第126回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その56~ 個別仕様受注型製造業の将来を考える その2~その限界と生き残るためのDXとは~

自動生産設備設計製造業の受注体系は、個別仕様が今でも主流といえます。この「お客様の言うとおりに作ります」という製造業は将来も成立するのだろうか? という疑問と共に存在への危機感さえ感じるのです。「生き残るためのDXとは」という切り口で前回に引き続き「その2」として述べます。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その56~ 個別仕様受注型製造業の将来を考える その2~その限界と生き残るためのDXとは~

高機能樹脂・鋼板、半導体、レアメタル、そして、とうとう希ガスまで入手難が広がっています。さらに今後の改善が見込めない状態です。ロシアに対する経済制裁の「返り血?」を浴びる形で製造業ニッポンはますます窮地に追いやられそうです。
ホッピーの原料である麦芽にはウクライナ産も使われていると聞きます。大丈夫かホッピーよ!

個別受注型製造業の脱皮を難しくする最後の難関は営業部門の意識改革

前回(第125回)の記事では、DXという全社的な視野でまずは経営層の意識改革と個別受注型製造業がもたらす全社非効率を根本的に改善する具体的手段として、流用化・標準化設計の実現の必要性を述べました。

第125回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その55~ 個別仕様受注型製造業の将来を考える その1~その限界と生き残るためのDXとは~

それらの真意を理解していただけたことを前提として、今回は話題を進めたいと思います。

営業部門の「生態」

個別受注型製造業の営業部門の「生態」を、あくまでも一般論ですが眺めてみましょう。

顧客と自社とを結び、受注して自社に利益の源泉をもたらすことが主たる生業(なりわい)です。もちろん、設置や保守など、製品納入後も顧客との関係は継続するわけで、よくいわれる「CS」を維持するフロントエンドとしてのポジションは重要です。

では何が問題なのでしょうか?
それは、顧客との関係性と受注の取り方にあるといえるでしょう。

まずは顧客との関係性ですが……
おおむね対応する顧客は担当化されていて、A氏X社、B氏Y社、C氏Z社という形で「固定化」します。といいますか「固定化」されてしまいます。

前回の記事でも述べましたが、顧客側にその存在感をちらつかせる生産技術部門の「ご機嫌」を取りながら「ご愛顧」を賜るわけです。この辺りの対人関係構築能力は営業としても腕の見せ所でしょう。

しかし、この関係が顧客担当化を結果として固定してしまうのです。この固定化の延長線上の問題として、自社営業が顧客の利益代表に代わっていってしまうような状態を多く見ています。

例えば、仕様変更が起きて原価が変化した場合は、当然その分の追加請求を行わなくてはなりませんが、顧客の生産技術部門から「仕様変更分の予算はないから、何とか頼むよ! この機種きっとリピートあるよ!」と言われてしまえば、担当営業は手練手管(てれんてくだ)を尽くして「社内営業」に走り、原価上昇分をうやむやにしてしまいます。

この担当営業は顧客担当化の結果、その関係がドンドン深くなって、「このディープな関係こそがCSだ」と勘違いを始めます。私が常々述べている「CS=MS(Manufacturer Satisfaction:製造者満足=利益)であるべき」のMSを忘れて、「ご愛顧」に溺れていくのです。一方、経営層も「X社はA氏に任せておけば良い」という放任状態です。

受注の取り方では……
まずは「ご愛顧」賜っている顧客に対し、担当営業は開口一番「何でも言うことを聞きますから注文ください」とアプローチします。

顧客側も相見積りは必要なのでしょうが「価格も仕様も大丈夫なら、相見積りの面倒もなくなるし……」となるわけです。
顧客側から見れば何でも言うことを聞く営業マンなのですが、当然その分製造業としてMS、つまり利益を失っているわけです。

もう一つの負の側面は、仕様です。顧客から仕様概要を渡され、担当営業はそれなりに類似仕様の既製品を探します。ただし、残念ながらそれは担当営業の記憶の範囲にとどまり、全社的な類似仕様からの絞り込みはできません。しかし、ここには同情の余地もあります。全社的な類似仕様を検索できる仕組みがないわけですから、あくまで記憶の範囲にとどまってしまうのはやむを得ません。

従って、その範囲で仕様展開は進み、最終段階で設計部門に引き渡されます。ここで次のようなことがよく起きます。

「受注のカタチ」をいま一度考える

設計部門から「この仕様だったら、別顧客で作った。この製品の方が類似していて再設計の負担が減ります」との提案。担当営業の立場からしてみれば「いまさら担当顧客にそのようなこと言えない! このままの仕様で受け付けてくれなければ失注だ!」と返答するわけです。

設計部門はこの「失注」という脅迫(?)で凍り付くこととなり、渋々、多くの設計工数をかけて似て非なる製品の再設計を行うこととなります。下流側も似て非なる製品のモノつくりを余儀なくされるわけです。結果、全社効率は下がりMS確保とは真逆の状態へと突き進むことに……。

やはり諸悪の根源は「何でも言うことを聞きますから注文ください」という担当営業の受注方法にあると考えています。個別仕様という隠れみのを使って、受注確保の手段にしてしまうことにあるわけです。

