ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
第50回 「保守ビジネスを考える」 その1
中小・中堅製造業の保守ビジネスのあるべき姿とは
謹賀新年
新たな年を迎え、本コラムも50回を迎えることができました。毎月の掲載ですので満4年を超えるわけですが、ひとえに、皆様のご愛読あっての50回目です。大変感謝を致します。
最近、このコラムに共感をいただき、お問い合わせを承る事例が増えております。それを嬉しく感じる反面、内容の充実を重ねて図っていく必要性も同時に感じております。コンサルティングを担当している製造業各社の事例から、中小中堅製造業が置かれている現実や問題を共有して皆様のお役にたてるコラムであり続けたいと思っております。
さて、今回より「保守ビジネスを考える」というテーマで「保守」という切り口で製造業を考えたいと思います。なぜならば保守ビジネスを上手くマネジメントできていない事例を多く見るからです。どの事例も突き詰めていくと設計成果物から由来する原因に辿り着きます。その原因を端的に述べれば「E-BOMが構築されていない」ということになります。その辺りの深堀は次回以降に回し、まずは「儲かる保守ビジネス」を目指し、そのためにはどうすべきなのか?連載形式で数回に分けて皆様と一緒に考えてみたいと思います。
私は、保守ビジネスを「製造業第二の収穫」と呼んでいます。本来製造業とは製品ビジネスはもとより保守ビジネスも含めての「二毛作」であるべきと考えているからです。私自身、「保守ビジネスは大変儲かった」という記憶が今でも鮮明に残っています。その記憶の裏打ちとして製品の価格に関しては「やれディスカウントだ、相見積りだ」とうるさく言う顧客も、保守部品は「ノーネゴ=言い値」で購入いただきました。それも「この自動機、良く働いてくれているよ」と、いわゆるCSも伴っているからです。そう、「言い値」ですから当然儲かるわけです。
しかし、最初から儲かっていたのではありません。その辺りの話は少し後にして、まずは製造業の保守ビジネスの形を考えてみたいと思います。私は概ね下記の4種類に分類しています。
マッチポンプ型
これは「オイシイ製造業」です。お客様が製品を使えば使うほど保守部品が必要となる製品群です。例えば、熱ストレスが加わる、定期磨滅するという、保守による仕様維持を前提とした性を持つ製品群です。
まさにマッチを売って火をつけて、消化のためにポンプを売るというイメージです。ですから、この業態の製造業で保守ビジネスが芳しくないとなれば、どこかに大きな問題を抱えている証です。
キーパーツ型
製品の仕様を司る主要パーツにノウハウがあって、製品供給元からしか入手できないという保守部品です。これを「買ってしまった側の弱み」とジョークにするつもりはありませんが、オンリーワン型製品に良く見られる傾向です。この形の保守ビジネスは論を持さず「儲かる」はずです。ただし、模倣部品の出現には注意を払う必要があります。
保守工事型
マッチポンプ型も含まれますが、比較的規模の大きい定期的な改修保守工事を必要とする製品群です。定期的がキーワードですからしっかりとマネージすれば保守売上が計画的に予測できることになります。製品出荷時に*年後の保守売上が想定できるはずもなく、上手くマネジメントして大いに儲けたいものです。ただし、工事を担当する設計者に工事が集中する盆、暮れが無いのは想像していただけると思いますし、従ってこの季節には設計部門から設計者が居なくなるという弊害を抱えることになります。
汎用部品型
最近流行りのミスミ等の汎用部品や汎用ロボットで組み立てられた製品群です。残念ながら保守部品としてのビジネスチャンスはあまり期待できません。顧客はおそらく保守部品は直接ミスミやロボットメーカー等から購入するでしょう。ただし、汎用部品を使っても価格競争力のある製品群でしょうから、きっと全体の仕組み、つまりシステムとして付加価値があると考えられます。例えば加速試験設備や測定設備等の製品群です。その意味からは製品全体の校正保守ビジネス等は十分考えられます。
ここでは、マッチポンプ型、キーパーツ型、保守工事型の保守部品供給を前提とした保守ビジネスにスポット・ライトを当ててみたいと思います。結論から参りましょう。
儲かる保守ビジネスの掟とは……
1:早く届ける
製品がトラブルで止まっていることも考えられるわけですから、「一刻も早く」は重要。やはり在庫に勝る手段はありません。しかし、似て非なる部品の存在がそれを拒絶します。ですから、以前にも述べましたが流用化・標準化設計の積み重ねが、この保守部品在庫を可能にしていくのです。
2:部品では無く製品として届ける
機械系部品なら油まみれの部品を一塊で届けるのではなく、仕分けをして、できるだけアセンブリ・ユニットとして梱包し、取扱い説明書によって正しく脱着できるようにすべきです。電気系基板、部品であれば動作確認済み、調整済みの物を届けましょう。保守部品は自社生産現場で使われるわけではないのです。既に顧客の生産ラインに組み込まれ、組立を前提とした環境には存在しません。さらに生産現場とは異なり「外す、付ける=脱着」という状況が必ず伴うことを考えてください。今付いている不具合部品を外すだけで四苦八苦などということにならないように。つまり、その設備を保守する人の立場を考えて「同じ部品ですから上手くやってください」では無く、脱着を考えた「保守用製品」というイメージを確立すべきです。このイメージを確立している設計者こそが保守のしやすさも考慮された設計を実行できるのです。
3:正しい部品を届ける
実はこれが一番難しいのです。特に一点受注仕様製品や一部改造製品の場合、顧客ごとに製品識別して正しい部品を届ける必要があります。古い工事ファイルを頼りに、何とか部品は特定できたが、何種類かの設変履歴に伴う改定があり「一体どれが使われているのだ!」と社長が叫んでも、藪の中です。今時、海外工場まで確認しに訪問することもままならず、止むを得ず「この中のどれかが使えるはずです」と部品を届けてしまう。これでは既に保守ビジネスが破綻していると言っても過言ではないでしょう。
最近では顧客先で使われているソフトウェアの正しいVer.を認識できずに右往左往する実例も良く目にします。目に見えない分、もっと厄介です。
何度も顧客に誤った部品を届ければ「保守ビジネス」としての信用を失うばかりか、何度も部品届けるコストは既にビジネスとして成立しません。保守ビジネスが赤字になっている製造業の多くが、この問題で破綻しているのです。
かく言う私の失敗の原因もここにあったわけです。
次回に続く。
次回は2月8日(月)更新予定です。
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