第125回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その55~ 個別仕様受注型製造業の将来を考える その1~その限界と生き残るためのDXとは~

特に自動生産設備設計製造業の受注体系は個別仕様が今でも主流といえます。この「お客様の言うとおりに作ります」という製造業は将来も成立するのだろうか? という疑問と共に存在への危機感さえ感じるのです。「生き残るためのDXとは」という切り口で2回に分けて述べてみたいと思います。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その55~ 個別仕様受注型製造業の将来を考える その1~その限界と生き残るためのDXとは~

オミクロン株や他国侵攻という厳しい現実が存在する決して安穏な世界ではありませんが、それでも日本では桜が開花しました。
もちろん、私は「花よりホッピー」です。そんな三冷ホッピーを片手に桜を愛でていると「何とかなるのかなー」とポジな気分になるのはどうしてでしょうか?

個別仕様受注型製造業の将来を危うくするものとは?

自動生産設備設計製造という製造業ニッポンの生産効率を向上させる縁の下の力持ち的な立ち位置で頑張ってきた製造業は、その特性から顧客仕様をかなえるために、自(おの)ずと「個別仕様」に対応することになります。

私も個別仕様受注型製造業の設計者として存在していましたので、その当時を振り返ってみますと……
その個別仕様の要因はさまざまで、主に以下となります。

  • 工場のレイアウトや面積に合わせるため
  • 扱う「ワーク(被加工品)」の物性や形状、処理工程雰囲気に、ワークの取り合いも含めて仕様に合致させるため
  • 生産タクト(時間当たりの生産量)との同期や周辺機器との調歩という顧客の個別事情のため

この辺りまでは「案件ごとに個別仕様になってしまうかも?」と同調してもらえると思います。

しかし、これでは終わらず、案外厄介なのは……
顧客生産技術部門の「拘(こだわ)り」仕様です。

これは筐体(きょうたい)色から始まって、どうしても織り込みたい生産技術のオタク仕様には私もずいぶん手を焼いた記憶があります。
生産技術部門の存在価値をアピールすることを目的とした厄介オタク仕様です。案外これが原価食いとなって、良いことは一つもありませんでした。

それでも、「まー、粗利が6割残ったから良しとしよう」という妥協が可能でした。
そうです「お客様の言うとおりに作りますから、利益を十分頂きます」という商売が30年前はできていたのです。

部品・材料も設計者ごとの「蛸壺(たこつぼ)」設計から、使い慣れた部品・材料を好き勝手に「野放図」状態で採用されることになります。「Japan as No.1」ともてはやされ、競争相手が少なかった製造業ニッポンは、世界中から自由に部品・材料調達ができました。

このような状況下で、個別仕様受注文化は定着していったと考えています。

ここで、そろそろ現実に戻りましょう。

2020年のコロナ禍から始まり原油高や原油調達危機、さらにEVトレンドによる半導体不足やそれを補うための半導体生産設備の増産ラッシュがもたらす、高機能樹脂・鋼板、精密部品、PLCなどの奪い合い、昨年から部品・材料調達状況はドンドン悪くなっています。

いつ納入されるのか? いくらなのか? 全く分からないといった製造業としては最悪の状態が続いています。
既に納期保証ができないことを理由に、「受注遮断」に踏み切った企業もあります。

「仕事があるのに断る」という事態は経営判断としても断腸の思いでしょう。期初予算を上回る受注状況なのに、それを断らなければならない。結果、業績は間違いなく悪化します。あまりにも悲しい事態です。

そして、このような状況がどうやら一過性ではなさそうだという予想もできるようになって、「お客様の言うとおりに作ります」という個別仕様型製造業の将来には暗雲が漂い、視界不良になってきました。

