第128回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その58~スケジューラーの需要が高まっている理由を探る~スケジューラーは生産部門を救うのか?~

高機能部品の異常納期が続く中で、特に工程管理を目的とするスケジューラーの需要が急に高まってきています。その理由と併せてスケジューラーの限界も考えてみましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その58~スケジューラーの需要が高まっている理由を探る~スケジューラーは生産部門を救うのか?~

関東地方が九州地方より早く梅雨入りしました。調べてみると直近70年で、たった5回だけの事象とのことです。線状降水帯の予報も始まりましたが、何か嫌な予感です。とにかく降雨災害が起きないことを祈るのみです。
最近、もっぱら「55ホッピー」で金宮を割っています。ホッピー発売55周年記念で数年前に発売された上級バージョンですが、最近売れているようです。ホッピーが広まるにつれて「チョットだけリッチに」という、ささやかなぜいたく指向がそうさせていると思っています。

スケジューラー需要急増の原因を探る

高機能部品の異常納期が続く中で、特に工程管理を目的とするスケジューラーの需要が急に高まってきています。

まずは、急増した需要先を調べてみると製造業の生産部門がほとんどです。
今、中小中堅製造業の生産部門でどのようなことが起こっているのか? 知人の会社も併せて調べてみました。

根本原因はやはり「高機能部品の異常納期」です。
数千万円の自動機が数万円する高機能部品の納期遅れのせいで「仕掛状態」として数カ月も工程に鎮座してしまっています。
出荷できないこの自動機の多くの部品購入費は半年以上前に支払い済みで、結果、会社のキャッシュフローを日に日に圧迫していきます。
ある日、待っていた高機能部品が「突然」納入されます。納入するベンダー側も納期確約は不可能で、米の配給制度のごとく、列に並んでいる順から納入することになり「突然」になるわけです。
「突然」にせよ、まずは喜ばしいことなのですが、生産部門には災難(?)が待ち受けることになります。

災難とは

経営層から「そうか部品が入ったか! 全力を挙げて完成出荷させろ!」という社命が生産側責任者(工場長、生産部長、工程管理部長など)に下るわけです。キャッシュフローを預かる側からすれば至極当然な指示ではありますが、生産部門責任者の困惑は避けられません。
さらに、経営層からの次の質問は「いつ完成出荷できるのか?」です。つまり完成納期宣言を迫られることになります。経営層と生産側責任者とは「月跨(また)ぎするのか、しないのか?」月末に向けての攻防が展開されます。

こんなやり取りを想像します。

経営側:何としても今月末までに完成出荷してほしい!
生産側:努力します。大丈夫だと思います。
経営側:大丈夫という「根拠」は何だ?
生産側:再度、工程組み直しました。この工程表を見てください。
経営側:これって、Excelのガントチャートをいじっただけだろ? 資金繰りもあって引き当て工数の実際も含めて数字としての裏付けと納得が必要だ! 今どきデータに基づいた予測は常識だ!
生産側:……

そうです、この「いつ完成出荷できるのか?」から始まって「数字としての裏付けと納得が必要」で生産側責任者はとどめを刺されるわけです。理不尽にも「社長だって勘と経験の権化だったじゃないですか」という言葉はのみ込むしかありません。

Excelのガントチャートで好き勝手に線を伸ばしたり縮めたりして「勘と経験(全て悪ではないが)」で作成していた工程計画表では生産側責任者の職務を果たせなくなることになります。

このような事情から「今どき、もう少しICTの力を借りて工程管理はできないのだろうか?」という発想は自然です。
そこで、スケジューラーというパッケージソフトに触手を伸ばすことになるわけです。しかし、「溺れる者は藁(わら)をもつかむ」といいますが「溺れる工程管理者はスケジューラーをもつかむ」という感じがしてなりません。

どうやら、この辺りがスケジューラー需要急増の原因といってもよいと考えています。

スケジューラーは万能ではないのだがExcelのガントチャートよりは根拠がある?

先述した、「何としても今月末までに出荷してほしい」という指示に応じて、危機管理的に工程設計することを「クリティカルパス(Critical path)」といいます。

ここで工程管理の原理原則は……

  • 目標完成納期に必要な工程工数・設備需要の集約と集計 ⇒ 山積み
  • 山積みされた需要を存在する(余剰)工数・設備に分配、引き当て ⇒ 山崩し

となります。

ただし、クリティカルパス工程の場合は、

  • 最善のケース:見込みどおりの進捗(しんちょく)
  • 最悪のケース:完成直近の不具合発生など(そもそも、これが本来のクリティカルパス工程となる)

