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第127回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その57~Excelによる設計成果物の管理・共有の限界とは~いつの間にか「ひょうけいさん」が重たくなって動かなくなる~
中小製造業設計部門の現状診断を行う機会が増えていますが、設計成果物の管理・共有のツールとして多用されているのがExcelです。懸命に工夫を重ね、アイデアも盛り込んで運用してきたものの、管理や共有に限界が現れ、とうとう「ひょうけいさん」は重くなって動かなくなってしまいます。
設計部門BOM改善コンサルの現場から~その57~Excelによる設計成果物の管理・共有の限界とは~いつの間にか「ひょうけいさん」が重たくなって動かなくなる~
世界情勢が不安定な中、高機能部品の異常納期が続きます。つい最近、納期15カ月というPLCの見積書を目にしました。もはや、これは購入をあきらめさせるための数字なのではないでしょうか? 受注はあるが、生産できないという製造業の資金繰りを一方的に痛めつける状況が続いています。心配です。私にとっての高機能部品(?)であるホッピーは今のところ、お店に並んでいてくれますが、陳列本数をヒヤヒヤしながら眺めている今日この頃です。
Excel「ひょうけいさん」の機能改善と共に成長してしまった設計成果物共有ツール
設計部門への問診ともいえる現状ヒアリングを開始して、まず感じることは、たとえ「蛸壺(たこつぼ)設計」状態であっても「何とか流用できる設計成果物をうまく探したい」という意識が必ずといってよいほど存在することです。設計時間や出図納期に追い立てられながら設計している設計者としては当然の意識といえるでしょう。
ただし、検索する(探し出す)対象が個人なのか設計部門全体の設計成果物なのかの相違は、そのツールとしての存在意義や価値を全く異なったものとすることになります。
そこで、手っ取り早く、PCにインストールされているExcelをツールとして使い始めることになります。一昔前は、ピボットの多重利用やBookのページ数が増加してくると「固まって」しまいましたが、PCの処理能力が増すにつれ、疑似データベース(DB)的に活用することができ、付帯する機能向上も相まって可能となってきています。
しかし、ここに重要な分岐があって「蛸壺設計」おひとりさま用ツールなのか? 設計部門全体としての共有ツールとしての前提なのか? に分かれます。
おひとりさま用に関しては設計者本人の考え方や嗜好(しこう)で一人歩きしたツールとなりますから、自己完結型の「蛸壺設計ツール」で終わります。少なくとも設計部門内での共有は意識されていませんので、これ以上論ずることは止めたいと思います(時々良いアイデアを見ることはありますが、しょせんおひとりさま用ツールです)。
Excelで設計部門全体の共有を前提とした場合、ツールとしてどのような成長(?)経過をたどっていくのでしょうか。まずは社内データベースの共有フォルダーにExcel「ひょうけいさん」を置くところから始めて、有志(?)が集まって共有するための項目を侃々諤々(かんかんがくがく)討論して決めていくことになります。
項目の三種の神器は、
(1)品目コード、(2)図番、(3)属性情報
です。
(1)品目コード
品目コードを保持していることは素晴らしいのですが、ほとんどの場合「意味ありコード」です。したがって、モノの識別や検索には「この意味を積極的に使おう」という意識が働きます。ただし、「意味ありコード」のルールがあいまいで、苦し紛れに「その他」に分類されてしまっているモノが半分程度を占めている事例もあり、こうなると品目コードはその役割を果たすことができません。「意味ありなのに、『その他』が半分では意味ないですね」とイヤミを言っても始まりません。
(2)図番
図番を品目コード代わりに使っている場合もありますが、多くの場合、購入品はメーカーカタログのコードがそのまま品目コードの代わりとなっています。この場合、大きな混乱要素として「カタログコードの重複=同一部品が重複する」があります。
例えば「‐(ハイフン)」「_(スペース)」が入っている、入っていない、大文字か小文字か、半角か全角かなどの入力における人為ミスで同じ部品が異なるカタログコードとして存在してしまいます。それもなぜか同一部品なのに購入単価が異なる場合があります。まったく「知らぬが仏」とはこのことをいうのでしょう。
一方、社内で設計した主にメカ系部品の形状を表す図面は、設計者が流用の可否検討を行ううえでの重要情報として、最も確認したい設計成果物です。「何種類か流用できそうな部品を見つけたが、その可否の検証には図面は必須」ということです。したがって、その図面を仕舞い(しまい)込んであるファイル管理システムへの直接リンクを張るなどの工夫が必要となってきます。
もっとも、ファイル管理システムに図番をコピペして2画面操作で頑張っている例もありましたが……。
(3)属性情報
意味あり品目コードで表現できる限界は当然あるわけですから、「モノ」を表現する付帯情報としての属性情報は必須となります。サイズ、形状、用途、機能、客先、設計日、設計者、製番などなど、その粒度を細かくしていくと際限がなくなっていきます。
重ねて、メカ系部品とエレキ系部品とではその属性情報が大きく異なり、属性項目がドンドン増加して、「誰がこの項目を埋めるのか!?」という壁にぶつかってしまいます。そこで、何とか妥協できる範囲で止め、「まずは運用しながら整備しよう」という緩い案で始まります(だいたい整備されないで放置される)。
「三種の神器も決まったことだし」ということでExcelの中身を構築していくわけですが、どこまで行っても「ひょうけいさん」ですから、登録すればするほど行数は増えていき、「意味ありコード分類ごとにページ分けしよう」となります。
確かにページ当たりの行数は減りますが、Bookのページ数は極端に増えて、欲しいページタブを見つけるのに一苦労となります。タテがヨコに広がっただけです。当たり前ですがDBではありませんので、これが「ひょうけいさん」の限界です。そしてどんどん重くなっていきます。
もちろん、設計成果物の共有ツールが無い場合よりマシと考えていますが、その限界や弊害も次に述べたいと思います。
Excel「ひょうけいさん」による設計成果物共有ツールの限界とは……
限界をまねく原因としての四大項目を列挙しましょう。
(1)最新版ってどれ?