しかし、この発想からの脱却と意識改革には手ごわい抵抗が待ち構えています。案外、この問題認識が経営層には希薄で、「受注のカタチ」が全社に及ぼす影響に気づきを得てもらうために時間を多く費やしてしまうことが多くあります。

その意味で、私がお預かりする製造業改革の最後の部門は営業部門になっています。DX=ECM+SCMと私は言っていますが、その前提となる「受注のカタチ」はDX全体の結果を大きく左右することとなります。

どのように営業部門改革を進めるべきか? マーケティングの視点から考えてみましょう

下に添付しました図表を参照しながら理解を進めてください。

まずは、各社の糧とする市場=マーケットを顧客の規模、テクノロジー、ノウハウなどを基にグレード化します。H(High end)とMH(Mid High)ML(Mid Low)とL(Low end)とに分けてみましょう。それをさらに単純化するためにさらに、H+MH層とML+L層に二分します。

前回の記事でも述べましたとおり、個別受注型製造業の全てを私は否定しているのではありません。MSなき個別受注型製造業から脱却すべきだと申し上げているのです。それを前提として考えます。

H+MHへの対応とは……

H+MH層、特にH層の顧客ニーズはその業界最先端に関わる仕様が要求される可能性が期待でき、それは新たなテクノロジーであったり、生産性の画期的な向上であったり、「お客様の言うとおり」に受注して最悪利益が出なくても、新テクノロジーや新たなノウハウを社内に残すことができます。これらは立派なMSだと考えています。

ただし条件があります。それは「お客様の言うとおりのフリ」で設計を進めるということです。この「フリ」とはまずは、担当営業が客先仕様に対し、DXで獲得した仕組みから近似・類似した機種を絞り込み検索することによって最適な機種を選択します。つまり最初のボタンを掛け違わないようにすることから始めます。

そして、コア技術の部分はできるだけ流用化・標準化設計で進めます。つまり、コア技術の部分は機種グレードに応じてグレード化(松・竹・梅 化)して新規設計をできるだけ抑えていく思想です。

ここのやり繰りをもって新テクノロジー対応機種で常態化している赤字を少しでも軽くすることができます。

従って、H+MHの顧客対応に関しては個別担当化の解消を図りながらMSの獲得という意識改革に対して営業部門の行動を変革してもらいます。

この変革に関してはおおむねの共感、同意が各社得られるところですが、やはり長年「ご愛顧」賜った担当会社との関係をリストラするには抵抗勢力が存在することも確かです。

経営層としてもMSを確保してもらえる営業部門としての生まれ変わりを期待して、ここは意を強くして対応してもらいます。

ML+L層への対応とは……

営業対応として最も大きな変化を求められます。
それはPUSH型営業に大きく営業変革してもらう必要があります。

今まで、「何でも言うことを聞きますから注文ください」から真逆の「お客様にはこの機種が適当です」への変革です。
予想どおり、営業部門の抵抗勢力は湧きたちます。「そんなやり方では売れなくなる」の一点張りです。

もちろん、この変革を促すためには、重要な条件があります。

それはML+L層に対し、そのニーズに対して「デファクトスタンダード」となる標準カタログ製品・機種を用意することです。

デファクトスタンダードとは具体的にはどのようなことでしょう?

ML+L層のニーズは業界標準である場合が多く、それらを満たすための仕様を備えている
標準カタログ製品・機種を選択するメリットを顧客側に与えられる(Win Winの関係)

  • 納期が早い(設置も早い)
  • 価格が安い
  • 保守部品が在庫対応

……などなど

結果、営業トークとしては「三割安く、三割早く、さらに保守部品は即納です!」となるわけです。
ML+L層の企業はどこも納期短縮やコストダウンを例外なく迫られています。そのためには多少の仕様妥協はあり得ると考えています。

このように、マーケット層に合わせて営業部門の対応を変革して、その変革を促すための必要十分条件として流用化・標準化設計を実現させる必要があるのです。

「我が社ではそのようなデファクトスタンダードは作れない」という声も聞こえてきそうですが、必要十分条件と述べた以上、厳しいようですが「そうであれば御社の将来は大変厳しい」と申し上げるしかありません。

ただし、今までのお預かりしていた会社の中には「デファクトスタンダードは作れない」と思い込んでしり込みをしていた例や、経営層の強いリーダーシップによってデファクトスタンダードを実現した例もあります。

繰り返しになりますが「中小・中堅製造業のDX=ECM+SCMの実現」と提起しています。そこには顧客とのフロントエンドである営業部門のDXも含まれたものであり、全社DX最後の仕上げとしての課題であることを理解してほしいと思います。

製造業ニッポンが得意としていた個別仕様受注型製造業ですが、その生存環境が大きく変わろうとしています。
モノ不足も重なって技術力だけでは、生き残りを図ることができなくなってきているのです。限られたモノ資源でどのように顧客の仕様に応えていくのか? その解としてDX=ECM+SCMをかなえる変革としての流用化・標準化設計なのです。

以上

次回は6月3日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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