞こえてきそうですが……
中・長期経営計画の準備のない会社は「何か、また上から新たな改革とやらが降ってきたぞ! 売上数字も勝手に上がっているし……」という社内事情が多いのです。このような内実があるとすれば、それは経営層とスタッフ層(含む幹部層)との意識ギャップを埋めるための努力が不足していると言わざるを得ません。そして、具体的にそのギャップを埋めることができる中・長期経営計画というツールの存在に気づきがないということなのです。

中・長期経営計画に求めるものとは

特に今回のテーマの対象は全社システムの更新と伴う改革ですから、そこに焦点を当てて考えてみましょう。
まず、大分類としては

  1. リソース
  2. マイルストーン

の二大項目です。

この中・長期経営計画の核心は会社としての将来方針の全社共有にあります。
「あなたが在籍している企業(製造業)の目指す未来はこれです。そして、その未来にはこのようなメリットが待っています」という改革へのモチベーションプランニングの礎としての働きなのです。全社員の腹落ちがあっての改革成就です。先述した「何か上から降ってきた」的な状況を生まないようにするためにも必須なのです。

それではおのおのの項目を細分化してみましょう。

1. リソース

人(組織)
全社効率の向上ですから、最終的には一人当たりの付加価値を高めることが前提です。ポジティブに考えれば、「売上が倍になっても現行人員で運営できる」という視点になるでしょう。
しかし、改革が成就するまでには組織の見直しや職務分掌の移行などの試行錯誤を必要とします。その間は、それなりの負担がスタッフに掛かることになります。物理的な負担ばかりでなく精神的な負担にも配慮すべきでしょう。さらに設計部門では蓄積された設計成果物の2Sが待ち構えています。この2S、いわゆる力仕事です。やはり現業をこなしながらの力仕事は設計者への大きな負担となりますから、2S専業の派遣技術者などの(臨時)雇用も必要でしょう。特にこの「人」の部分はスタッフの「やる気」という心持ちに強く関わることになります。その意味で経営層の中・長期経営計画内容の不断の訴求は大変重要です。「会社存続のために、そして社員(家族)の生活を維持するために」という強いメッセージ性が問われます。要は経営層が「社員の情熱=パッション」を引き出せるのか否か、ということでしょう。

モノ
モノとしての核は更新する全社システムでしょう。私が言うのもはばかられますが決して安い買いモノではありません。分相応のシステム価格(予算)としてバランス感覚が問われます。
私には「実稼働」という大切にしている言葉がありますが、システムは稼働しなければ無駄の塊となって資金繰りを苦しめる原因となるだけです。従って「分相応という尺度の精度」が経営層に問われることになります。

金(予算)
上項目の人・モノの執行に必要な資金の調達です。まずは一体いくら必要なのか? それはいつなのか? という見積りのことです。普段の事業に必要な資金繰りと合わせて、経営層に最も求められる働きです。ここをいい加減に(楽観的に)してしまうと改革自体が頓挫してしまうわけで、改革遂行に必要な血液としての資金をうまく見積もって、調達・用意することです。

2. マイルストーン

何の困難もなく一気に改革が進むなどありえません(残念ながら)。
中長期ですから3~5年を改革のスパンとして考えるべきで、その間にはいろいろな悩み深い問題が顕在化してくるでしょう。その問題こそが全社を非効率にしている原因なのですから、問題発見は進歩と捉えるべきです。そして、それらの問題を顕在化させるために毎月とはいいませんが、四半期ごとに具体的な(どのような状態か)到達目標としてのマイルストーンを設定して予実の結果を全社的に共有すべきです。
ほとんどの場合がマイルストーンどおりに進捗しないというのが実際でしょう。しかし毎回、楽に進捗がかなうようであれば、マイルストーンの設定が甘く、先憂後楽ではなく先楽後憂的な設定になっていないか、再検証が必要です。

いずれにしてもマイルストーンという全社で進捗が認識できる道しるべの存在が大変重要なのです。この進捗の認識によって、試行錯誤という「行動」を起こすことができます。その積み重ねによって改革の目的を達成することに価値があるのです。

改革のリトマス試験紙という意味

リトマス試験紙はPH値(酸性・アルカリ性の尺度)を知る試薬紙です。色見本と比較することで「誰もが同じ結果(PH)を知る」ことができます。中・長期経営計画は経営層から幹部やスタッフまで全社が改革の目的や手段を知って、道しるべとしてのマイルストーンの存在と、何より大切なのは、その予実の結果を同じ評価軸で認識し、共有できることです。マイルストーンなき予実評価は「うまくいっている」「うまくいっていない」などの主観評価となってしまい、なかなか試行錯誤への実行に至りません。「うまくいってそうだから、このままで行けば良いな」という声が主体になりがちです。その方が楽ですから……

  1. リソースの確保
  2. マイルストーンの設定

この両輪によって改革が進捗することになり、改革は成就するのです。「改革への原動力」と「評価軸」という両輪ともいえるでしょう。
中小・中堅製造業では「名ばかりで作りっぱなし」の中・長期経営計画が散見されます。「名ばかりで作りっぱなし」とはだんだん自然消滅していく、「そういえば、あの計画ってどうなった?」という、思いつきで計画され、経営層から「よきに計らえ」的な上意下達経営計画です。これでは全社改革は成就しないのです。

全社システム更新と伴う改革を考える時には、同時に中・長期経営計画の重要性をあらためて認識してください。特に経営層は「自社の生き残り施策」という視点で考えてほしいと思っています。

以上

次回は4月4日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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