追加・削除(特にディスコン情報)などの日々の変化がしっかり反映されず、最新版なのか否かが不明です。特にひも付く図面やその他の情報の最新版管理が難しいことになります。したがって、「担当部品の最新版編集管理はしっかりお願いします」とルールを決めても個人努力の範囲で収まってしまい、多忙な設計者の余力に依存することになってしまいます。
結果は推して知るべしですね。
(2)個人増殖そして蛸壺設計ツールへ戻る
Excelはいくらでもダウンロードできますから、「会社のルールは使いづらい」という個人的動機でツールがダウンロードされ、自分流なツールとしてモディファイされて個人PCに存在することになります。そのため、結果としてこの当人の設計成果物は本来の共有Excelには反映されず、蛸壺設計ツールに回帰してしまうのです。
根本的には「誰がための設計成果物共有ツールであるべき」という精神的な側面の教育が必要となります。自分さえ楽になればという考えから「設計部門全体が楽になるには」という考え方への導きです。これは設計部長をはじめとする幹部のマネジメント力が問われます。
(3)共有するためのノウハウが必須
上記二つの課題を克服したとしても、時間が経過すればするほどExcelの規模は大きくなり「ひょうけいさん」は重くなっていきます。したがって、欲しいモノを検索して見つけるためのノウハウ、つまり「コツ」が必須となり、「うまく検索できる人は見つけられるがうまく検索ができない人は見つけられない」という共有不平等が発生してしまいます。特に新入設計者(年齢に関わらず、派遣設計者なども含む)には厳しい共有ツールとして映るでしょう。
結果、検索ができずに流用化設計が果たせず、類似部品が再生産されることになります。
(4)BOM構築のメリットが享受できない
Excelでもレベル表示を行うことでBOM「のような」表記は可能ですが、そこにはBOMの必要十分条件である「親子関係のひも付け」は存在せず、「BOMのような部品表」で終わってしまいます。これもDBではないことの宿命です。
しっかりとE-BOMを構築して下流側の生産管理に連携するようなDXとしての変革の機会が訪れた場合には、設計部門幹部はどのようなDXとすべきか? 腹をくくる必要があると考えています。BOMを正しく構築したいという動機が発生したのであれば、DXとしての次の選択肢は一義的に決まるということです。
設計者数人の時代にはExcelでも何とか共有できるのでしょうが、会社も成長して設計部門の人数も増加しているわけです。したがって、腹をくくる、つまり、どこかで「ひょうけいさん」とお別れする必要があるわけで、設計部門幹部層の決断力と行動力が問われるのです。
しかしながら、この決断を促すと、あらがってくる幹部層からよく耳にする言葉は「ちゃんとアタリをつけて検索すれば見つけられます」です。
この「アタリ」って何でしょう??
そうです! これこそが「コツ」であって、「だいたいこの辺りにありそうだ」という長年の経験値がないと検索できないという証しなのです。
少なくとも、新入社員や派遣技術者が数日レクチャーを受ければしっかり検索が可能になるような仕組みでなければなりません。
「ひょうけいさん」さようなら、「流用化・標準化設計プラットフォームさん」こんにちは!
Excelつまり「ひょうけいさん」に替わる仕組みとしての回答は「流用化・標準化設計プラットフォームさん」です。
この仕組みは本コラムの軸を成すもので何度も述べていますので、ここでは改めて述べませんが、DXというトレンドをイメージしながら捉えていくならば115回、116回のコラムの一読をお勧めいたします。
第115回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その47~中小中堅製造業のDXはこう考えよう!(1/2)
第116回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その48~中小中堅製造業のDXはこう考えよう!(2/2)
以上
次回は7月1日(金)更新予定です。
書籍ご案内
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