の最低2パターンは考察する必要があるでしょう。

特に経営層には最悪のケースの準備を促す意味で「叱責(しっせき)」を恐れず率直に伝える必要があると考えます。

皆さんが想像しているとおり、最善のケースの「山積み」は標準工数や見積工数からそれ程難しくなく積み上がっていくと思います。しかし、最悪のケースをどのように見積るか? その想定によって「山積み」は大きく変化していきます。

悲観的に想定すればするほど山は高くなっていきます。この最悪のケースの設定は、生産側責任者にとっては大きな矛盾をはらんだ決断となります。

そして、さらなる難関は「山崩し」です。
山積みされた必要工数・設備に対しておのおの引き当てていくのですが、クリティカルパスを考える生産側責任者には悩ましい事柄が待っています。

その代表的な事柄を挙げてみましょう。

  1. 「何としても」の指示は他の工程を止めても良いのか否か?
    ただでさえ進捗遅れの全行程の現状をさらに悪化させる。
  2. 誰(どの生産ライン)を引き当てるのか?
    個人(生産ライン)的なスキル、習熟度に大きな乖離(かいり)があって、さらに1項の課題も相まって、その選択によっては引き当て結果が大きくブレる。
  3. 最終稼働試験時に不具合が発生した場合に担当設計者以外に不具合解消設計要員の支援を受けられるか?
    設計部門との調整が必要。追い打ちを掛けるように「設計担当者は他のシステムの現地設置でしばらく戻ってこられない」と聞く。

などなど

これだけでもクリティカルパスの結果は水晶玉で占うような気配です。
これまでも、Excelのガントチャート方式では工程管理に精通した(?)スタッフの「勘と経験」によって、どんぶり勘定とはいわないまでも「まーこんなもんだろう」と伸ばしたり縮めたりして見込みを作成していたのです。その意味で、個人的主観がその精度を握っていたわけです。

それではスケジューラーとExcelのガントチャートとは何が異なるのでしょう?
結論として、スケジューラーは大変正確です。何に対して正確なのか? といえば「マスター」と呼ばれる基本情報に対してです。

例えば、前述した悩ましい事柄に対応して考えると、

  1. 他のラインを全て止めた場合、半分止めた場合、止めなかった場合……おのおののケースのマスターが必要
  2. おのおののスキル、習熟度、さらに設備の生産能力など、パラメーター化して数値化する(定量分析が必要)
  3. 不具合処理に対し、担当設計者の場合とそれ以外の設計者支援の場合の処理能力の数値化。設計部長の「勘と経験」に頼る?

結果、おのおののマスターの精度がクリティカルパスの精度を握る直接的な因果関係となるわけです。
したがって、

  1. マスターの数値化(定量分析)精度が悪い
  2. マスターのケース設定(最善、最悪などいろいろな条件設定)が粗く、現実に起きる事象を捉えていない
  3. マスターが「勘と経験」で数値化されている

というマスターの基本情報環境下であれば、ジャンクイン・ジャンクアウト(ゴミを入れればゴミが出てくる)となり、ICTとしてのスケジューラーの恩恵は受けられなくなります。

端的に述べればスケジューラーをうまく稼働させるにはマスターの管理粒度と精度の充実が必須と断言できるわけです。「そんなマスター作成している暇はない」というならば、Excelのガントチャートとスケジューラーによるクリティカルパスの結果はあまり変わらないといえそうです。

一時期、スケジューラーを導入してもあまり効果がないという声をよく聞くことがありました。その当時、Excelのガントチャートはまずは目標納期から決まり、後追いで工程が設定されていました。そうです、日程が尻から決まっていくため、クリティカルパスの常識からは真逆の世界でした。それでも、それなりに成立していたのは天下の宝刀「気合と根性の工程」の存在だったと考えています。

「気合と根性の工程」とは

「休日出勤や徹夜を何度してでも納期守れ!」という暗黙のプレッシャーと実行が成立していたからです。「ブラック企業といわれようが、製造業ニッポンの気合と根性があれば何とかなった」ということだと考えています。
しかし、ここに来て残業規制や休日出勤禁止、さらにメンタルヘルスも加わって中小中堅製造業も「気合と根性」と「勘と経験」とではどうにもならなくなってきたわけです。

そうなると正攻法のスケジューラーという選択肢が増えることは理解ができます。しかし、マスターの管理粒度・精度あってのスケジューラーです。そう易々(やすやす)とは良い結果をもたらしてくれそうにもありません。

もちろん、これからの製造業ニッポンのあり方としては、スケジューラーというICTの力の恩恵を受けながら進むべきであると考えます。まずはスケジューラーの方が山積み、山崩しのシミュレーションが容易というようなレベルでの導入もアリとは思っていますが、スケジューラーがあればクリティカルパスは可能と考えるのは少々危険です。どこまで行っても「マスター」と呼ばれる基本情報の管理粒度と精度とが物をいうわけですから。

さて、皆さんの選択はいかに???

以上

次回は8月5日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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