第129回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その59~部品納期異常はいつまで続くのか?~製造業ニッポンは何をすべきか?~

相変わらず部品納期異常が続いています。それも今まで見たことのない1年半という異常さも散見されます。コロナ禍も第6波が少し収まって、納期好転の兆しを感じていた矢先に第7波が来てしまいました。受注はあるが、出荷できずに資金繰りが厳しくなっていくという状況が中小・中堅製造業を苦しめます。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その59~部品納期異常はいつまで続くのか?~製造業ニッポンは何をすべきか?~

梅雨入り、梅雨明け共に異常で、再び豪雨が続くという変な7月でした。幸運なことに(?)私には梅雨明け=シャリ金解禁(シャリ金開き)ですので、すっかり冷凍庫はシャリ金に占領されています。今日はシャリ金に何をかけるかなー……55ホッピーか? はたまた、やはりストレートか?

相変わらずの異常納期

メカ系購入品、エレキ系、制御系、センサー系、樹脂系、希ガス系等々、昨年から引き続き納期改善がされません。その理由の想定は123回のコラムに述べました。

第123回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その53~ 半導体部品・高機能樹脂部品逼迫の原因を探る~中小中堅自動機器製造業を悩まし続ける問題の発生メカニズムとは?~

特に中小・中堅の自動機器設計製造業が苦しめられています。一製品(システム)ごとの価格が高い(数千万円から1億円超え)にもかかわらず、その製品が数万円の部品の納期に足を取られて出荷できません。それ以外の部品も含めて部品購入費は合計で数千万円となり、数カ月前に支払うことになりますから月末を超すごとに資金繰りを苦しめることになります。

そればかりではなく、現場に仕掛かっている製品の置き場所にも困り、工場内を整理したり、費用は掛かりますがテント型倉庫を仮設したりして置き場所の確保も大変です。これらは全て原価に反映され利益を圧迫します。

前回のコラムでも述べましたが、仕掛かった製品の部品が突然入荷されると現場は「とにかく早く出荷しろ」という社命に応えるべく頑張ることになりますが、これも一つの混乱要素となり、効率低下から原価が上昇します。資金繰りは悪化するは、原価は上がるはで、踏んだり蹴ったりの状況なのです。

皮肉にも自動機器製造業の筆頭は半導体生産設備関連ですが、コロナ禍によってエッセンシャルワーカーの減少を補う形で自動生産設備の全体需要は高まっています。受注は座っていても来てしまうのに出荷できない、もしくは出荷納期を約束できないという何ともつらく、もどかしい状況になっています。

私もわが目を疑いたくなるような見積書を何度か見ました。実例を挙げますと……

  • リニアモーション系の高精度品は納期が出てこない物もあります(取りあえずP/Oだけ入れておいてください的発注=納期なき発注)。
  • O社のPLC納期:15M(月)
  • K社のセンサー納期:40W(週)(今まで納期優等生だったのに……)

ここでちょっと笑えない笑い話……。

15Mの納期を見て、

購買部長:「だいぶ納期短くなったな」
担当者:「部長、MですM、Wではありません!」

こんな会話がリアルに起きています。15カ月という納期が意味するものは何でしょうか? 購入を諦めてほしいという「ブロックサイン」なのかもしれませんが、PLCはソフトウェアやデバッグ装置も含めて、おいそれと置換はできません。

傾向を調べてみました

  • 制御エレキ部品の老舗O社はどうにもならない状態。
  • A社、K社の樹脂コネクターも同上。
  • 半導体系ではZ社の「FPGA」が全くダメ。

このFPGA(Field Programmable Gate Array:現場で書き換え可能な論理回路の多数配列)の功罪は前からエレキ設計者間で語られていましたが、出図時に回路が決定していなくても後から追っかけプログラムで回路構成が構築できるため、「取りあえず手配して後から回路設計する」的なことが可能なのです。

一昔前の出図時にプリント基板設計も確定できる回路設計の完成の必須性から逃れることができる訳です。悪い言い方をすれば「生煮え設計での出図が可能」ということになります。一方、プログラム変更だけで全く同じプリント基板アセンブリーがいろいろ流用できるという利点は認めるところです。これらから人気の半導体になりました。問題は1社寡占状態であることです。

自動機器のインフラであるSW(スイッチング)電源は、とにかくMade in Chinaがメーカーを問わずダメ。
唯一の救いは米国・欧州産のメーカーの納期が希望の持てる状態になってきました。捨てる神あれば拾う神ありという感触です。IoTなどに不可欠なCCDカメラと処理ボード(グラフィックボード)もダメです。

それと、以前から言っている「ちょっとローテク」部品が軒並みダメです。
例えば、リレーやスイッチです。以前はMade in Japanでしたが、付加価値低下の理由からどんどんアジア生産に移行させた揚げ句の結果です。

確かに生産コストは下がったのでしょうが、入手できなければ意味がありません。簡単ではありませんがBCPの手段として、これら部品の国内回帰も検討されるべきかもしれません。円安も後押しすると考えています。

こんなことを並べていくと「どうやって自動機を完成させるのか?」という疑問が湧いてきますが、改めて感じることは、
設計成果物の

  • 汎用(はんよう)性=特殊な部品を使わない、もしくは特殊な部品の確保
  • 代替性=代替可能な部品や代替を考慮
  • 共通性=流用化・標準化された部品・ユニット

の重要性です。

皆さんの会社の実情はいかがでしょうか? 恐らくそれほど大きな違いはないのでは? と想像します。

コロナ禍も第7波が猛威を振るい始めた中で、現場のエッセンシャルワーカーの皆さんもいろいろな制約が掛かり、ますます納期、原価に負担が掛かります。しばらくこのような状況が繰り返されることを前提に「設計部門の設計成果物のあり方を真剣に考えるべきだ」と思うのです。

これだけ納期に苦しめられて、結果SCMだけでは製造業ニッポンの困難を乗り切ることができないことが自明になった以上、ECM+SCMという全社効率改善への改革はDXの一環として必要なのです!

ぜひ下記リンクから再読してもらって、その重要性に気づいてください。

第115回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その47~中小中堅製造業のDXはこう考えよう!(1/2)

第116回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その48~中小中堅製造業のDXはこう考えよう!(2/2)

以上

次回は9月2日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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