それらへの対応策は、経営層として考えることは当然必須なのですが、その前に、まずはこの経営層のマインド改革が重要であると考えています。

「個別仕様をかなえるのが我が社の使命」という頑(かたく)なな考えからの脱却

顧客が求める仕様をかなえることを生業(なりわい)とする製造業の存在は、それに必要なノウハウの存在と共に私も認めるところです。
ただし、そのためには一つだけ条件があって、それは「商売」として成り立っていることです。

「顧客の仕様は満足させましたが、利益は赤字でした。納期も大きく遅延して、遅延補償を要求される始末です」という結果に陥っている企業を最近多く見ます。

そのような深刻な状態の企業の経営層と会話を持つ機会がありますが、案外、危機感は希薄で、個別仕様をかなえる製造業としてだけの存在にその使命感や存在感を感じて、満足してしまっているケースが多いのです。

そのような企業の場合、各社得意とする「コア技術」があって、それらを中核にして顧客ごとに似て非なる設備機器が展開されるのです。そして、漫然と何十年もそれらが繰り返されてきたのです。

結果、自社の製品の実態も把握できずに、仕様書が届くたびに設計部門は再び一から図面を描くこととなり、似て非なる部品が再生産されて、生産部門は繰り返し生産からのモノつくりのPDCAを回す機会を与えられることなく、似て非なる製品の都度、新規対応を迫られることになります。このような状態が商売としての利益をむしばんできたのです。

この状態に疑問を持つことができた経営層は、先述した部品・材料逼迫(ひっぱく)や「蛸壺」設計の現状を受け入れて、限られた部品・材料で製品を生み出す重要性に気づくわけです。「コア技術が一緒なのに、なぜ毎回似て非なる部品・ユニットが必要なのか? 流用化・標準化できるところは、そうすべきだ」という気づきです。

経営層のマインドセットとして、

顧客の仕様に合わせる=都度、新規設計(図面)が発生してもやむを得ない。それが当社の使命、存在意義だ

から脱却して、

顧客の仕様に合わせる=同じコア技術なのだから、できるだけ流用化・標準化を試みるべき。結果、納期を確保して適正な利益を得る

へのシフトです。

このマインド改革は必須なのです。この経営層のマインドセット形成ができて初めて設計部門は「蛸壺」設計から流用化・標準化設計への脱却が可能となるのです。

流用化・標準化設計というECMを可能にするDXへのチャレンジ

経営層の新たなマインドセットがトップダウンという形で設計部門改革に導きます。
実際のECMを可能にする流用化・標準化設計についての考え方は、115回と116回のコラムを再読ください。

第115回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その47~中小中堅製造業のDXはこう考えよう!(1/2)

第116回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その48~中小中堅製造業のDXはこう考えよう!(2/2)

顧客の言うとおりに製品を生産することに「自社技術の存在」を感じていた経営層が多くあって、結果、現状の厳しい環境に対応できずに苦しんでいます。一方、設備を発注する顧客側にも変革の波は容赦なく押し寄せて、先述した顧客側生産技術部門のオタク仕様などという要求も減り、「一刻も早く、安く設備導入せよ」という社命が下っています。

この環境変化を味方に付けて、流用化・標準化設計の実現から生産部門の繰り返し生産を可能にして、全社効率を上げるべきです。

流用化・標準化設計を実現させて、限定した部品・材料をうまくとりまとめ、結果、年間所要量を見通して早めにそれらの確保を試みる購買活動が求められています。

懲りずに相変わらず顧客別製番ごとの都度発注を繰り返しても、注文書数が増えるだけで、外注やベンダーからは優先順位は後回しにされ状況は悪くなるばかりです。

受注を遮断するような状態に陥ることを防ぎたいのであれば、それ相応の全社改革は経営層のマインド改革も併せて必要です。今、まさにDXとしての全社改革を実行すべきなのです。
個別仕様受注型製造業が生き残る術はここにあると考えています。

次回は「その2」として、顧客と直接対応してきた営業部門の改革と個別仕様受注型製造業としてのマーケットに対する考え方を述べてみたいと考えています。

以上

次回は5月6日(金)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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